「朝まで一緒にいて」「は……」
ちゅ、ちゅ、と何度も角度を変えながらキスをして腕の中で必死にそのキスに応える恋人にどうしようもなく胸が締めつけられるようなそんな気持ちになる。
「たぁ、きく、」
唇を離せばつう、と銀色の糸が環と壮五を繋いでいる。
そのまま我慢できなくて壮五をぎゅうっと抱きしめたらいつも日焼けしないようにと気を遣っている真っ白な肌が少しだけ体温が上がったせいで赤くなっていた。
『お酒を飲んだ逢坂くんは本当かわいいよねえ!』
つい先日まで撮影していたドラマの打ち上げでここにはいない壮五のことを話題にされた時に言われた言葉だった。
環といえば壮五。壮五といえば環。
業界ではそんな風な認識があって、こうやって壮五の話題を振られることも一度や二度ではなかった。
『あー』
環が言葉を濁す。
そのあともそんなにかわいいなら見てみたい、と他の人が言っているのを聞いて環は顔をしかめた。
壮五が褒められるのは素直に嬉しい。けれど、欲を含んだ言葉で言われるのは気に入らない。だって、壮五は環の恋人でできればそんな風に見るのは環だけであってほしいと思うのは仕方ないと思うから。
あんなのを聞かされたからかもしれない。眠る準備をしていた壮五の部屋を訪ねて「キスしていい?」と聞けば壮五は「いいよ」と返したのだ。
とろん、とした目で壮五が環を見つめてそれから今度は壮五の方から環にゆっくりと唇を近づけてきた。
つん、と壮五がうかがうように環の唇を舌でノックしてきたから環はそれを迎えるように舌で触れると壮五の舌は戯れるように逃げて、それを追いかけて、を繰り返しやがて絡まった。
「は……ん……」
「ん……」
二人の吐息やくちゅくちゅと健全とは言い難い音が部屋の中で響いてそれでも止まることなんてできない。
二人の唾液が混じり合ってもうどちらのものかわからないものを何度も飲み込んでからまた唇を離すと互いの唇の周りが互いの唾液でてらてらと光っていて環は思わず唾をごくんっと飲み込んだ。
壮五の口の周りを環の指で拭うとそのまま壮五は環の手を取り、そのままはむ、と指を口に含んだ。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い、ちらりと環を見つめる壮五に壮五が何を求めているか分からないほど環は子どもでもなかった。
ちろりと口から覗く赤い舌は環に見られることを想定しているようだった。
まるで二人きりで過ごす夜のことを想起させるその動きに、否応なく反応してしまう。
だって、目の前のこの人が環を大人にしたのだから。
「そーちゃん」
目の前の人を呼ぶ声が掠れていて、自分の今の欲を曝け出していた。
「今日は誰もいないよ」
いけないことを告白するように壮五が小さく、それでもはっきりと環に聞こえるように言った。
「……たまきくん」
王様プリンよりもずっと甘ったるい、環だけしか知らない極上のそれが環に食べられるのを今か今かと待っているように見つめた。
こんな壮五を知っているのは環だけだ。いや、環がこんな風にしたのだ。
ぞくりとした感覚が環を襲う。壮五と付き合い始めてこんな風に「自分だけの壮五」が増えるたびに誰にもいえない独占欲のようなものが顔を出して必死で環はそれを抑え込む。
なのに壮五はそれを知ってか知らずか、環を誘うように首に腕を回してまた、「環くん」と環を呼んだ。
「朝まで一緒にいて」
その言葉が終わる前に二人でもつれあうように倒れ込んだ。