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    いちか

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    ユリウスの髪と瞳の話

    来客の気配に机に向かっていたユリウスは、漸く目の前の書類から目を離して軽く伸びをする。強張っていた肩と首を回し席を立とうとすると、いつの間に誰かが部屋へと入ってきていたのか頭の上から乱雑にブランケットが掛けられた。
    公爵家の嫡子であり、仮にも王族の血を引いている自分をこんな風に扱う相手なんて一人しかいない。

    「……何だい、急に」

    ブランケットを剥ぎ取りながら不満気に呟くと、矢継ぎ早に叱責が返ってくる。


    「また徹夜か?何日目だ?研究熱心なのは構わないが、親友殿がいくら大丈夫だと言ってももう許さないぞ。いい加減寝てくれ!」

    目の前で腕を組んで仁王立ちしているのは案の定アルベールであった。窓から差し込む陽の光がその金糸に反射して光の粒を零す。眩しさに目を細めると、それを拒否と受け取ったのかまた声が荒くなる。以前、ガミガミおじさんと例えたが、その質は全く変わってないらしい。

    「流石に天雷剣に選ばれた君には嘘が吐けないねぇ」

    揶揄するように首を傾げると、彼は柘榴石の様な瞳を瞬かせる。

    「嘘?……ユリウスは直ぐに身体に出るだろう?」

    剣を握り慣れた少し武骨な指先が、ユリウスの頬を掠め、髪の束を梳いた。

    「やっぱり、紅みが少し減っているし濁っている。それに……」

    こつん。熱を測るように合わさった額。鼻の触れる距離で、アルベールは語る。

    「こういう時のユリウスの瞳は、いつもより暗くて、すみれの色に似ている」

    だから、くれぐれも無理はしないでくれ。耳元で、そう安息を願う祈りの声がする。不思議とそれだけで身体の力は抜けてしまうらしい。急に瞼が重くなるのを感じる。

    「では、そうさせてもらうよ」

    背中に腕を回してユリウスはそっと瞳を閉じた。枕にするなと、暴れるような感覚はあったが、睡眠導入剤を得た今、そんなことはもはや関係なかった。
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