夜は終わらない 目を開けると逞しい背中が見えて思わず手を伸ばした。
「そーちゃん?」
シーツの音で気づいたのだろう。環がこちらを見て壮五の頭を撫でた。
「身体、平気?久しぶりだったから無理させちゃった。ごめん」
「ううん」
環はつい先日まで連続ドラマで主役を演じるため、家を空けることが多かった。ようやく撮影が終わり、まとまったオフがもらえたのだ。
壮五は伸ばしたままの手をそのまま目的地であった環の背中にぺたりと這わせた。
この逞しい背中に先ほどまでしがみついて環をひたすらに求めたのだ。
アイドル、そして『抱かれたい男』でここ数年不動の一位を誇る彼の背中に引っ掻き傷など残すわけにもいかないので壮五の爪はいつも整えられていて、なおかつ爪を立てないようにしている。
指をつう、と背中でなぞるとくすぐったそうに環がぴくんと身体を跳ねさせた。
「なに、どうしたん?」
「うん……」
この逞しい背中にしがみつけるのは自分だけなのだ、という優越感とそんな自分の証を残せないことを悔やむ気持ち。そんな気持ちでぐちゃぐちゃになりそうだった。
この職業をしていると当然壮五も環も恋人の存在など明かさない。それが互いであるならば尚更。それでも時々どうしようもなく目の前のこの彼が自分の恋人なのだと世界中に叫びたくなることがあるのだ。
ゆっくりと起き上がって痕をつけないように背中にちゅ、ちゅ、とキスをすると我慢ができなくなったみたいに環が壮五のことをシーツに押し倒して頬に触れた。
「あんまそういうことすんな。我慢できねーじゃん」
頬に触れた指を環を見ながられろ、と舐めるとごくんっと環が唾を飲み込んだ。
自分から仕掛けたくせに久しぶりにこうして抱き合ったのに実はまだ足りなかったのかもしれない、と自分の中にある気持ちに驚く。環を見上げると環はちっとも嫌そうじゃない。むしろ壮五のことを愛おしそうに見つめるから気恥ずかしくなって顔をそらしたら「そーちゃん」と呼ばれてしまった。
「足んなかった?」
「そんなこと……ないと思ってたんだけど……足りないみたい」
付き合い始めの頃はそんなことない!と怒っていただろうが恋人として過ごす方が長くなった今では素直にそう言える。環がひたすらに壮五のことを甘やかした結果だから環が悪い。
素直に言った壮五にふは、と笑って「俺も」と呟いて環は壮五の額にキスを落とした。
「もういっかいしていい?」
「いっかいだけじゃたりないかも」
呆れるだろうか、と以前の壮五は考えたかもしれないがこれも口にすれば環は喜んでくれることを知っていた。
「あ、あのね」
「ん?」
「ナカに今度は欲しいな」
「……あんまそういうこと言うなって」
嬉しそうに、壮五を求めてやまない顔をしている彼は口先だけそうやって咎めるのだ。