指輪を贈りたい ライトにそっと指をかざして目の前で存在感を放つ銀色の物体を見るたびに切ないような、気がはやるような、言葉にできない気持ちになる。
もうすぐ三十になる。
今までは「熱愛報道」をスクープするために躍起になっていた人に対してもそれなりの対処ができるようになってきた。と思う。
というのも、ドラマの共演をして打ち上げで隣にいたからだとか、スタジオの移動時間が一緒になったからだとか、テレビ番組や雑誌で共演が多いからだとか、そういうところから「熱愛報道」の記事が作られて世に出されることが環は多かったからだ。多分、というか絶対にデビューした頃から「抱かれたい男」の上位にいたからなのだと思う。
そんな称号の上位にいる男が恋人の一人や二人いてもおかしくない、というのが世の中のイメージなのかと思うと気が重くなる。
環は一途な男だ、と自負している。
高校生の頃からただ一人にずっと恋焦がれていて、いまだに成就していない。
それでもただ一人だけをずっと想い続けているのだ。
「環くん」
手をぼんやりと見つめる環に呼びかけるのは環の相方だった。
彼の視線の先には環が見つめていた銀色の物体がある。
「環くん、もうすぐ撮影だから」
「おー」
左手薬指にたった一つ。仕事中には絶対つけないアクセサリー。
これをつけているのを他の人が見たらどんなふうに解釈してくれるのだろう。
大切な人とのペアリング?
結婚指輪?
それともただのアクセサリー?
のろのろと身体を起こして指輪を外すと壮五が少しだけ寂しそうな顔をした。自分で外して、と言ったくせに。
これはペアリングでも、結婚指輪でも、ただのアクセサリーでもない。
「そーちゃんも外して」
するりと壮五の指を撫でると壮五が目を伏せた。
*
「そーちゃんが好き」
他の誰とも違う気持ちを相方である壮五に持った。勝算みたいなものがあったと思う。だって壮五が環を見つめる目は環が壮五を見つめるものと同じだったから。
「君の気持ちは嬉しいけど……」
それでも壮五は首を横に振った。
「僕たちはアイドルだ。ファンの人が一番じゃなきゃいけない」
環が、壮五が、互いを一番にすることはきっと許されない。
「…………」
「でも、僕は君が好きだから、もう少し時間が経ってまだ君が僕のことを好きだったらそのときは僕のことを一番にしてくれる?」
「俺はそーちゃんのことずっと好きだけどそーちゃんは?」
「僕は君のこと、ずっと好きだって自信があるから」
以前好きなものを好きだというのもあまりなかった壮五が環にきっぱり言ったことが環は嬉しかった。
あの告白から数年、まだ環と壮五は恋人ではない。
週刊誌に写真を撮られてもそれは全て本当ではないものだし、その都度壮五にきっぱりと嘘だと告げた。
いつかきちんとしたものを、と壮五に指輪を渡したのも壮五は環のもので、環は壮五のものなのだと心の中で思いたかったからなのかもしれない。
「なあそーちゃん」
仕事終わり。今日は環が車で来ていたので壮五を家まで送る予定だ。
「?」
「俺もうすぐ三十になるけど」
「そうだね。初めて会った時は君はまだ十代だったのに」
壮五を好きになって十年ほど、告白してから数年。
その間、恋人にならなかったとはいえ、何もなかったわけではない。
酔ったふりをした壮五が眠ったふりをした環にキスをしたことだって、やましい気持ちを持ちながら一緒に眠ったことも何度もある。
「俺、やっぱりそーちゃんが好き」
「……」
「俺の一番になってよ、そーちゃん」