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    ggst鬼水👹💧
    花言葉についての話。
    👹→→→→→(←?)💧くらい。

    とある花言葉についての幽霊族の話。 きんと身を凍らせるような空っ風も緩み、徐々に春の気配が近くへと来ているのを悟らせる朗々たる時節のことだった。回覧板を隣家へと渡し終え道路へと出た水木は柔らかな日差しの中、ぐっと大きく背伸びした。
     時刻は昼前くらいだろうか。空から燦々と注ぐ日差しは暖かいものの、かと言って、夏の日差しのようにげんなりするほどのものでもない。さわやかな風も流れていて過ごしやすい春めく陽気が広がっている。
    「ふぁあ……」
     麗らかな空気に思わず水木の口からは欠伸が漏れ出ていた。今日は会社が休みなのだから、帰宅して二度寝と洒落込んでも良いが、それでは味気ないし勿体無い。
     せっかくこうして外に出たのだ。
    「散歩でもするかなぁ」
     少し前までは冬のしんしんとした寒さが強まっていたせいもあり、ろくに散歩なんてしてこなかった。この際、運動不足解消も兼ねて、散歩がてらに少し遠出するのもいいかもしれない。
     思考を回した後、水木は納得した様子でうんと小さく頷いた。そして、柔らかな気候に誘われるまま、自宅とは反対の方向に向けてゆったりと足を踏み出したのだ。
     行く宛も目的もなかったが、だからと言ってつまらない散歩でもなかった。目に映る光景は大きく変わり映えないが、よくよくみてやれば穏やかな春がもうそこまできていることを教えてくる。
     先端が薄紅色に染まり膨らみ始めた梅の蕾や朗らかな声で鳴く鶯の声。普段は気にも留めていなかったことが新鮮で仕方ない。
     また、季節が移り変わっていくのかと、しみじみそんなことを考えながら水木がだいぶ遠くまで来た時のことだった。
    「おじさん」
     つっけんどんとして余所余所しい、けれど、刺々しくはない芯の通った落ち着いた声。多くても数ヶ月に一度程度しか聞くことのないその声が背後から響いた途端、喜びと驚きに面食らう。聞き間違えることのない声だからこそ、胸を並々と覆い尽くすのは澄んだ多幸感だ。
     親密な距離感で水木のことを【おじさん】と、呼ぶ存在など一人しかいない。
     自然とだらしなく緩んでしまう頰と口元を隠すことも出来ぬまま、水木はぐるりと勢いよく後ろを振り向いた。
     視界にはやはり予想通りの存在が立っている。左側だけ伸ばされた焦茶色の髪、余計な肉がついていないすらりとした引き締まった身体、贔屓目なしに整った垢抜けた顔立ち。少し身長が伸びただろうか。それでも、その姿に大きな違いはない。
    「鬼太郎!」
     大人気なく弾んだ声で呼び掛けて大きく手を振れば後ろでに手を組んでいる彼はよそよそしく頭を下げる。どこか遠慮がちな態度が微笑ましくて、水木は彼の元へと駆け寄った。
    「元気だったか? 苦労はしてないか? お金とか、足りないものとかはないか?」
    「大丈夫です。……相変わらず心配性ですね」
     おろおろと顔を覗き込みながら矢継ぎ早に問い掛ければ鬼太郎は呆れた様子でくすりと微苦笑を浮かべた。少し大人びたその表情に見慣れた少年さの欠片がない。代わりに、色香のようなものを感じ取って、心臓がどきりと小さく跳ねてしまい、水木は僅かに目を見開いた。
     少しずつではあったが、着実に彼は大人の男になっていく。
     独り立ちすると言って、血の繋がらない養い子である鬼太郎が家を出て行って早数年。妖怪に近い幽霊族である彼は、人間の世界でなくても生きていけると言って水木の元を去って行った。
     鬼太郎が旅立って行った日、水木は今生の別離だと覚悟していたものだ。しかし、その決死の覚悟をよそに、彼は一年ほどふらりと水木の元へと現れた。水木が会社から帰宅している途中のこと、先ほどと同じように、彼は、おじさん、と呼び止めて。
     聞き間違うわけのない、声に驚かなかったわけではない。しかし、一方で、幻聴かもしれないと半信半疑の中、水木が振り向いた先には彼がいた。
     丸みの抜けたすらりと伸びた体躯は、家を出ていった頃の幼い面影もない。二十代くらいの青年くらいの見た目をしていた彼。しかし、彼を水木が見間違うわけがなかった。
     嬉しさと疑問が頭の中でごちゃごちゃになって立ち尽くす水木の元に彼は近寄ってくる。ひやと人間よりもいささか冷えた掌が水木の頬を包んだ瞬間、夢なのではなかったのだと現実を突き付けられる。
     突然の事態に平静を取り繕う器用さなど水木は持ち合わせていなかった。結果として、あの日、水木は人目も気にせずに号泣してしまったのだ。
     それからというもの、時折こうして彼は逢いに来るようになった。正直、何故突然来るようになったのか、そして、定期的に顔を見せてくれるのか、水木には分らない。金に困っているわけでもなさそうだったし、用事があるというわけでもないようだった。それでも、水木は彼に会えることが嬉しかった。
     手塩にかけて育てた我が子だ。たとえ血の繋がりがなくとも、愛しいことに変わりない。
     しかし、この頃はどうにも彼に会う度に、その愛しさ以外の感情が水木の中に産まれている。無論、愛しいことに変わりはない。変わりはないのだが、それ以外に別の感情も水木の中には芽生えていたのだ。
     胸がむず痒くなるというか、やけに胸がそわそわしてしまうというか……。大人の色気を持ち合わせるようになった鬼太郎に対する感情を水木自身、うまく理解できていない。初めて抱くその想いの正体はわからなかったが、心臓の辺りが温かくなるそれは断じて悪感情ではないことだけは確かだった。
    「おじさん? どうかしましたか?」
    「あ、ああ! なんでもない、何でもないぞ!」
     水木が瞠目したことに気付いたのか、怪訝そうに頭を傾げながら鬼太郎が顔を覗き込んで来る。接近する整った甘い顔立ちと、鼻腔を擽る花のような甘い香り。先ほど跳ね上がったばかりの心臓は、どくどくと煩いくらいに加速度的に拍動を始めた。狼狽えたように水木はぶんぶんと左右に顔を振る。
     余裕のない慌てふためく態度では、どちらが年少者か分かったものではない。
     何故か早鐘を打ち続ける心臓を落ち着かせるように水木はふうと息を吐き出す。未だ拍動は正常とは言えなかったが、それでも取り繕うように鬼太郎に笑顔を向けてみせた。
    「それよりも今日はどうかしたのか? 何か俺に用があったか?」
    「まあ、用と言えば用、なんですけど……」
     彼の返事はいつになく歯切れがない。明瞭ではない回答に疑問符が頭の上に浮かんだ水木はふと気づく。そういえば、先ほどから彼は水木に隠すように両手を背中側で組んでいるではないか。
    「おじさんにこれを渡そうと思って。最近咲き始めたみたいですから」
     水木が不思議がっていると、隠されていた両手が露になるのと同時に水木の前に植物の束が差し出された。どうやら彼の手はずっとその植物を隠し持っていたらしい。
     細長い緑の花茎から分かれた茎の先には、白色の小粒の可憐で素朴な花が咲いている。花に疎い水木でも知っているくらいに、その植物は大衆的なものだ。
    「ええと、ナズナか?」
    「ええ」
     水木が口にした花の名に、鬼太郎は平然と頷く。どうやら水木の予想は正しかったらしい。
     ナズナ。それも、何の変哲もない。そんな花を一本。彼は恭しく両手で差し出してきたのだ。
     水木はナズナが取り立てて好きなわけではない。無論、好物というわけでもない。だからこそ、何故、その花を彼が差し出してきたのか水木にはてんで理由がわからなかった。
     ぽかんと呆気に取られながら鬼太郎とその花を一度だけ見比べる。しかし、鬼太郎の表情はどこまでも真摯に真っすぐで、冗談めかしている様子もない。
     ならば、水木に文句も不満もなかった。自分に対し、真剣な気持ちで贈り物をした結果がこの花だというのだろう。
     鬼太郎の両手を一度優しく撫でて、水木はその花へと手を伸ばし受け取る。
    「ありがとうな、鬼太郎。嬉しいよ。ナズナ、美味しいもんな。お浸しにして食べたりだとか、」
    「おじさんは、花言葉っていうものを知ってますか?」
     水木の言葉に被せるようなタイミングで、鬼太郎は口を開く。その口調は先ほどよりもどこか素っ気なく、そして、駆け足気味だ。だが、そこに苛立った様子は感じ取れなかった。どちらかと言えば、落ち着きがない、とでもいう表現が近いだろうか。
     彼にしては珍しい。その態度について尋ねたい気持ちはあったが、まずは彼の問いに答える方が先だった。
    「花言葉? うーん、俺はそういうことに疎くってな。鬼太郎は知ってるか?」
     こくりと、彼は上下に頭を揺らす。
    「前にねこ娘と砂かけ婆が図鑑を見せてくれたので。色々あるんですよ。例えばタンポポには幸せとか、菜の花には明るさとか」
    「へえ、鬼太郎は色々知っていてすごいな! じゃあ、このナズナにも花言葉があるのか?」
    「……」
     意気揚々と投げかけた疑問に、鬼太郎は口を閉ざしてしまった。その上、先ほどまでの表情とは打って変わって眉間に皺まで刻んで難しい顔をしている。
    「鬼太郎?」
     何か変なことを問うてしまっただろうかと、水木が不可思議そうに鬼太郎の顔を覗き込んだ、そんな時のことだった。ナズナを受け取った水木の手を鬼太郎の両手がぎゅっと包み込んだのだ。突然のことに水木は声を呑む。ひくんと肩が微かに震えた。
    「……昔、この花を父さんも母さんに送ったみたいなんですって。だから、僕もおじさんに、これを送りたくて」
     口を噤んだ水木とは対照的に、今度は鬼太郎が口を開く番だった。しかし、独り言ちるように紡がれていく内容を水木はこれ一つとして理解できない。
     しかし、鬼太郎は真剣な眼差しで水木を見ていた。吸い込まれそうになるほどに、その一つの眼は恐ろしく澄んでいる。
     茶化すことも出来ないくらいにまじめな鬼太郎の表情に水木は恐る恐る口を開く。
    「きたろう……?」
    「おじさん。この花の、ナズナの、花言葉は、――――――」
     切々たる声で鬼太郎から紡がれていく言葉を聞いた瞬間、水木は自分の中に芽吹き始めたその感情の正体を知ることになった。まるで目が覚めるような気分だった。
     それは、呆れてしまうほどに単純で、そして、唯一無二の想い。なんてことはない。
     もつれた糸が解けるように自分を理解した事実が羞恥と混乱となって襲い掛かってくる。水木は耐え切れず、真夏でもないというのに茹で上がってしまいそうな程に顔を真っ赤に染め上げて鬼太郎をただ見つめることしか出来なかった。







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