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    asagi_di7

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    asagi_di7

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    番じゃないけど、そーちゃんのフェロモンしか感知できない環くんと、フェロモンが環くん以外には気づかれないそーちゃんのオメガバースの冒頭です。(α×Ω)いつかちゃんとかきたい。

    ハローグッバイ01 ふわりと環の鼻を擽る甘い匂い。
     それは環の大好きな王様プリンを彷彿とさせる甘い匂いで、匂いの大元は隣の部屋からだということがわかって環はごくりと唾を飲み込んだ。

    「僕もうすぐヒートが来ちゃうから、ごめんね」

     申し訳なさそうに言う環の相方は、今自室に閉じこもっている。
     壮五とユニットを組んでいる環は必然的に壮五との仕事が多い。そのため、壮五がしばらく部屋から出られない期間、環の仕事も必然的に減るのである。
     ヒート。
     壮五の身に起きている現象は世間にそう呼ばれている。
     人間には男性、女性の他に第二の性がある。
     α、β、Ωと呼ばれる第二の性はほとんどの人間がβに区分されているが、環はα、壮五はΩに分類されている。
     色々な物に秀でていると言われるαと、決まった期間にヒートと呼ばれる発情期の期間があるΩ。Ωは男性でも女性でも子を孕むことができ、ヒートの期間はフェロモンを分泌し、他者を誘惑することによって特に妊娠しやすくなると言われている。
     遥か昔はヒートの期間に誰にでもフェロモンを振り撒いてしまうΩに対して良くない目で見るものも少なくはなかったと言うが、技術が発達した昨今、Ωのフェロモンを抑える抑制剤や、そんなΩのフェロモンに反応しないようにαやβのための抑制剤なども開発された。むしろ今ではそれを使うことがマナーであるとされていることもあり、Ωに対して否定的な人間も少なくなったと言われている。
     そんなわけで、Ωは自分の性別を隠すことも可能となったし、たとえ性別が発覚しても問題がなくなってきていた。
     それとは別にΩが誰にでもフェロモンを振り撒くことを止める方法がある。それはαと番になること。
     ヒートの期間、Ωの項をαに噛まれることによって二人は番となり、その瞬間からΩのフェロモンは番のαのみ感じ取れるようになる。
     ――それが普通のαとΩだ。
     ふわりとまた環を誘う王様プリンのような匂いが隣の部屋から漂ってくる。思わず環が隣の部屋に向かおうとするが、壮五が望んでいないことをわかっているから隣の部屋に向かうことはできない。環と壮五は番ではないからだ。
     隣の部屋で壮五は一人でヒートをやり過ごそうとしている。ヒートを緩和させるにはαの体液を摂取することが必要になるけれど、壮五は環とそういう関係になることに同意していないから、環が壮五にどうこうすることができないのだ。

    「壮五は?」
     夕飯の時間になっても現れない壮五に三月が尋ねる。
    「そーちゃん、今ヒートだから」
     すん、と匂いを嗅いでもまだ王様プリンのような匂いが環の鼻を擽る。
     環の言葉に他のメンバーもすん、と匂いを嗅ぐが首を傾げる。いつもそうだ。
    「やっぱ壮五の匂いってわかんないんだよなあ」 
    「んー」
    「タマはわかるんだよな」
    「うん」
     環と壮五は決して番ではない。けれど、壮五のフェロモンは環しか感知できなくて、もっと言うと、環は壮五のフェロモンしか感知できない。まるで、もう番になったようなそんな関係なのに。壮五は環から番になりたいという言葉に頷こうとしなかった。

    「そーちゃんが好き」
     一世一代の告白というのはこういうことを言うのかもしれないと思った。
     目の前の壮五に勇気を出して言ったのはいつものように壮五の部屋で二人で話している時のことだった。
     二人がMEZZO"を組んだ頃には考えられなかったが、壮五と二人で穏やかに過ごすことはよくあることになりつつあった。二人が互いを知るために努力した結果だと思う。
    「ありがとう」
     壮五が微笑むのを見て、「あ、これ違う意味で取ってるな」というのはすぐにわかった。
    「僕も環くんが好きだよ」
    「ありがとう。でも、そーじゃなくって」
    「?」
     壮五は首を傾げた。
     壮五と二人で過ごすうちにわかったことがある。環が壮五のことを「恋愛」の意味で好きだということ。そして、壮五も多分、環と同じ気持ちで環のことを好きだということ。但し壮五がその気持ちに気づいているかはわからなかった。わからなかったからこの気持ちを壮五に言うべきか言わないべきか、それなりに悩んで、この気持ちを最後まで抱えていくことも考えた。それでもやっぱり、壮五のことが好きだったから。
    「俺の好きは、そーちゃんに恋人になって欲しいって意味の、好き」
    「……え」
     ぱちぱちと壮五が瞬きをしてそれから俯いた。
    「……ありがとう」
     その言い方にまたわかってしまった。壮五は環の気持ちに応えるつもりがないことに。
    「……それは、君が僕以外のΩの人を知らないからじゃないかな」
    ――やっぱり。
     環はため息をつく。昔の環ならここでどうしてわかってくれないんだと壮五に言っていたかもしれないが、それなりに彼との付き合いも深くなってきた。
    「あのさ。何でそうなんの?」
    「だってそうじゃないか、君はまだ若いだろ。今は僕以外のΩの人に気がつかないから、僕のことだけが気になっちゃうんだよ」
    「別にそーちゃんがΩで俺がαだから好きになったんじゃねーよ」
    「…………」
     幼い頃から施設にいたこともあって環の周りにはαもΩも、そしてもちろんβもいた。
     成長するにつれ、Ωの人にヒートというものがあることもわかった。けれど、今まで彼らが発するフェロモンに全くと言っていいほど環は気づくことができなかった。
     生活に支障はなかったから、気づかないなら気づかないでいいと思った。話に聞く、フェロモンによってΩの人を襲ってしまう人間が怖いと思っていたからだ。
     おそらく、環の両親がαとΩだったことにも関係するのかもしれない。
     とにかく、環は壮五に出会うまでΩのフェロモンを全く感知することができなかった。
    「とにかく、よく考えて」
    「考えたからそーちゃんに告白したんだけど」
    「…………」
     壮五はそのまま黙ってしまった。

     壮五は環と反対でΩだった。詳しくは聞いたことがないが、どうやらΩだと判明した時から強い抑制剤を毎日飲むように習慣づけられていたと言っていた。
     その結果なのかヒートは来るものの、壮五のフェロモンを他のαが感知することができなくなったという。事実、寮内で壮五のフェロモンに気付くメンバーは環だけだった。
     環が大好きな王様プリンのような甘い匂い。
     こんなの、まるで環に見つけて欲しいみたいな、そんな匂いなのに。壮五はそれを認めようとしない。
     それどころか、「他のΩを知ったら僕のことなんて好きじゃなくなるかも」なんて言ってくる始末。
     壮五は勘違いしている。
     別に環は壮五がΩだから好きなわけじゃない。そりゃあ、環にしかわからない匂いを発する壮五に運命を感じないわけではないけれど、それでも、環がαで壮五がΩで、というのは関係ない。
     壮五は壮五だから、好きなのだ。
     それに。
    ――そーちゃん以外、知りたいとも思わないし。
     わかってないよなあ、と思いながら壮五の部屋の前に佇む。その中で壮五は一人ヒートの熱に耐えている。
     そーちゃんが好き。もっと俺を頼って欲しい。
     そんな言葉を今日も環は言えずにいる。
    「そーちゃん、夕飯ここ置いとくな」
    「……ありがとう」
     壮五の声が聞こえる。
     二人の間にはこの薄い扉があるだけなのに。
     環の気持ちは壮五にしか向いていないのに。
    「うまくいかねーなあ」 
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