Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    みすみ

    妄想をぽいぽい。🛹沼心地良い……❤️🌺、🌹🌺、🐍🌺中心。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    みすみ

    ☆quiet follow

    同学年のアダ暦(愛暦)を書く練習に、書いてみたかった頭痛もちの🌺くん設定も追加して書いてみた習作。折角なのでこそっと投稿。
    同じ学校の同級生パロ。🌺くん視点。
    書いてて楽しくなったので、調子に乗って❤️さん視点も書いてしまいました☺️💦
    なんでも許せる方向けです。

    #愛暦
    calendar
    #アダ暦
    personsCalendar

    そのぬくもりに、癒されて side R 授業と授業の合間。
     束の間の自由に賑わう教室で、次の授業で使う教科書を出しながら、チリ、とこめかみの辺りを掠めた痛みに暦は顔を顰めた。
     窓の外を見上げると、黒い雲が重たく広がっている。五月に入ってすぐ梅雨入りした沖縄では、六月に入っても連日じっとりと湿気の多い空気と、重たい雲、突然の雨がセットでやってくる。
    チリチリと強くなってきた感覚に思わずきつく目を閉じて、次の授業は寝て過ごそうと決めると、教科書を申し訳程度に立ててもぞりと己の腕を枕に机に伏せた。

     なんとか授業をやり過ごし、明確に痛みを主張し始めた頭を片手で抑えながら、弁当箱を片手にふらりと教室を出る。授業中に降りだした雨はまだ勢いが衰えず、このまま暫く降りそうだ。
    あちこちでランチタイムを楽しむ生徒たちの会話が刺激となって、鈍い痛みがくわんくわんと響く。蹲ってしまいたい衝動をなんとか抑えて、よろよろと階段まで辿り着くと、手すりを命綱にゆっくりと上っていく。
     普段は何の苦もなくひょいひょいと駆け上っているそれが、今は全く違った物に感じて、刺激を増やさないようなるべくゆっくりと呼吸をしながらものろのろとひとつ上の階まで辿り着く。
     あと少し、と壁に手をつきながら目当ての教室が見えてきたことに、ほぅと息を吐いた。
    『生徒会室』
     普段は鍵のかかっている筈の扉に手を添えてそっと横に引くと、カラカラと軽い音を立てて開いていく。
     入って正面に、高校の生徒会室に置かれるにしては重厚な雰囲気の木製の机と、所謂社長椅子と呼ぶような立派な椅子が配置されており、黒い革張りの椅子に腰掛けていたこの部屋の主が、驚いた様子もなく手元の本から顔を上げた。
    「そろそろ来る頃だと思った」
    「……あたまいてぇ」
     ぽつりとそれだけ言って、手前に配置されている会議用のパイプ椅子に腰掛けて長机に上半身を預ける暦に、短い問いが投げかけられる。
    「薬は?」
    「この前飲んだのが最後……買い忘れた」
     さいあく、とそれだけ呟いて弁当の包みを脇に置くともぞりと寝る体勢に入った。

     ******

     一体いつからだったか明確には覚えていないが、天気の悪い日に頭が痛むようになった。頭痛の程度は軽い時もあれば重い時もあって、重い時は授業を聞くのも、人の話し声を聞くのも辛い。
     どうにも辛い時は保健室に行ってみたが、昇降口に近く校庭を見渡せる立地は、頭痛を抑えるのには不向きだった。
     そんな暦に意外なところから助け船が出たのは、梅雨入りしてすぐ、保健室で横になるのを諦めて、閉鎖された屋上近くの階段に蹲っていた時だった。
    『……屋上は閉鎖してるよ?』
     軽やかな足音が上がってきて少し手前で止まり、耳触りの良いテノールが鼓膜を震わせた。のろのろと頭を上げると、段差のせいで本来より低い位置にある青い髪が見えた。
    『……知ってる』
     同じ学年の特進クラスで常に主席をキープしている秀才、運動神経も良くスタイルも顔も良いと評判の人気者である神道愛之介が、何故閉鎖していると知っていてここに来たのかを考えるには、血管がずくずくと激しく脈打つ鈍い痛みが邪魔をして。
    自分が何故ここにいるのかを説明するのも億劫で辛うじてそれだけを返すと、鮮やかな紅い目が微かに見開かれる。
     普段、同級生と思えないくらいに落ち着いていて、どこか冷たさを覚える笑みを浮かべている人間と同一人物とは思えない幼さを感じさせる仕草をぼんやりと眺めて、またのろのろと頭を膝の上に乗せた腕枕に戻す。
     頭が重たくて、持ち上げているのもしんどいのだ。このまま、放っておいてほしい。
    『……授業は、でるから』
     それだけを言って、瞼を閉じる。腕に遮られて真っ暗な世界で、遠ざかる喧騒を感じながら意識を手放してしまおうとしていると、不意に空気が揺れた。
     先ほどよりも抑えられた足音が近づいてきて、すとんと隣に誰かが座った気配がする。
     見なくても、誰が座ったのかはすぐに分かる。
     何も言わない彼に、少なくとも立ち入り禁止とされているこの場所からすぐに追い出される事はないのだと安心して思考を放棄しようとした時、髪に何かが触れた気がして反射的に体を起こした。
     急に動いたせいでぐわんと脳が揺れたような痛みに思いっきり顔を顰めると、予想通り隣に座っていた愛之介が驚いたように固まっている。
     中途半端に伸ばされた手に髪に触れたものの正体を察して、詰めていた息をゆるりと吐き出した。呼吸するのに合わせてずくずくと痛む頭に、余計なことをと思わないでもないが、親切心かもしれないそれを無碍にする事は躊躇われた。
    『……なに』
    『頭を、撫でようかと』
    『そーゆうの、いーから』
     無理矢理声を押し出して、またもぞりと体勢を整えながら言う。
    『ほっといて』
     返事は聞こえなかったが、痛みが限界を迎えていた暦はそのままゆっくりと意識を手放した。
     その後、目が覚めた時には既に放課後で。
    やってしまったと苦い気持ちになったが、肩にかけられていた自分のものより大きな学ランにさらに苦い気持ちを抱いた。
    『……返さなきゃ、だよなぁ』
     特進クラスの、人気者に。
     気は進まないが、返さなければ困るのは向こうだ。一応厚意で掛けてくれたのだろうから、返せるなら返すべきだろう。
     重いため息を吐いて、ゆっくりと階段を降りる。階段の窓から見えた空は綺麗に晴れていて、それに恨めしい気持ちを抱きながらも、暦は特進クラスの教室を目指してのろのろと足を動かした。

     放課後の、掃除も終わった時間。
     教室にはほとんど人が居らず、探し人の姿も無かった。それを喜ぶべきか否か複雑な気分のまま近くに居た生徒に所在を尋ねると、生徒会室に行ったと言う。帰宅したのであれば席に置いて帰ろうと思ったのに、まだ居る可能性があるのならば行かなくてはならないだろう。
     手元の学ランを置いて帰ってしまいたい気持ちを抑えながら、暦は何度目かのため息を吐いて生徒会室を目指して歩みを進める。途中で自分の教室に寄ってカバンを回収し、そう言えば生徒会長なんだったと廊下に貼られた校内新聞を眺めて納得した。
     成績優秀、眉目秀麗。人柄も申し分ない。
     出来過ぎなくらいに出来過ぎた人物だと思う。噂に聞いた話では、家は代々続く議員の家系だとか。
     ――そんな人間、現実にも居るんだな。
     他人事のようにそう考えて、穏やかそうなのにどこか冷たさを感じる瞳を思い出す。
     ――自分だったら、絶対にしんどい。
     まず有り得ない事ではあるがつい想像して、たいして膨らまなかった想像だけでもげんなりとする。
     自分達の教室がある階から一階上がって奥から二番目の教室の扉が、生徒会室だ。
    扉の上に掲げられた名称を確認してそっと扉の前で耳をすませてみるが、特に物音がしない。やはり帰ってしまったのではないだろうか。
     もうそういう事にして帰ってしまいたい。いや、帰ろう。学ランは教室の座席を誰かに聞いて置いておこう。
     誰にともなくそんな言い訳を並べてそっと扉から離れると、来た道を引き返そうとして、
    『……なにをしてるのかな?』
     背後から聞こえた声に、びくりと肩が跳ねた。
     恐る恐る振り返ると、昼休みに見た鮮やかな紅色と目が合った。
    『……上着、返そうと思って』
    『そうだったんだ、いつでも良かったのに。わざわざありがとう』
     慌てて差し出した上着を、どこかの俳優のように気障な仕草で肩を竦めてみせる愛之介に、目の前の人物は本当に同い年の一般人なのだろうかと首を傾げたくなる。
     長めの前髪から覗く紅い目は静かに暦を見下ろしていて、何を考えているのか伺えない。けれど、差し出した上着をいつまでも受け取ってもらえない事に戸惑って、ぐ、と胸の辺りに押しつけるようにすると、ようやく受け取った。
    『じゃあ、返したから』
    『……いつも、あそこに居るの?』
    『いつもじゃねぇよ』
     生徒会長相手にあまり正直に言って、立ち入り禁止を徹底されても困ってしまう。かと言って、嘘をつくのも躊躇われる。
    『……頭が痛ぇ時だけ』
    『あそこは空気が悪いだろう? 保健室は?』
    『意外と騒がしくて、休めねぇんだよ。あそこの方がマシ』
    『あぁ、成る程』
     ふむ、と口元に手を当てて首を傾げる様がまた芝居がかっていて、それが嫌味にならないのがすごい。
    『じゃあ、帰るから』
    『提案があるんだけど』
     帰ろうとしている暦を気にする様子もなく、愛之介はにこりと笑みを浮かべた。
    『ここを使うのはどうかな?』

     ******

     唐突すぎる提案に冗談だろうと適当に相槌を打って帰宅した暦は、後日その言葉が本気であることを身をもって知った。
     いつものように屋上近くの階段で蹲って居ると、軽やかな足音と共に愛之介が現れ、ぐったりとして拒否する気力もない暦の手を引くと当たり前のように生徒会室に連行された。
     生徒会長用の席の方が座り心地が良いと言われたのを、それだけは勘弁してほしいと痛む頭を抱えながら説得して、長机とパイプ椅子を使わせてもらった。
     実際、椅子に座って机に伏せると蹲っているより幾分体勢が楽になって、教室とも階が違うので喧騒もあまり気にならない。
     昼休みに生徒会室を使わないのかは気になったが、一度この快適さを知ってしまうと、聞くのは躊躇われた。
     ――それに。
     きらしてしまった市販の鎮痛剤と同じものを差し出されて、それをありがたく胃に流し込む。
     いつの間にか用意されていたブランケットを枕代わりに、机の上で抱きしめるようにして目を閉じると、離れた位置で椅子が軋む音がして、静かな足音が近づいてくる。
     瞼が重くて目を開ける事はできないが、僅かな光を拾っていた視界に影がさす。
     隣のパイプ椅子が僅かに軋んで、人の気配がする。
     そのままじっとしていると、頭に何かがそっと触れて、やがて確かめるようにゆっくりと撫でられる。静かに、穏やかに繰り返されるそれは、初めのぎこちなさを思い出せないくらいに心地良い。
     生徒会長で、特進クラスでも首位だという人気者。いくら同じ学年でも、一般クラスで目立つところのない自分は、きっと卒業まで関わる事はない人間だと思っていた。
     どうして、あの日あの階段を上ってきたのか。
     どうして、生徒会室を使わせてくれるのか。
     どうして、頭を撫でるのか。
     聞きたい事は沢山ある。
     沢山あるけれど、それを聞いたら今のこの距離感が変わってしまう気がした。
     クラスメイトでもない、友達とも言えない、親友なんて近さでもない。
     けれど、こうしてこっそりと静かな時間を共有して、調子が良い時は軽口を叩いたりもする。
     そんな、名前のない関係性が心地良いから。
     いつか聞いてみたい。でも、今じゃない。
     だから、頭を撫でられる心地良さを甘受しながら、暦は今日もゆっくりと眠りに落ちたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💞💘💘💘😭😭😭👏👏👏🏫
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works