まだ、知りたくない「今日は何の日か、知っているかい?」
「……バレンタインデーだろ?」
「なるほど、君にもそれは分かるんだね」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味さ」
クレイジーロックの開放日。ランガと思いっきり滑るつもりでわくわくしながらやって来たというのに、コースを何度か滑って、ゴールの廃工場からスタート地点に戻ろうとしたところで、見慣れぬ車に連れ込まれた。
エスでもビーフでもないのに、一体何が起こったのかと警戒した暦の隣に座っていた人物を見て、暦の警戒心が最大まで上がる。
後部座席に並んで座る形で、長い脚を組む男。見慣れた赤い衣装を身にまとい、仮面で顔を隠した男――愛抱夢――に、警戒しながらも疑問が沸く。
――なんかあったっけ?
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