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    anna_usagisan

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    anna_usagisan

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    誘拐事件がなく勉強漬けの日々で医者となったあすくのお話。
    受けに対してちょっと夢見がちな印象を持つ攻めと、運命の再会シチュが好きで、あまりにも見たくて衝動で書きました。
    文章変なところあるかと思いますが、ご容赦ください。
    子あすくは大体小学5、6年生くらいのイメージです!
    完全ifのお話なので宿のお話も終焉陸のお話もないです。

    #贄の町
    townOfSacrifice
    #二次創作小説
    secondaryCreativeFiction
    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #あす日
    tomorrow

    ifあす日 緑青あすくは幼い頃、妖精さんに恋をした。
     たった二日間だけ遊んでくれた、同い年くらいの男の子。
     太陽のような笑顔、ちょっと音量がデカいけど弾けるような明るい声、たくさんの人に好かれそうな優しい性格。
     出会ったのは、あすくが公園で一人で遊んでいた時だった。
     勉強ばかりで友達がいなかったから、まさか声を掛けられるとは思わなくて、その子が誘ってくれた時はすごく驚いた。
     でも流れるように一緒に遊んでいると時間を忘れてしまうほど楽しくて、あすくはすぐにその子のことが気に入ってしまった。
     帰る時はまたな!と言ってくれたから、次も遊んで、いつか友達になってくれるのではないか、あすくはそう期待していた。

     なのに、男の子はあすくと二日遊んだだけで忽然と姿を消してしまった。

     まるで、あすくの夢の中に現れた気まぐれな妖精だったのではないか、と疑うほど一瞬の出来事。
     自己紹介していなかったことを、後々になって酷く後悔した。
     けど、その男の子はいつも颯爽と現れては、体に羽が付いているのでは? と思うくらい瞬く間に帰ってしまうような子だった。
     聞くタイミングも無く、あすくの前から消えてしまったのだ。
     だからあすくは、その男の子を妖精さんと名付けた。
     名前も知らない妖精さんと遊んだことは、医者に就いた後も、今でも鮮明に記憶に残っている。
     夢みたいなふわっとした出来事だったが、当時寂しかったあすくにとっては、人生が変わったといえるほど救われた出来事だった。


     妖精さんがいなくなってすぐに、あすくの日常はあっという間に勉強一色になった。
     代々医者家系の緑青家。親のしいた人生のレールを走り、中学、高校は私立の進学校に進んで、大学は有名な医学部を卒業した。
     そこから数年、父親の病院でがむしゃらに働いた。
     緑青家の跡取りだからと様々なことを覚えさせられ、重責も押し付けられ。
     毎日潰れそうになりながらも、ただ目の前のことに猛進した。
     だが、そこからさらにあすくを苦しめる出来事があった。
    ――病院内の派閥争い。
     父の方針に逆らうやつがいて、そいつに賛同した他の医者たちが結束し、見事に父派と敵対する医者派とで分裂してしまった。
     ドラマの中だけの話でしょ、と思っていたのに全然そんなことはなかった。
     しかも敵対する医者には息子がいて、あすくよりも数年長く緑青病院に勤めている優秀な医者だった。
     そいつは腕は確かだが、実はかなり性格が悪いということで有名だった。
     良い実績は残していたから、誰もその性格を咎めたりはしなかった。――いや、出来なかったのだ。
     派閥争いなど面倒ごとには巻き込まれたくない。誰だって思うだろう。
     そうして父に敵対する医者とその息子が頭角を表し始めてから、病院内の裏側は地獄になった。
     親子揃って緑青病院を陰から支配しようと、色んな画策が降りかかった。そして緑青家の跡取りであるあすくには一番当たりが強かった。
     患者の取り合い、息子からの跡取りマウント、いい大人とは思えない執拗なイジメ。
     父には毎日怒られ、「なんであいつに勝てないんだ?お前は出来損ないだ」と罵られた。
     不安で夜も眠れず、枕を濡らす日々が続いた。
     ふと、自分は何の為に医者になったんだろう、と考えた。
     自分にとって憧れの、理想像はあった。
     いつだったか誰かに言われた、
     医者は、救いや助けを求めている誰かの役に立つためにいる。見返りなんて求めず、ただ人のために……。
     それは偽善だ、と言う人もいるだろうが、自分にはすごくしっくりきた。
     決して驕らず、たくさんの人に必要とされる医者になろう。あすくはそう決意して、遊ぶことも我慢して勉強に励んでいた。
     でも、いつから変わってしまったのだろう。必死過ぎて全然気づかなかった。
     いつの間にか、親の期待に応える為だけに医者になっていた。さらにあすくの周りの医者は、自分の地位のために周りを蹴落とすようなやつらばかり。
     自分は何のためにここにいるんだ? 改めてそう気づいた時、固く押さえつけていた精神が一気に崩れゆくのを感じた。
     ひび割れた水道管を何度もテープで補強するように、その場しのぎで押さえ込んでいたのに、水道管はついに破裂した。
     少しずつ漏れ出ていた水はついに止められず、あすくの心は壊れた。
     父に怒られるのも、ライバル息子からのイジメにも耐えられなくなり、半ば強引に退職届を父に押し付けた。
     今まで見たことがないほど父は怒り狂って、その場で退職届をビリビリに破られた。
     その時あすくの頭の後ろで、プツンと何かが切れる音がした。
     涙腺も切れて涙がボロボロこぼれ落ちた。
    「ふざけるな! 俺はお前の操り人形じゃない!!」
     半ば泣き叫びながらそう言い放って、病院を飛び出した。
     稼ぐだけ稼いで、使いどころもなかった貯金を全部持って家を出た。
     もう自分のことを否定するやつらと一緒にいたくない。誰も自分のことを知らない場所に行きたい……。
     そんな思いであすくは逃げた。


     やがて生活し始めた場所は実家から遠く離れた町。
     少しでも家賃を安く済ますのに、古いこじんまりとしたマンションの1DKの部屋を借りた。
     しばらくは働く気も起きなくて、引きこもりのような生活になった。
     髪は伸びて、前髪は下ろすと前が見えなくなるから縛ってちょんまげにし、目が悪いからとメガネをかければ立派な陰キャスタイルが完成。
     そしてあり余った貯金を使って幼少期に禁止されていた漫画、ゲームなどを狂ったように買っては見るという日々を過ごしていた。
     なんとなく持ってきてしまった携帯には、親からの連絡は一切なかった。
     代わりに頻繁に連絡をくれたのは、幼馴染の春千代だけだった。

     春千代はあすくの婚約者だった。
     幼い頃はあすくが勉強ばかりで友達がいなかったことを気にしてくれていた。
     でも女の子が仲の良いグループから抜け出して男の子と遊ぶというのはなかなか勇気がいるもの。
     だからあまり一緒に遊んだりすることはできなかった。
     一応婚約者として幼い頃から過ごしていたが、春千代には好きな人がいた。
     あすくは春千代のことは好きだったが、女の子としてというよりかは人として好きだった。
     正直春千夜との結婚は想像できなかったから、お互いちゃんと好きな人と結婚したいね、と笑いながら言い合っていた。
     あすくの逃亡をきっかけに婚約は破棄となったらしいが、こうしてたまに連絡をくれる。
     あすくの家や病院の詳しいことは、春千夜の口からは出てこなかった。
     とりあえずご飯を食べているか。病院なんてもう気にしなくていいからゆっくり休んで、好きに生きなさい。などなど。
     純粋に心配してくれているなと分かるから、たまに連絡をくれるのはかなり救われた。


     家から逃げて半年ほど経ち、あすくの心も少し落ち着きを取り戻していた。
     三ヶ月ほど前に髪は切ったがまた伸びてしまい、ちょんまげメガネスタイルは相変わらず。
     漫画やらゲームをして過ごしているのも変わらずだったが、貯金だって無限にあるわけではないから、いつかはまた働かないといけない。
     でも今のあすくには医師免許と豊富な医療の知識がしか無く、他には何もない。
     働こうにも病院や医療関係の仕事しか選択肢がないのだ。
     もし、次に働く病院もまた汚い感情で埋め尽くされている場所だったら……。
     そう考えると不安に苛まれてまた眠れなくなるし、転職活動する勇気も出なかった。
     そんな不安な時はいつも思い出す。夢のようなあの出来事。
     妖精さんとの思い出。



    「なぁお前、一人なのか?」
     公園の砂場で一人、黙々と遊んでいたあすくに話しかけたのは、見知らぬ男の子だった。
     癖っ毛のあすくとは正反対のサラッとした髪の毛に、Tシャツと短パンに黒いランドセル、元気な小学生という単語がとても似合いそうな少年が立っていた。
    「別にいいでしょ……」
     あすくはムッとして答えた。
     しょうがないじゃん……。たまに家を抜け出して公園にきても、勉強ばかりで友達がいないから一人で遊ぶしかないんだよ……。
     男の子は隣にしゃがんできて、あすくが作っている砂の塊をじっと見つめた。
    「これ、お菓子の箱か?」
    「はぁ? 城なんだけど……」
    「これが城!? 低すぎだろ! 城ってさぁ、もっと」
     こうじゃね? そういって男の子はあすくの城の上に砂をバサっとかけた。
    「あぁ! 何するんだよ!」
    「いいから、いいから! 見てろって!」
     そう言って男の子は慣れたような手つきで砂を固めていき、
    「し、城だ……」
     気づけば立派なお城が出来上がっていた。
     あすくは目を丸くして城をジーッと眺めていた。
    「すごい……」そう言って男の子に視線を向けると、彼はふふんと自慢げな顔をして笑っていた。
    「次は一緒に作ろうぜ! もっと立派な城にしよう!」
    「え……」
    『一緒に』そのセリフにあすくは驚いた。
     今まで一人で遊んでいても、誰もあすくに声をかけようとする子がいなかったからだ。
     中にはあすくの同級生もいた。それなのに、名前も知らない子から誘われるなんて奇跡のような話だ。
    「え、ごめん。もしかして嫌だったか?」
     男の子が眉尻を下げて問いかけてきた。
     彼はあすくの一人遊びを邪魔してしまったのかと思って謝ったのかもしれない。
     あすくは勢いよくぶんぶんと首を横に振った。
    「嫌、じゃない……」
     すると、男の子は嬉しそうにはにかんで笑った。
     今日は雲ひとつない綺麗な青空が広がっていた。
     青空の中にある太陽と同じくらい、男の子の笑顔はキラキラと輝いていた。

     ひとしきり遊んでいると、男の子が「あっ」と声を出して、公園の入口を見た。
    「兄ちゃんが迎えにきた。今日はありがとな! また来る! じゃあな!」
     そういって男の子はあっという間に駆け出していった。
    「え、ちょっ……」
     公園の入口では中学か高校生くらいの男子が、微笑みながら男の子を待っていた。
     男の子はもう一度あすくに、またな!と言って手を振り、兄らしき人と手を繋いで帰っていった。
     男の子が去ってしまった寂しさはあったが、それ以上に嬉しさが大きかった。
     初めて、話しかけられた。一緒に遊ぼうと誘ってくれた。
     しかも、会ったこともない。名前も知らない子に。
     そこでハッと気づいた。
    「名前、聞いてない……」
     男の子はまた来る、と言ってくれた。
     次会えたら、名前聞けるかな……。


     次の日の学校終わり。
     あすくは公園のベンチに座って空を眺めていた。
     すると、
    「おっ! いんじゃーん!」
     昨日の男の子の声が横から聞こえてきて、声の方へと振り向いた。
     走りながらニコッと笑顔を向けられ、あすくも釣られて頬が緩む。
     昨日と同じように、二人は砂場で立派なお城を作ったり、遊具を使って遊び回ったり、
     ひとしきり遊んで疲れたら、ベンチに座ってお互いのことを話したりもした。
     勉強ばかりで遊ぶ時間も遊んでくれる友達もいない、という話をすると、男の子はまじか……、と呟いた。
    「お医者さんになるって大変なんだな……」
    「うん……」
     ほんとはやめてしまいたい。皆みたいに鬼ごっこしたり、友達の家に行ってゲームだってしたい。
    「でもさ、それだけ勉強しないとお医者さんにはなれないんだろ? それにお医者さんってすげーよな! どこが痛い、とか気持ち悪いとか言ったらすぐに分かるんだもんな」
    「まぁ、そうだね……」
     お医者さんは、すごい。それはあすくも思う
    「お前みたいなやつだったら、優しいお医者さんになりそうだよな! 大人になって俺が病気になったら治してくれよ!」
    「え、俺が、優しい……?」
     そんなこと、初めて言われた。親にすら言ってもらえたことはなかったのに。
    「あぁ、昨日と今日しか遊んでないけど、優しいやつだって分かるよ」
     男の子はそう言って空を仰いだ。
    「……でも勉強ばっかりは嫌だよな。俺勉強苦手だから、一日中勉強しろとか言われたら死んじゃうよ」
    「うん……。もう、嫌だよ……」
     あすくはしゅんとして下を向いた。
     いつまでこんなこと続くんだろう。大人になっても俺は遊ぶことができないのかな……。
    「下向くなよ……」
     そう言われて男の子の方を向くと、優しい微笑みと視線が合った。
     綺麗な目……。
     あすくにはキラキラして見えた。
    「俺にはなんにも出来ないけど、こうして遊び相手とかならしてやれるからさ。お前に辛いことあったら俺すぐに行くぞ! 嫌なこと全部言ってくれよな!」
     周りの子は勉強ばかりのあすくをまるで異端のように扱うから、話しかけようともしなかった。
    ――初めてだった。話しかけてくれた上に、こんな嬉しいことを言ってくれる相手に出会ったのは。
     心がフワッと温かくなった。
     こんな感覚も初めてで、あすくは戸惑いながらも、心地良いふわふわとした高揚感に包まれていた。
    「うん……ありがと」
     嬉しさを隠さずにニコッと笑うと、男の子は一瞬目を丸くして、再び笑顔になった。
    「ははっ、お前笑ったら可愛いじゃん!」
    「か、わっ……! 俺、男なんだけど……」
     可愛いなんて言われたのも初めてで、なんだか恥ずかしくなり顔が熱くなった。
    「いいじゃん! ムスッとしてるより全然いいだろ!」
     そう言って男の子はおでこを、あすくのおでこにピタッとくっつけた。
     男の子のキラキラした瞳が視界いっぱいに広がった。
     今、お互いが見えている景色にはお互いしか映ってないんだと思うと、なんだか嬉しくなる。
     彼がそばにいるなら、勉強ばかりでも頑張れるかも……。
     あすくはそう思ってふふっと微笑むと、男の子もへへっと微笑みを返してくれた。

     それからまた男の子に引っ張られるまま遊んでいると、男の子は公園の入口を見て「あっ」と声を出した。
    「あ、兄ちゃんだ! 俺帰らなきゃ、じゃあまたな!」
    「えっ……うん、また……」
     男の子は迎えにきてくれた兄を見つけて、あっという間に駆け出した。
     忙しいやつだな、と思った時、また男の子に重要なことを聞き忘れてしまったことに気づいた。
    「名前、また聞けてない……」
     あすくははぁ……、とため息をついて、夕焼け空を見上げた。
     次会えたら絶対に名前聞いてやる。どこに住んでるのかも聞いて、家でゲームとかして遊んでみたいな。


     あすくはそう意気込んでいたが、次の日からその男の子は公園に来ることはなかった……。


     なんで、来てくれなかったんだろう……。あれから何日も公園に出向いたが男の子の姿はなかった。
     さらに頻繁に家を抜け出していたことが父親にバレて、公園にすら行かせてもらえなくなってしまった。
     自分がいない間にあの子が来ていたらどうしよう、と不安だったが、監視の目は厳しすぎた。
     ついに行けたのは中学生に上がってから。それから毎日、そして高校生になってからも通りがかっては見るものの、彼らしき人物は見当たらなかった。
     それでも、いつかまた会える……。そんなわずかな希望を持って、医者としての理想も掲げて必死で頑張った。
     頑張って頑張って、ついに壊れて、今でも彼には会えぬまま……。
     一緒に遊べて楽しかったのに、初めての感情をたくさん教えてくれて嬉しかったのに……どうして何も言わずにいなくなっちゃったの?
     あの子のことで分かるのはお兄さんがいるということと、ちょっと離れた町に住んでいるということだけ。
     探そうにも引っ越してしまっている可能性がある。今こうして自由の身になったとしても、探す手立てはなかった。
     もう一度出会うためには、偶然を祈るしかない。
     それは砂の中から一粒の小さな宝石を見つけるぐらい、難しいことだろう……。
     絶望でしかなかった。

     会いたい、会いたいよ……。
     あの笑顔で笑いかけてほしい。またおでこをくっつけて温もりを確かめたい。キラキラした瞳がいつも自分を見てくれたら、どれだけ幸せだろう……。

     助けて……俺の妖精さん。辛いことがあったらまた来てやるって言ったじゃないか。
     今までだってたくさん辛いことはあったのに、妖精さんは来てくれなかった。
    ――嘘つき。
     そういって詰ってやりたいのに、でも会いたくて、この手を引っ張ってほしくて、助けてほしくてしょうがない。
     妖精さん……、妖精、さ

     ピンポーン

    「――っ!」
     来客を告げるチャイムの音にビクッと体が跳ねた。
     ベッドでボーッとしているうちに寝てしまい、昔の夢を見ていたらしい。
     そいえば、通販で生活用品を買っていたな。届いたのかも、と思いあすくは立ち上がった。
     さすがにちょんまげは恥ずかしいから、髪留めは取ってわしゃわしゃと前髪を直しながらドアホンに向かって声をかけた。
    「……はい」
    「こんにちわー! ニエマチ運輸でーす!」
    「……はい」
     このマンションのドアホンはカメラは付いているが古くて画質が悪く、おまけに配送の人も帽子を被っているせいか顔がよく見えなかった。
     ずいぶん元気な人だな……。かなり低めの声だが、弾けるようで、明るくて……。嫌いじゃない。
     寝起きでボーッとそんなことを思いながら扉を開けた時、フワッとした風が外から入ってきた。
     春の陽気な匂いに混じって、爽やかな香りも漂ってくる。
     なんかいい匂いがする、と配達員さんを見た瞬間、あすくの息は止まった。
    「――っ」


    「こんにちは! お荷物お届けです! お名前、こちらで間違いないですか?」
     配達員さんはニコッと笑って伝票をあすくに掲げた。
     声だけでは気づかなかった。あの頃よりすごく低くなっていたから。
     でも、その笑顔を見た瞬間、あすくの脳裏に浮かんだのは、昔出会った男の子のキラキラとした笑顔そのまま。
    「…………」
    (ようせいさん……)
     間違いない。あの時の……、妖精さんだ。
    「あ、あの……もしかして俺、部屋間違えてます?」
     あすくが無言で固まっていたせいか、配達員さんは届け先を間違えたのかと思ったらしい。
     伝票とドアの部屋番号を交互に見ていた。
    「あ、いや大、丈夫です。合ってます……」
     あすくは慌てて告げると、配達員さんは安心したような顔をした。
    「あぁ、良かった! これ、結構重いんで、中に置いてもいいですか?」
    「え、あぁ、はい……」
     配達員さんは玄関の中まで荷物を運んでくれた。
     その様子を、あすくは一瞬も逃さず見つめていた。

    「それじゃ、失礼しますね!」
     荷物を置いた配達員さんは帽子を取ってお辞儀をした。
     真っ直ぐな髪の毛が動きに合わせてサラッと踊っていた。
     配達員さんはササっと外に出て、あすくに微笑みを向けながら扉を閉めようとした。
    「あ、あの……」
     あすくは思わず声を掛けると、「ん、はい?」という声と共にキョトン顔が返ってきた。
     しまった……。勢いあまって声をかけしまった。
    「ぅ、あ、ありがとう、ございます……」
    「……ははっ、いーえ! こちらこそ、ご利用ありがとうございます!」
     配達員さんは再び笑って、ドアは静かにパタンと閉まった。

     あすくはへなへなとその場に座り込んで、手で胸をギュッと押さえ込んだ。
     ドキドキと胸が鳴っていて、さっきの配達員さんとのやり取りが脳内をずっとリフレインしていた。
     また、会えた……。
     あの頃より遥かに背が高くなって、荷物を持っていた腕には筋肉がついていて、声は低くなっていたけど明るくて、なにより笑顔が変わっていなかった。
     あすくを明るく照らしてくれた、太陽のような笑顔。
     今も少し信じられない気持ちだ。
     だってさっきまで絶望してたのに。もう一生会えないかも、とさえ思っていた。

     運命ってやつ、かな……。柄にもなく夢見がちなことを思ってしまった。

     でも、
    「結局、名前聞けなかったよ……」
     さっきは思わず呼び止めてしまったが、配達員さんの名前をわざわざ聞くなんて変な人だと思われるかもしれない、とすぐに気づき、名前を聞くことは叶わなかった。
    「はぁぁ〜」
     また、あの人が届けに来てくれないかな……。
     あすくはすっかり伸びてしまった前髪を弄って、ため息をついた。



    続く、かも……?



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    受けに対してちょっと夢見がちな印象を持つ攻めと、運命の再会シチュが好きで、あまりにも見たくて衝動で書きました。
    文章変なところあるかと思いますが、ご容赦ください。
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    完全ifのお話なので宿のお話も終焉陸のお話もないです。
    ifあす日 緑青あすくは幼い頃、妖精さんに恋をした。
     たった二日間だけ遊んでくれた、同い年くらいの男の子。
     太陽のような笑顔、ちょっと音量がデカいけど弾けるような明るい声、たくさんの人に好かれそうな優しい性格。
     出会ったのは、あすくが公園で一人で遊んでいた時だった。
     勉強ばかりで友達がいなかったから、まさか声を掛けられるとは思わなくて、その子が誘ってくれた時はすごく驚いた。
     でも流れるように一緒に遊んでいると時間を忘れてしまうほど楽しくて、あすくはすぐにその子のことが気に入ってしまった。
     帰る時はまたな!と言ってくれたから、次も遊んで、いつか友達になってくれるのではないか、あすくはそう期待していた。

     なのに、男の子はあすくと二日遊んだだけで忽然と姿を消してしまった。
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