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    君花(弾なる)が好き。書きかけ・供養・完成を問わず、お話はすべてここに上げています。

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    6話前提唇に、ぴりっとした痛みが走り弾は顔をしかめた。どうやら唇の端が切れたらしい。
    舌で切れたところがどこか探りたいが、今は雑誌撮影のために貸し切ったスタジオで出番待ちなのでそうすれば、せっかくやってもらったメイクが落ちてしまう。
    7人にメイクするだけでもすごく大変なのに、さらにもう一回メイク直ししてもらうのはさすがに気が引ける。そう考えて、弾は我慢することを選んだ。
    我慢することを選んだが自分が思っている以上に深く切れているらしく、うっすら血の味を感じる。どれくらい切れているか、一旦スマートフォンのカメラで確認しようと机へ伏せて置いていたスマートフォンを手に取った。
    スリープモードを解除し、カメラを立ち上げる。レンズの向きがこちら側になるインカメラモードへ切り替え、弾はスマートフォンを顔の前に掲げた。
    ディスプレイ画面に映る自分の顔を見つめ、弾は微かに瞳を瞬かせた。唇の薄皮が、大きくべろっと剥けていたのだ。
    朝、顔を洗おうと洗面所で見たときは特に変わった様子はなかったような、と首を傾げていれば画面の端を桃色が横切った。
    なるだ、と存在を認識する前に本人が近寄ってきた。
    「弾が自撮りするって珍しいね」
    スマートフォンと弾とを交互に見比べ、意外そうな響きでそう尋ねられ思わず渋面になった。
    「違ぇよ。唇が切れてるのが気になって、見てただけ」
    断じて自撮りじゃないと憮然とした物言いになる弾へ、大二郎は本当だと呟いた。
    「すごく痛そうなんだけど、今までよく気づかなかったね?」
    痛そう、となぜか自分より大げさに顔をしかめている大二郎へ弾はお人好しも極まれりだな、と肩をすくめた。
    「ついさっき見たら切れてたんだよ」
    どことなく返事が言い訳めいたものになってしまうのは、普段からメンバーへ体調管理をちゃんとしろ、夜9時過ぎの間食は肌荒れの原因になるから禁止だと口うるさく言っているにもかかわらず自分のことになると打って変わり、無頓着すぎるという矛盾した状況になっているからだろう。
    きっと大二郎も呆れているはずだ。弾は若干の気まずさを覚えて、スマートフォンへ視線を落とすふりをした。
    けれど大二郎から出た言葉は弾の予想を大きく外れるものだった。
    「なんか考えごとでもしてたの?」
    「……何で分かったんだよ」
    確かに大二郎の言う通り、さっきまで考う紛れもない事実だった。『君の花になる』の次に出す新曲のテーマとメロディーラインについて悩んでいたのだ。今までポップスとバラードの曲を交互に作曲していたが次はジャンルをがらっと変えた曲調にチャレンジしたいと思っていた。ダンスを得意とする竜星と宝がいるので次はアップテンポな曲調にしても面白いかもしれない。
    そのようなことをロケバスの移動中もメイクされている間もずっと考えていた。
    が、今日のロケバスは、なるが一番最後に乗り込んできたので一人だった。楽屋に入ったときも昼を食べ損ねたとかで、巧と一緒に差し入れのサンドイッチを食べていたので今日、喋ったのは今が初めてだ。
    弾が考えごとをしていること自体、なるには分からないはずである。なので弾の疑問はもっともだった。
    すると大二郎は合点したよう、ああとうなずいた。
    「弾は自分で気づいてないかもだけど、考えごとするとき、唇を噛む癖があるからそれで切れたのかなってなんとなく……」
    大二郎の言葉に弾は一瞬、虚をつかれたよう口を半開きにする。気心の知れたメンバーしかいない時でも、あまり表情を崩したことのない弾がぽかんとしているのに、大二郎は悪戯っぽく片目をつむった。
    「弾とは5年くらいずっと一緒にいるのに、癖を把握してないわけないでしょ」
    たぶん、弾のその癖は無意識にやっちゃってるから今まで気づかなかっただけだと思うと付け加えられた。無意識でやっているということは、弾本人もほぼ自覚がないままやっているのに他ならない。
    改めて大二郎の視野──観察眼の広さはすごいと感心したよう、弾は吐息をつく。
    「そんな癖あるってお前から聞いて今、初めて知った……ありがとな、なる」
    礼を言うと、大二郎はぶんぶんと頭を横に勢いよく振った。
    「無意識だし、無理に直そうって思うより唇が切れた時用にワセリンとかリップクリーム持っとくっていう方法だと、弾は楽かも」
    性格を把握したうえでの的確なアドバイスにどっちが年上なんだろうな、と自分の体たらくを苦々しく思って、弾は皮肉げに口端を歪めた。
    すると次の瞬間、さっきも感じた鈍い痛みが同じ箇所に走る。思わず痛っ、と呟けばいつの間にか隣に移っていた大二郎が覗き込んできた。
    距離がかなり近いことに弾は少し落ち着かない気持ちになって、大きく身じろぎするが当の本人──大二郎はそんな心境などまったく知らないとでもいうかのように顔をまじまじと見つめてくる。
    (まつ毛、長いな)
    そもそもこんな近くで顔を突き合わせること自体、滅多にないため大二郎のまつ毛が長い事実に今更ながら感心する。くるんとカールしていてマッチ棒が5本は乗りそうだとせんないことを考えた。
    「さっき見たときはそんな切れてない感じだったけど、結構ざっくり切れてるから色つきのリップクリームを塗ってとりあえず、ぱっと見分からなくした方がいいかもだね」
    切れた唇を観察し終えた大二郎からそう告げられ、弾は大人しくうなずいた。ここは大二郎の言うことを素直に聞いた方がよさそうだと判断する。
    先ほど“色つきリップクリーム"という聞き慣れない語句が出たので弾は聞くことにした。
    「色つきリップクリームってどういうやつ?」
    弾の問いかけに、それまで抱えていたポーチをごそごそ探していた大二郎が顔を上げた。その手にはいくつかのリップスティックが握られている。
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