ユリウスの隣では、今猫が鳴いている。というのは物の例えで、実態は完全に酔ったアルベールがその肩に凭れ掛かって管を巻いているに過ぎない。
「今日は随分とペースが早いじゃないか」
「…………誰のせいだと思ってる」
手にしていた葡萄酒のグラスを置き、空いた手で柔らかな金の髪を撫でると、それにじゃれつくように伸びた両の手が掌を掴んだ。
「またつまらない焼き餅を焼くのかい?」
「……なら、団長とあまり懇意にしないでくれ」
掌に彼の唇が触れる。それから吐息がかかった後一際大きく口付ける音が響いた。指の付け根に舌を這わせ、ともすれば口淫を施す様な蕩けた瞳で此方を見上げる。
「お前が、俺の知らない顔ばかり見せるんだ。不安にもなる……」
こんな事まで吐露するなんて、矢張り酔いの回りは酷いらしい。
「環境に抑圧された生活を送っていたから、今になって漸く素を出せるようになった」というのがユリウスからすれば正しいのだが、その過去の姿と長年付き合ってきたアルベールからすれば計略を巡らすわけでもない微笑を方々へ振り撒くのが気に入らないのだろう。今も昔も自分の落ち着く場所は彼の傍であることに変わりはないのに。
「それはどうかねぇ」
「……………ん、ぅ」
ほんの少し身体が離れたのを見計らって、その唇を塞ぐ。血色の良い体と同じく、侵していく咥内も十二分に熱っていた。暫く抵抗すら意に介さず舌で蹂躙し、完全に蕩け切ったのを確認してから躯を離した。
「ぅ………ふ、ぁ……っ」
酸素不足に瞬く視界の中、アルベールの濃紅の瞳はゆらゆらとユリウスを探す。ぱちり、ぱちりと瞬く度に瞳孔は此方へ像を引き絞っていく。
「私が今どんな顔をしてるか理解るかい?」
頬を両手で掴んで囁く。
こんな情慾に塗れた瞳など、今此処に居る彼にしか見せる訳がない。