カピオロ書き納め恋も何も始まってないカピオロで地脈異常か何かで隊長の魂の気配だけ感じ取れなくなったオロルンの話。
「おっ、見ろよあれ隊長じゃないか?おーい」
旅人に誘われ秘境に行った帰り、聖火競技場付近で隊長を見かけてパイモンが手を振った。
「競技場近くにいるなんて珍しいな。何かあったのか?」
「炎神と話を詰めなければならない件があってな」
こちらから近付いていくと、隊長は足を止めて答えてくれる。
「隊長……?」
だがその気配がいつもと違う。首を傾げてみたが、むしろ周りのみんなが不思議そうにしている。
「オロルン?どうしたんだ?」
「みんな、何も感じないのか」
「どうした」
隊長が心配そうに見下ろしてくる。この距離にいれば感じていた彼の魂の真っ直ぐさや心地良いずっしりとした重さが感じられない。思わずぎゅっと正面から抱き付いて、胸に耳をつけてみる。
「ど、どうしたんだよオロルン。隊長が困ってるぞ」
「隊長の魂の気配が感じられないんだ」
他の人は同じように感じられているのに、隊長のだけ感じられないなんて、もしかしてもう彼の限界を迎えてしまったのだろうか。
「……おまえ達はここからどうするつもりだ」
「オイラ達はもう少しで解散しようとしたところだ」
「オロルンは俺に任せてもらっていいだろうか」
「オイラ達は構わないけど、オロルンはそれでいいのか?」
くっついたままこくりと頷くと、じゃあな、今日はありがとなと言い残して旅人とパイモンは競技場へ向かっていった。
「オロルン、場所を移すぞ」
「……わかった」
軽く肩が押されたので手を離すが、やはり欠片もあの落ち着く感覚がなくて、マントの裾を掴ませてもらう。いつだったか、旅人との待ち合わせで使用した競技場の東の場所へ隊長の後をついていく。
「それで、何があったか説明してくれ」
「僕にもわからない。秘境で旅人とシロネン、ムアラ二と一緒に戦ってたんだ。そのとき少し地脈に違和感があったけど、特に何もなかったんだ。君のこと以外」
「……俺としては変わったことは何もないが」
「そう、か。じゃあ僕がただ感じられなくなっただけ、なんだろうか」
でもそんな隊長一人だけなんて、何か意味がある気がしてならない。
「僕の杞憂だったらいいんだけど、しばらくまた君と行動してもいいだろうか」
隊長は黙って何かを考えている様子だった。僕の独りよがりで彼には意味のない行動だ。断られたらまた遠くからついていくしかないか、そこまで思考が行き着いたところで隊長が肩を竦めた。
「どうせ断ってもついてくる気だろう。好きにしろ」
「ありがとう」
そうしてファデュイの拠点を始めとして隊長の向かう場所にひたすらついていった。隊員の人達は、また隊長と僕が何かしているのだろうと特に気にしていない様子だった。たまに正面もしくは背面から僕がくっついて気配を確認することを除けば。ただ隊長は何も反応しないし、彼が許可しているならとみんな口を挟む様子はない。時間が経てば戻るかと思っていたが、一向に戻る気配がない。深夜と言える時間帯になってもついていこうとしたら止められてしまった。
「一晩経てば治る可能性もある。今日はここまでだ」
「でも、その間に君に何かあったら」
「随分と信頼がないようだ」
深い溜め息と共に投げられた言葉にはっとした。本来はここまで干渉することも許されない立場だ。さすがにもう引くしかないかと俯いていると、ひょいと抱えられて天幕の中のベッドに転がされた。そのベッド脇の床に隊長が座る。
「……おまえが寝ている間はここにいればいいんだろう」
本当に、この人は何故こんなに優しいのか。もう少し遠慮するべきなのだろうが、心配なのは本心なので、マントを一部ベッド引っ張り込んで握らせてもらう。
「付き合わせてごめん、おやすみ」
「……あぁ」
これは僕を安心させるための距離だ。寝入ればわからないから、きっと彼は抜け出して行動するだろう。そう思っていたのに、目覚めるとあの落ち着く気配を全身に感じる。
「起きたか」
手はマントを握り締めたまま。隊長の位置も変わっていない。どうやら本当に一晩そのままでいてくれたらしい。何事もなかったこと、またこの感覚を味わえたことが嬉しくて後ろからぎゅっと抱き着く。
「その様子だと戻ったようだな」
「うん、やっぱり君の魂はこうでないと落ち着かない」
「やれやれ、俺にこれだけ強く出られるのはおまえくらいだろうな」
これはきっと、友人だからこその距離感だろう。そう満足して、しばらくこの魂の気配を堪能するのであった。