【K>【日楠】経由、【日→楠】】大切な人の命を救った人の独白。【注意】
以下のネタバレを含む
・小説『K SIDE:BLUE』
・アニメ『K SEVEN STORIES Episode 2「SIDE:BLUE ~天狼の如く~」』
・アニメ「K」2期最終話まで
※バウムクーヘンエンド(楠原くん日高さん以外と結婚)です。日高さんが幸せじゃないです。
※すげーことのできるストレインが出てきます。実はストレインじゃないのかもしれない。
もろもろOKでしたら↓へ
だめだった。
何度繰り返しても、だめだった。
俺が油断してなくてもあいつは撃たれた。
俺がいないところでも、あいつは撃たれた。
どうにか室長と引き離して、室長をかばう、というシチュエーション自体をつぶそうとしても、だめだった。
あいつは、
死ぬ。
どうやっても。
そう、あきらめてしまいそうになる。
ひょっとすると、もうあきらめていて、「時戻し」のストレインに会いに行くのは、惰性みたいなものなのかもしれなかった。
けれど――
突然、奇跡は起きた。
あいつは死ななかった。
なにごともなく、けろりとした顔で、あの絶望の日を乗り切った。
安心していいのか?
油断していたら別の日に、なんてことにはならないか?
不安を抱える俺の気持ちなど知らない様子で、あいつがちゃんと生きている日々が過ぎていく。
そして、その日にまでたどり着く。
任務で向かった路地で、「時戻し」のストレインに出会った日。
これまでずっと、「時戻し」を起こしてもらっていた日。
あいつが生きている。
巻き戻してしまったら、あいつはまた死んでしまうかもしれない。
巻き戻せるはずがない。
俺は、「時戻し」のストレインに会いに行かなかった。
平穏無事、とは言い難い色んなことがあった。
赤のクランによる学園島占拠。
緑のクランによる石盤強奪、その力の解放による混乱。
石盤が破壊され、これから異能は薄くなっていくらしい。
俺たちの組織はすぐにはなくならないものの、様子を見ながら縮小されていくことになった。
そのうちただの警察官になっちまうなあ、やっていけんのかな? なんて話を同僚たちとするようになった。
そんな頃に。
あいつが、結婚すると報告してきた。
同僚として式に招待されて。
幸せそうに笑うあいつと新婦をめいいっぱい囃し立てて。
いい式だったなー、とか、あいつがこんなに早く結婚するとはなー、とか、招待客同士で話して帰って、組織の縮小から一人部屋になった寮の部屋に帰り着いて……
誰に気を使う必要のない部屋の床で、大の字になった。
幸せそうだったな。
良かったじゃないか。
ネクタイをゆるめながらそう思う。
あいつが生きていることが、なにより一番だ。
そう思う。
それは違いないはずだ。
けれど……
「……っ!」
あいつは知らない。
この"回"の前まではずっと、"俺たちが恋人になっていた"ことを。
俺が、"恋人が死ぬ"ことに耐えられなくなって、あいつを拒絶した今回に限って、あいつが助かってしまったことを。
どうせ失うなら、そんな関係ない方がいい。
どんな関係であっても"あいつを失う"辛さは変わらないはずなのに、そう考えてしまったのは、半ばやけになっていたんじゃないかと思う。
そんなことをしてしまった"回"で、あいつは助かってしまった。
そうなってしまうと、「自分とつき合うこと自体が"いけないこと"だったのか」、とも思えた。
あの日を乗り越えたからといって、「じゃあ、これからつき合おう」なんて思えなかった。
そもそも、手ひどくふって傷つけた相手に、どのツラ下げて「やっぱりつき合いたい」などと言えるだろうか。
ましてや、「つき合い直す」ためだけに、あいつを死に追いやるかもしれない「時戻し」など、できるわけがなかった。
俺だけが覚えているあいつとの思い出が頭を駆け巡っていくのを止められない。
酸欠でもないだろうに、走馬灯のようだった。
「ーっ」
こんなにしんどいのは今夜だけだ。
今までだって、大丈夫だったんだから。
今夜だけは……
スーツの袖で口をおさえ、嗚咽を殺した。
〇短いあとがき
(また嗚咽を殺して終わってしまった……)
このあと日高さんは、楠原くんちの双子の赤ちゃんの愛らしさに心を奪われ、父親の同僚のおじさんとして、その子たちを守ると心に決めます。
よく遊びに行くので双子ちゃんたちにも懐かれて、懐かれすぎて……、っていう、あの、これ、ツイッターで、バウムクーヘンエンドと、バウムクーヘンエンドのその後(結婚してしまった好きな人の子供に好意を寄せられる)の話が流行ったときに呟いてたやつです、はい。
双子の赤ちゃんは男女で、男の子は楠原くんそっくりになってくし、女の子は強気めな美人さんで発育が良い……