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    ggst鬼水👹💧。
    初夜後の話。
    花言葉からそっと続いてる。

     瞼の上から突き刺さってくる眩しい光に意識が浮上する。何度か瞼を震わせながら、鬼太郎は薄らと目を開いた。
     遠くから鳥の鳴く声が聞こえてくる。いつの間にか朝が来たらしい。朧げな視界では物の輪郭を捉えることは出来なかったが、明るいような気もする。
    「……ふぁ」
     まだ、眠い。眠気にとりつかれた頭は覚醒には程遠いようだ。小さく欠伸を溢しうつらうつらと意識を手放そうとしている自分の身体は再び微睡みに堕ちようとしている。
     記憶を辿るが予定も用事もなかったはずだ。それなら、急いで目覚める必要はないだろう。朝はじぶんの寝床で惰眠を貪るに限る。
     うまく働きもしない頭を回転させてそう自分を納得させた鬼太郎が、大人しく眠りの淵に足を踏み入れようとした、そんな時のことだった。
    「……んっ」
     すぐ傍で、誰かの微かな寝息が耳を掠めた。
     自分の寝床に、誰かいる。
     予想だにしていなかったその事態に鬼太郎の意識は一気に覚醒する。眠気など霧のように一気に掻き消えた鬼太郎は目を見開いた。
     何故と混乱する鬼太郎の目に入ってきたのは、こちらを向いてぐっすりと眠る愛しい男の姿だった。乱れることもない寝息をすうすうと立てながら穏やかな寝顔を晒す男を見て、昨晩の記憶が濁流のように流れ込んでくる。
     自分を呼ぶぐずるような甘い声、熱に浮かされた汗ばんだ身体、そして、どろどろに混ざり合うような感覚。
    (そうだ、僕は、おじさんと……)
     体裁を全て取り払って互いの体温だけを貪り合った事実は思い出しただけで顔が熱くなってしまう。ぼぼぼと燃え上がるように熱を持つ顔を鬼太郎は片手で覆い、あどけない彼の寝顔を眺めながら甘い余韻を噛み締めていた。
     元々、彼、水木とは養父と養い子という、濃いようで薄い縁の関係だった。呆れてしまうほどに人がいい彼は墓場で生まれた自分を拾い上げ、何の利益にもならないのに愛情深く育ててくれた。お節介で、お人好しで、無垢で、無邪気で。そんな彼から与えられる溢れんばかりの愛情を鬱陶しいと思ったこともそれなりにあった。
     けれど、彼と離れてしまえば与えられていた愛がどれほど自分にとって必要だったのかと思い知る。独り立ちすると家を出てほんの数年後には彼の姿を見たいと思うほどには。
     彼に会いたいと思えば思うほど、彼に向ける愛がただの家族愛や自分を育てて来れたことに対する恩ではないと思い知らされる。
     彼には幸せになって欲しい、けれど、彼の抱く愛は自分だけに向けて欲しい。
     己でも知らぬところで、鬼太郎の中には恋心が芽生えていたのだ。
     彼に向ける思いの正体に気付いた後の鬼太郎の行動は早かった。
     何せ、彼の元を離れ、既に数年が経っている。幽霊族である自分の数年は瞬く間に近いが、人間である彼にとってはそうではない。時間は無情なまでに有限だ。モタモタしている時間はなかった。
     とはいえ、まずは彼の傍に立っても不釣り合いではない存在になる必要があった。彼に迷惑がかからぬようにと、彼の元を離れたのだ。自分はちゃんと成長したのだと、彼に見て欲しかった。彼に向ける焦がれるほどの想いは日々勝手に募るばかりだったが、会いに行くのは自分でも成長できたと実感してからだと何度も己に言い聞かせた。
     父の導きのもと、ゲゲゲの森で満身創痍になるほどの修行を繰り返せばそれに伴って身体もみるみるうちに成長した。程なくして、鬼太郎は人間で言う青年くらいの体躯にはなっていた。
     身体が育つに従って霊力もそこそこ誇れる程度にはなっていた。全盛期の父に比べればまだまだ足元にも及ばないが、妖怪たちの間ではそこそこ名の知れている。
     会う準備は出来ただろうかと、鬼太郎はこっそり彼の元を訪れた。彼の家を離れ、既に7年近くの月日が流れていた。
     彼の家を直接訪ねることはしなかった。それなりの月日が流れてはいるが、自分は彼の母親や近隣住民からは厭われていた。他人に見られるところで接触すれば彼が後ろ指を刺されるかもしれない。
     会いに行ったのは、彼の会社帰りの道だ。人の気配がない道で、鬼太郎は彼に呼びかけた。
     人間にしてみれば干支が半分すぎるくらいの年月だ。忘れられていても不思議ではないと思っていたが、愛情深い彼は鬼太郎のことをこれっぽっちも忘れていなかった。まさか、号泣される目にあうとは思わなかったけれど。
     初めから彼に対する想いを伝えることはしなかった。きっと、突然告げたところで、彼は面食らって本気にしないだろうと思ったのだ。まずは少しずつ成長した自分に慣れてもらおうと、顔を見せるだけに留めた。そして、回数を重ねるうちに徐々に自分の好意を表に出していけば良い、と。
     とはいえ、彼は鈍い。匂わせるだけの不明瞭な言葉や態度では全然伝わらない。
     だからこそ、会うようになってから暫く経った後に、花を送った。父も母に贈ったことのある、花を。
     それでも、伝わらなかったらどうしようかという鬼太郎の懸念は杞憂に終わった。何せ、花を受け取った彼は茹蛸のように赤面していたのだから。拒絶や嫌悪もされるかとも思っていたが、やはりそれも無駄な心配だったようだ。
     そこから、鬼太郎は攻め手を緩めることはなかった。会う度に彼に想いを伝え続けた。親としても家族としても好きだが、それ以上になりたい、と。
     鈍感な人だからこそ、攻防は暫く続くかと思ったが、思いの外彼の陥落は早かった。鬼太郎からの度重なる想いの言葉に観念したかのように、新たな関係となることを承諾してくれたのだ。
     それが鬼太郎にとってどれだけ嬉しかったか。筆舌には尽くしがたい。ただ、ゲゲゲの森に戻ってきた時に、ネズミ男から『ひどくだらしない顔をしてるな』と言われたから他人から見たら相当だったのだろう。
     恋人になったからと言って、関係が大きく変わったかと言われればそうではない。鬼太郎はゲゲゲの森に住んでいたし、水木もまた家を離れることはなかった。触れ合いも前よりも少しだけ頻繁に手を握るようになってくらいの、何とも慎ましいものだった。口付けすら一度しかしたことがない。
     だというのに、何故か昨日、突然彼からお誘いがあったのだ。
    『もっと、恋人らしいことをしてみないか?』と、顔を赤らめながら彼が口にした。
     その発言に鬼太郎は絶句して二の句も継げぬほどに驚き固まった。正直なことを言えば不躾にも程があるが、まず、彼にそういう知識があったのかと思った。彼は鈍感で、そして、純朴だ。純粋無垢と言ってもいいかもしれない。中年の男を純粋無垢という言葉で表現するのは不釣り合いかもしれないが、彼にはそれが似合う。穢れを知らぬ澄んだ泉のような彼からの誘いに動揺が止まらなかった。
     しかし、だからと言って、その誘いが嬉しくなかったわけではない。鬼太郎にも欲がある。水木に遠慮し表立てなかっただけで、出来ることなら愛している彼に触れたいという欲望は浅ましいほどあった。
     『良いんですか?』と問えば、彼は闇夜の中でも判別がつきそうな程に顔を赤らめて頷いた。そこまで言われて手を出さないほど、鬼太郎は出来ていない。
     切羽詰まったように手を引いて鬼太郎は彼をゲゲゲの森の自宅へと連れてきた。家の中では父が茶碗風呂を味わっていた。普段の余裕ぶった態度も崩して父に一日だけ家を外して欲しいと懇願した鬼太郎は彼と二人きりになった後、その肢体を味わった。
     快感と幸福と、微かな痛みと緊張と、様々な物が入り混じった行為は始終訳がわからなかった。ただ彼が自分の手で乱れてくれることだけが嬉しくて、必死に彼を求めた。余裕なんてこれっぽっちもなくて、本能のままに動くので精一杯だった。
     それが、この結果だ。いつ、疲れ果てて寝たのか、鬼太郎自身覚えていない。
     彼も余程疲れさせてしまったのか。鬼太郎が目覚めてからも隣で裸体のまま寝転がる彼は目を覚ますそぶりを見せなかった。瞼を閉ざしたまま、深い眠りの中を漂うばかりだ。
     せめてもの救いは、彼の寝顔が穏やかなことだろうか。苦悶の表情は一切ない。安らかな眠りを味わっているような表情に安堵する。
    「おじさん……」
     昨日の熱を思い返すように、鬼太郎は彼の頬にそっと触れた。指先から、彼の体温が伝わってくる。幸せだ、と思う。彼の唯一無二の特別になれて幸福だと、鬼太郎は確かに感じていた。
     しかし、同時に胸の中にドロドロとした乾留液のように黒い感情が湧き上がってきた。光を通すことのない淀んだ色の想い。それは彼の姿を見れば見るほど、抑制することもできずに蓄積されていく。
     それは自己嫌悪だった。彼に配慮したかったのに、結局自分のことで精一杯で彼を慮ることなどこれっぽっちもできなかった。痛かったろう。苦しかったろう。彼には苦痛ばかりを押し付けている。彼の身体についた噛み跡と体液がチラリと目に映り、己の浅ましさに深い絶望が押し寄せてくる。
    ――こんなんじゃ、僕は全然子供じゃないか……。
     あんなにも彼に釣り合うような存在になりたいと思っていた。しかし、蓋を開けてみればどうだ。結局のところ、自分の欲を優先するただの餓鬼でしかない。彼に見合う存在になんて全然なれてない。そんな現実を突きつけられてるみたいで、息が詰まるみたいに苦しくなった。はくっと悔しさに喉を震わせた、そんな時のことだった。
    「んん……」
     呻くような、微かな声が聞こえた。その後、瞼を震わせながらゆっくりと黒曜石にも似た澄んだ瞳が開かれる。彼の目に自分が反射した瞬間、鬼太郎は恐怖に肩を跳ねさせた。
    「おじ、さん」
     名を紡ぐ唇が微かに震えていた。しかし、どうすることも出来ない。自己嫌悪がじわじわと恐怖に変貌して波のように押し寄せてくる。
     もし、もう二度としないと彼が言ったらどうしよう。いや、それ以上に、こんなにも余裕のない人間だとは思わなかったと言われたら。果ては、軽蔑されてしまったら……。
     そんな不安を抱くくらいには、彼に無体を強いてしまった自覚があった。今にも泣き出してしまいそうな幼子のように鬼太郎は唇を噛み締めてくしゃりと顔を歪める。
     しかし。
    「ん、きたろう……」
     鬼太郎の不安をよそに、彼は幸福の真っ只中にいるとでもいうようにふわりと穏やかに微笑んでいたのだ。少し気恥ずかしそうにその頬が赤く染まっている。嫌悪の色は、どこにもない。
    「おじさん……」
    「おはよう……きたろ」
     なんてことはない、ただ名を呼ばれただけの話だ。いつものように、優しく、愛を込めて。それだけだというのに、こんなにも胸が詰まって泣いてしまいそうな気がしたのはきっと、彼が昨日と変わらずに自分に好意を持った視線を向けてくれるからだろう。
     彼の変わらずの愛が堪らなく愛おしくなって、返事をすることも忘れたように鬼太郎は彼の体躯を引き寄せてただ感情のままに強く抱きしめたのだった。
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