一心不乱に本を読み耽る背中にアルベールは極力足音を立てずに近付く。そうして、ふわりとその首に腕を回し、肩に顎を乗せた。
「急にどうしたんだい?」
ユリウスの問い掛けにアルベールはそっと頬を寄せて、腕に力を込める。
「どうだ?落ち着いたか?こうするとその日に受けた嫌な思いが無くなるらしいな」
「そうだねぇ……」
呼吸と喉の音を傍らに、ユリウスは本を片手に持ち替える。空けた手でその顳顬辺りを後ろ手にわしゃわしゃと撫でると、彼は擽ったそうにくすくすと微笑った。
「折角なら、此方からの方が効果が出やすいと思うのだが如何かな?」
机に本を置き、両腕を広げて提案する。
「……そういうものなのか?」
「そういうものだよ」
大した意味もない只の抱擁だ。それなのに躊躇いがちに腕を解き、ユリウスを真向いにしたアルベールは気も漫ろに再び腕を伸ばす。
「うん。此方の方が温かくて落ち着くね」
「………………」
ユリウスが捕らえて腕の中へ招き入れると、おずおずとその手が背中へと滑る。
瞳の端で見遣るアルベールの表情は困惑に染まっていた。
触れた布越しの肌は、鼓動をそのままに伝え、熱は熱のままじっとりと二人の間の空間に籠もる。
「…………俺は、落ち着かない……」
蚊の啼くような声がして、ユリウスの指先は更に熱を持つ場所へと導かれた。