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    アニメ20話から創作したSSです。アニメ未履修の方はネタバレお気をつけ下さい。
    カハフシものですが主にボンフシとグーグーの会話が続きます。最後にカハクラストシーンありなので、悲しい方は避けて下さい…。

    燦々たる有様に変わり果てた台所にも、変わらず眩しい朝陽が注ぎ込んでいた。ここにいると闘いに勝利した、という実感は薄れる。
     今朝早くに、エコは逝った。
     そばにいたいとも思ったけれど、後でまた会えるんだから、という気持ちに甘える自分もいて、それに、大事なものを失う痛みに向き合うのもこれ以上は辛くて……。結局会いにはいかなかった。
    「エコ、ごめんね、辛かったよな。でも、もう大丈夫……」
     緩やかに笑いかけた。エコは笑顔を返すと手の中の手紙を覗き込み、今度はとても悲しそうに目を伏せた。
     朝の光はエコの身体を透過し、手紙の上に飾り窓の影をユラユラと映す。木漏れ日が差し込んだ場所には、透かし模様が儚く浮かび上がっている。よくよく見ると花と鳥……、だろうか。
     両手に持って掲げ光にかざしてみる。透かし模様と端正な「さようなら」の文字が重なる。それがとても綺麗で、なんだか別れの手紙だなんて思えなかった。それにとてもいい匂いがする。
     雑然とした台所とあいつの残したものがやたらに不釣り合いで、何故か目が離せなかった。おれとあいつの間に起こったことが無くなって、何か綺麗な思い出に置き換わっていくような。今は、その綺麗な方に心を傾けていたい。
     ここにあったものはもう、全部なくなってしまった。
     この手紙と乾いた血痕、そして透き通るエコの姿……。それだけ。
     思い出そうとしても、ここで過ごしていたあいつの顔はモヤに包まれたようで、くっきりと浮かばない。それでも、穏やかで幸せそうな輪郭は感じとれる。
     今はそれで良かったのかもしれない。失った痛みも軽くなる。それに、都合の良いあいつだけを思い出す事が酷く後ろめたくて、記憶の端に残る面影を無理に追うことはしなかった。
     いや、追いかけようとしてもひらり、とかわされてそれ以上深い記憶に辿り着くことができない。無意識が避けようとしているのかな。
     多分、思った以上におれは疲れている。
     あいつに言われたように、身も心もすっかり疲れ切っていた。姿を変えれば直るとか、そういう話でもなさそうだ。
     フワフワとした気持ちで椅子にもたれ、何となく手紙を読み返していたが、誰かが階段を登る音でふいに現実に引き戻された。
     この気配は——。
    「なーにしてんだ〜? ボン……、じゃなくてフシか、紛らわしいなぁ」
    「グーグー……。別に、何でもない。ちょっとでも綺麗にしようかなと思って来たんだけど」
    「なぁんだ、またその手紙見てんのか……。掃除でもしてんのか? それにしてもまぁ、派手に暴れたもんだな」
    「うん……」
     ここにあったであろう三人の遺体は、戦いが終わった直後に本人達が運び出した。それを目の当たりにするのも辛くて遠目から見ていたけれど、メサールはそれに気付いて「俺は死んでもいい男だったぜ」と笑えない冗談を言って笑っていた。カイとハイロも苦笑いをして、黙々と目の前の作業をこなしていた。
     天井のシミを見ると、ぼんやりとした記憶の中の思い出したくない何かが疼く。また、意識がそこから逃げていく。
    「お前ならちゃちゃっと作れるんじゃないのか? こりゃ掃除ってもさ」
    「ダメだよ、それじゃ」
    「あ〜、ここでの時間も消えちまう、か……」
     グーグーはすなまなそうな声で呟き、フゥと小さくため息を漏らした。グーグーがため息をつくと他の人とは違った音になる。それもすごく懐かしい。途端にあの頃の気弱な自分が思い出されて、グーグーに頼らずにはいられなかった。
    「ねぇ、グーグー。あのさ、やっぱり、違ったのかな。本当のあいつは、おれが思ってたのとは違うのかな……」
     突き詰めないようにしたいのに、言葉にした途端まとまとまらない思いがグルグルと湧き上がってくる。もしかして、自分が良い様に見ていただけかもしれない。そんな気持ちになるのがたまらなく切なかった。
    「うーん。俺はフシほどあいつのことわからねぇけどさ、お前はどう思うんだよ。嘘だと思うのか?」
    「分からない……、けど、思いたくない……。でも、皆のされたこととか、エコのことも……、考えたらそんな風に思っちゃ、いけないのかなって」
    「あー、まぁ、それでいいんじゃないのかー? お前が嘘だと思わないならさ」
    「うん、そうかも。でも、自信ない……。どうしたらいいのグーグー……」
     仮面の中で「うーん」と唸る声が響いている。困らせたい訳じゃないけど、どうにもできなかった。グーグーは苦肉の策とでもいう風に絞り出し、その答えをたどたどしく連ねる。おれが言葉も分からなかった時のように優しく言うから、思わず泣きそうになった。
    「そうだなぁ、例えばだけどよ、もし俺がお前を傷つけてさ、いや、前にもあったよなそんなこと、そういう時、お前はどうするよ。俺を信じられなくなるか?」
    「ならない。初めは怒ってたけど……」 
    「ならきっと、おんなじなのかもしれないな。ただ程度がな、ちょっとばかり違うけどな……、でもよ、きっと考え方は同じかもなぁ、伝わってるのかコレ」
    「そうなのかな……」
     グーグーと過ごしたタクナハでの記憶も曖昧だった。でも、喧嘩した時のことは覚えている。グーグーはおれを残して出て行って……、でも帰ってきたんだ。この酒屋に。
    「大事なのは、信じられない事に傷つく自分がいる、ってことじゃねぇかな。嘘と決めた方が楽なのにそうしないのは、お前があいつを信じたいからだろ」
    「おれは、あいつを信じてやりたい、のかな……」
    「俺はフシを傷つけるやつは許さねぇ。それは大前提だ。それに皆の事を考えたらな、素直には頷けない。でも、俺はお前のそういうとこ、嫌いじゃないぜ」
     明るい物言いを聞いていると、本当に真実はそうなんだと思えてくる。それも昔から変わらない。グーグーに言われると安心して、あぁ、これでいいんだって悩みが軽くなる感じ……。懐かしい感覚。
     あいつのことも、そのうちに懐かしいと思えるようになるのだろうか。
    「どーする、またなんか作るか? 皆で飯でも食うか? 掃除してよ。久しぶりにここで料理するのも乙だよなぁ、はっはっはっ!」
     天井を突き破るようなグーグーの大笑い。二百年振りに酒屋の中に響き渡った。そうだ、こんな想像もしない奇跡が起こったんだから……。きっといつか痛みが癒える日が来るかもしれない。
     椅子から立ち上がり軽く伸びをしてみた。手紙はまた丁寧に畳み直してズボンのポケットに忍ばせた。エコはニコニコとして同じように伸びをした。
    「うん、そうする。ありがとう、グーグー。じゃあ、俺はココ拭くから、グーグーは鍋とかお願い」
    「おうよ〜、あーこの鍋、懐かしいなぁ。お前そっくりそのまま作ったのか? この凹みなんかもまんまだな、はは」
     グーグーは中華鍋を繁々と覗き込んで嬉しそうに笑った。声が弾んでいるのが分かる。本物の酒屋ではないけれど、きっとここにいられて嬉しいんだな。
    「うん、でもグーグーのことは忘れてたんだ、酷いだろ」
    「まぁ気にすんなって、思い出したろー? 忘れててもここの事は覚えてたんだ、それでいいさ。お、ちゃんと手入れしてたんだな、鍋」
    「うん、おれはしてないと思うから……、あいつが多分、ちゃんとしてたんだと思う」
    「お〜、そっか〜……。俺はテキトーだったからなぁ。道具を大事にするやつは、人も大事にする〜って酒爺言ってたな。あれ、酒爺のことも忘れちまってるか? ははっ、仕方ねーな!」
     まずい質問をした自覚があるのか、グーグーは適当な相槌を打って適当な話をする。そういう所はちょっとあいつに似てるかもしれない。
    「……。グーグーだってちゃんとやってたよ。おれに教えてくれた」
    「そうだったかな、もう二百年も前だからな。でもさ、信じられないよなぁ。まさか生き返るなんてよ」
    「グーグーはちゃんといてくれたんだね、おれの傍に。ありがとう、嬉しかった」
    「どうってことねーよ。お前は俺の弟なんだ、当然だろ?」
     オトウト、それも懐かしい響き。何処かこそばゆい。そして、心が温かい。
    「兄弟って不思議だね、仲間でもないし、友達? でもないし……、うまく言えないけど」
    「だよな〜、俺なんてさ、ずっと兄ちゃんのこと半分恨んでて、でも半分では会いたかったな。今では会いたいしかねぇよ。兄ちゃんに一回捨てられたけどさ、そんなの関係ないんだな」
    「シンは、グーグーのこと好きだよ。きっと何かあったんだよ。グーグーが死んだ日、飛んできてずっとずっと泣いてたんだ」
     シンの顔が頭をよぎった時、一番初めに浮かんだのはグーグーが死んだ日のことだった。でも、何でグーグーが死んだのかははっきり思い出せなかった。それがすごく申し訳なくて、咄嗟に俯いて流し台を磨くふりをした。
    「あぁ……、兄ちゃんに会いてぇな」
    「そういうのを絆っていうのかな。何が起こったとか関係なくて、ずっと壊れないもの」
    「あーそうかもな、見えないけど確かにある気はするぜ。絆があったから俺は、またお前に会えたんだ」
    「そうか、絆か……。おれはあいつのこと、どういう風に思ったらいいのか分からなかったけど、きっとキズナってのはある気がする。だから、関係ないんだ、何があったとか……」
     グーグーは無言で洗ったまな板を立てかけると、コンロの横に転がっていた使いかけの菜箸を拾い上げた。
    「お前は会いたいのかよ、あいつに」
    「うん……、いや、でも、あいつが決めた事だから。おれから離れたかったんだ」
    「オススメはしねぇけどよ、会いたいなら会いに行けばいいだろ、なぁ。生きてるうちじゃないと、会えないんだぜ」
    「会いたくないって言うかもよ」
    「そんなこと気にすんなぁ。なんなら一緒に行ってやろうか〜? ダメだったら慰めてやるぜっ、はは」
    「いいよっ、一人で行けるよ。そのうちには、行くよ……。すぐじゃなくてもいいんだ、あいつが持ってるなら……。争いたくない」
    「よくは知らねぇけど、あいつらの一族か?なかなかにしつこいな。何かあるとトナリの姉さんが大騒ぎするんだよなぁ」
    「悪く言わないでよ、あいつは違うよ……、多分」
    「わりぃ〜、俺は話したことないけどさ、ま、確かに悪いやつじゃねぇよな。お前のこと好きだしなぁ」
    「……グーグー」
     顔が見えなくても分かる。ニヤリと笑うグーグーの顔が声に表れている。でも「好き」と言う言葉にドキリとして何も言えなかった。おれの知ってる「好き」はグーグーが知ってる。グーグーが誰かのことをずっと好きだったから。でもそれも思い出せない。
    「あー、追い討ちか、すまね……」 
    「……、それも、本当だと思う?」
     どうしても気になって切り出した。それすらもアヤフヤなものに変わってしまったら、そんな思いに胸が痛んで聞かずにいられなかった。当然グーグーはまたうーんと仮面の下で唸る。
    「……んんー、どうかねぇ。聞いてみないことにはよ。俺は見てるだけだからハラハラしたな〜、ははは、兄貴としては」 
    「そうなんだ、そっか、分からないよね」
     当たり前に返されて、否定されなかったことにホッとする自分がいた。いつのことだったか、「嫌われた」と嘆いて落ち込むあいつの姿が頭に浮かんでいた。
    「ま、それは冗談だけどよ。あいつはお前のこと大事にしてた気はするな。……まぁ、起こったことは、起こったけどなぁ」
    「きっと何かあるんだ。そう思う。おれはおれの中のあいつを信じるよ、グーグー」
    「おー。フシらしくて良いんじゃねーか。でもよ、折角皆んなと再会できたんだ、もっと嬉しそうにしろ〜。——あー、全然掃除進んでねぇな、というかないな食材、全然なんもないわ。買いに行くか……。え、店って開いてんのか?」
    「お店か、どうかな。見に行ってみようか。あ、ハルマキ、食べたいな。グーグーのやつ」
    「おー、俺のオハコ覚えてたか。任せろ! よし、作るぞ〜! 腕がなるぜぇ。フシ、お前も作るか?」
    「うん、じゃあホイコーロー作る。得意だから」
     グーグーは部屋の隅に転がっていた背負い籠をヒョイと拾い上げ肩に掛けた。そして、先に行ってるからな、と明るく言い残し階段を降りていった。
    ——タン、タン、タン。
     響く足音に耳を傾ける。あいつがそこにいるような気がして、たまらなく寂しい気持ちになった。
     あいつとのことを、初めてあいつ以外の人に聞いた気がする。おれはどこかで、これははっきりさせてはいけない事だと思ってきた。
     おれとあいつには、切っても切れない因縁が潜んでいるから。
     どうしてもそれは、忘れることができないし、どう解消していいかも分からない。あいつの血に濡れた悲壮な眼差しが浮かび上がると、余計にそう思わざるを得ない。
     けれど同じく心に焼き付いているあの穏やかな顔が、悪いもの全てを消し去っていく。
     おれはそれを、追い求めているんだろうか。あいつならきっと、あいつと一緒ならきっと変えられる。悲しい因果も。そう思いたい。
     あいつがどんな奴であってもきっと関係ない。今はそう思うことにした。おれとあいつの間にある、目に見えない何かを感じられるならそれでいい。
     誰にも分からなくていい。おれがそこにあると思えば。
     誰に咎められてもいい。おれが信じてさえいられれば。
     おれはいつか会いにいくよ。皆の夢が、お前の夢が叶う平和な世界が訪れた時に。
     だから、待っていて欲しい。ずっと、そばにいて欲しい。
     
     
     
     *******
     
     
     
    「左手よ、帰ろう……。もう充分生きたはずだ。フシに全てを返し、僕と行こう。共に、償うんだ——」
     
     ふわりと身体が宙に舞った。
     眩しくて、目がくらみそうだ。
     あの時フシと見た西空と同じくらい、赤く輝いている。
     僕は再び色に塗れる。
     雨粒のように降り注ぐものが炎を受けて煌めく。
     その一つ一つが完全な球に見える程、刻はゆっくりと流れていた。
     それを美しいと思えるくらい僕の心は澄み切っている。
     フシに全てを捧げる。
     今、その時が来た。
     フシと共にありたい、永遠に。
     その願いが叶うのに、
     なのに何故、僕は泣くのだろう——。



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    DONE『あなたのために、できること』#1

    レンリル編を題材にしたカハフシ小説です。カハフシエコの日常や、レンリル戦を控えたカハとフシの心情などを妄想してます。
    チュー程度はあり。
    以前に上げた作品を加筆修正しています。
    さして必要もないあとがきは消しました笑

    全部で3章。加筆修正でき次第上げていきます、
    相変わらずレンリルの朝の日差しは眩しかった。
     薄目のまま天井を見つめる。寝室の飾り窓から注ぎ込んだ光は目の前を仄白くけぶらせた。
     淡いモヤの中でチラチラと輝く塵。それをただ意味もなく眺めていた。
     まだ頭がハッキリしないから、とりあえずその場でうーん、と伸びをしてみる。ふっと緩めたら、朝陽で温められた空気が身体に吸い込まれた。
     ソニア国の気候はヤノメに比べて温暖。湿気は少なく晴れの日が圧倒的に多い。肌に感じる空気はカラリと乾いて申し分のない朝なのに、心は反対に陰鬱だった。
     既に隣にフシの姿はなく、起き上がり辺りを見回すと台所の椅子でぼんやりしているのが見える。
     朝の透き通る光に溶け込み、クタリと柔らかく椅子にもたれる姿は言いようもなく綺麗で、その横顔を眺めれば鬱陶しい気分も軽くなる気がした。
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