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    syako_kmt

    むざこく30本ノック用です。
    成人向けが多いと思うので、20歳未満の方はご遠慮下さい。

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    「猫の日」(2022)

    #むざこく
    unscrupulousCountry

    猫の日(2022) それとは、近所の商工会議所に行った帰り道で出会った。
     夕暮れの住宅街の細い道。人通りは全くなかった。なので、余計に無視して帰ろうと思った。
     しかし、みゅーみゅーと鳴く声に後ろ髪を引かれ、その痩せた黒猫を摘まみ上げた。猫のことはよく解らないが、顔は幼く、鳴き声も頼りない。首輪はしていないので、どうやら野良猫が産み、そのまま野良になったようだ。
     抱えて帰るのも憚られるほどに汚れた猫だが、軽いとはいえ、このまま摘まんだ状態で帰るのも忍びない。
     舌打ちして、腕に抱えると、猫は少しも嫌がる様子はなく、嬉しそうに「にゃー」と鳴いた。

    「えっ!? 猫!?」
     事務所に汚れた黒猫を抱えて帰ったら、皆が驚いて固まった。鬼舞辻議員と猫、ミスマッチな取り合わせに皆が動揺するが、一番動揺しているのは彼自身である。
    「洗え」
     黒猫を近くにいた童磨に渡すと、眉を下げて不満そうな顔を浮かべる。
    「拾ってくるのは可愛い女の子だけにしてくださいよー!」
     女の子のお世話なら喜んでしますけど、と言いつつも、童磨は猫を抱いたまま、他のスタッフに温かい濡れタオルを用意するように指示を出す。鬼舞辻は毛や土、枯れた草が付いたジャケットとジレを脱いで、無造作に床に投げた。慌ててスタッフが拾い上げ、走って近くのクリーニング店へ持っていく。今日に限って、特に良いスーツを着ていた為に余計に機嫌が悪いようだ。
    「君、先生のトムフォードのスーツ、汚しちゃったねぇ」
     洗面台で指紋がなくなりそうなレベルで手を洗う鬼舞辻の後ろ姿に、童磨は茶化すように声をかける。
     なかなかの潔癖症なのに、よく野良なんて拾ってきたな、というのが一番の驚きである。
    「しかし、愛人と犬猫集めて、動物王国でも作る気ですか? 愛人だって満足にお世話出来ないのに、猫ちゃんの相手が出来るんですか?」
    「わからん。取り敢えず、お前が世話をしろ」
    「えー!?」
     めちゃくちゃである。何度か抱いて飽きた愛人の嫁ぎ先を探せという無理難題も聞いてきたが、拾ってきた猫の世話までしろとは、あまりにもえげつない。
    「奥様をお呼びすれば良いじゃないですか!」
    「はぁ? あれとは選挙以来会っていないから、猫の世話くらいで来るわけがないだろう!」
     会うのは選挙と身内の冠婚葬祭だけ、と決めているようで仮面夫婦を貫いている。政略結婚とはそんなものだ、と二人とも割り切っているようで、それぞれの私生活には干渉していない。その為、鬼舞辻は愛人をコロコロと変え、スキャンダルは金と童磨の人脈で揉み消していた。
     ワイシャツの上から、事務所に置いていたカーディガンを羽織って席に着くと、スタッフがコーヒーを出した。猫に一切目もくれず、パソコンでメールのチェックをしているが、童磨の独り言が煩くて内容が頭に入ってこない。
    「君、なかなかハンサムだねぇ」
     タオルで汚れを拭いながら、童磨は猫の顔を見る。
    「オスなのか?」
    「そうですね。ついてますよ」
     前足の脇に手を入れて持ち上げると、びろーんと腹部は露になる。猫はバタバタと暴れ出した。
    「ごめんごめん、恥ずかしかったよね」
     膝の上に乗せて、再び優しくタオルで撫でた。
    「で、どうするんですか? 里親、探しますか?」
     猫はおどおどしながら鬼舞辻の顔を見る。しかし、鬼舞辻はそんな猫の表情に気付いていない。それより、タオルで軽く汚れを拭き取っただけで、かなりの美猫だと気付き、その容姿が気に入ったようだ。
    「いや、うちで飼う」
    「えぇー!?」
     あの鬼舞辻が猫を飼う!?
     という驚きではない。飼っても、世話をするのは自分たちだ。
     それでなくても側近である秘書が現在空席で、最短で1時間、最長で3日で辞めるような多忙な事務所で、全員で悲鳴をあげながら鬼舞辻の世話をしているのに、その上、猫の世話まで……という絶望感である。
     一番付き合いが長く、割とズケズケと物を言う童磨の方向を全員が見るが、流石に「飼うな」とは童磨も言えない。
     そんな空気を察して、鬼舞辻は童磨の膝から猫を奪い取った。
    「猫の世話くらい自分でするわ」
     猫は「みー」と鳴いて、鬼舞辻の細い指先を舐めた。

     その宣言通り、鬼舞辻は自宅に連れて帰り、日中はなんと事務所に連れてきていた。
     スタッフに猫アレルギーがいないか確認すると、事務所内に猫が寛げるスペースを自分で作った。しかし、猫はキャットタワーに見向きもせず、トイレ以外は鬼舞辻の膝の上にいた。
     拾った日、鬼舞辻は助手席に大きな段ボールを置いて、その中に猫を入れた。
    「じっとしていろよ」
     頭を撫でると、猫は嬉しそうに目を細め、ちょこんと座っていた。そのまま、近くのペットショップに寄り、猫用のトイレや砂、キャットタワー、ベッド、キャリーバッグ、ケージ、食器類、カリカリや缶詰など大量に飼っていた。
     着ていたカーディガンに包んで店内を歩いていると、「(議員も猫ちゃんも)可愛いー♡」と店員が親切に色々教えてくれるので、どんどん買うものが増えた。
    「風呂に入れたいのですが、シャンプーは?」
     タオルで拭いただけでは納得いかなかったようで、猫用のシャンプーを張り切って買っていた。ちゃんとブラシやコームも買い、手入れする気が満々なようだ。
    「水が苦手な子もいますけど……」
    「多分大丈夫です。な?」
     鬼舞辻が言うと、猫は自信なさそうに「みゃー……」と答えた。

     帰り道、鬼舞辻のカーディガンに包まったまま、段ボールの中で猫は眠っていた。寝ているところ申し訳ないな、と思いながらも帰ったら風呂場に直行した。スラックス、ワイシャツを脱いで、ボクサーパンツ一枚になって猫を抱えて入る。
     アクリル製のオシャレな洗面器にぬるめのお湯を入れて、その中に猫を置く。ブルブルと震えるが、ゆっくりと手でお湯を掛けながら、体を撫でるように洗う。嫌がっているようだが、抵抗せず、大人しくしている猫の頭を優しく撫でる。
    「よしよし、いいこだ」
     人前では絶対に見せない優しい笑顔を見せ、薄めたシャンプーで体を洗い、しっかりと漱いだらバスタオルに包んで水気を吸い取る。ブルブルと体を振ると水滴が飛び、そんな様子も嬉しそうに笑って見ている。ドライヤーから緩やかな冷風を出し、手で水気を飛ばしながら乾かして、優しくブラッシングすると、艶々の黒い毛の美猫へと変身した。
     満足したようで、猫を抱き上げ、半裸のまま猫との自撮り写真を撮り、事務所のグループLINEに写真を送信した。「どっちが似合う?」以外の自撮りが初めてだったので、全員が写真を見た瞬間吹き出した。半裸な上に、髪が濡れて乱れ、白い肌は上気し汗が滲んでいるので、無駄に卑猥な写真であるが、そんな鬼舞辻が霞むほどに猫が可愛かった。
     リビングに屋根付きの猫用ケージをセットして、トイレ、水、フードを置いた。その間に自分もシャワーを浴びる。いつもはゆっくりと入浴するが、ささっと洗って、バスローブ姿でリビングにやってきた。
    「食べないのか?」
     少しも減っていないフードを見て、鬼舞辻は猫を抱き上げ、摘んだカリカリのフードを猫の口に運ぶ。くんくんと匂いを嗅いで、ぱくっとひとつ食べたので、そのまま手で一粒ずつ食べさせた。水も自分では飲めないので、指先に付けた水滴を舐めさせ、小さなスプーンで少しずつ与えた。鬼舞辻は抱っこしたまま、大きなビーズソファに腰掛け、猫を撫でたまま眠ってしまった。
     翌日は午前半休を取って動物病院へ連れていった。どこも異常がなく、健康体と聞き、嬉しそうに猫を連れて昼から事務所に来た。
    「めちゃくちゃ可愛がってるじゃないですか」
     童磨に言われ、「お前らに世話が出来るところを見せる為だ」とムッとした表情で言うが、カリカリのフードを手ずから与える甘やかしようで、部外者のいない時間は当然のように膝に乗せてミーティングもしていた。かろうじて赤ちゃん言葉で話しかけることはないが、恐らく自宅ではやっているだろうな、と全員が思っていた。
     それくらいの可愛がりようで、自撮りにも必ず猫が映っており、スタッフが猫と過ごす鬼舞辻の動画をSNSにアップすると大反響である。普段、美形が故に冷たい印象を与えていたが、表情が柔らかくなったと評判だった。
    「猫と先生の組み合わせ、良いよね。美しい……」
    「えぇ、先生も猫も美形ですからね」
     うっとりと眺める童磨に、久し振りに事務所に来ていた鳴女が淡々と返事をする。
    「ところで先生、猫ちゃんの名前は?」
     鳴女に言われ、全員が固まった。
    「そういえば……」
     皆が鬼舞辻を見ると、猫を撫でながら首を傾げる。
    「名前なんているのか?」
    「いりますよ!!」
     全員のツッコミを受け、鬼舞辻と猫はビクッと肩を震わせた。
    「おうちで何て呼んでるんですか?」
    「おい、って呼んだら来るのだ」
    「あー、それ絶対、名前を『おい』だと思ってるパターンですよねー!」
    「何が悪い」
    「保健所やペット保険に登録する際、飼い主の名字と猫の名前を書くんですけど、今のままですと『鬼舞辻おい』になりますね」
     美しい愛猫が「鬼舞辻おい」という名前は嫌だと思った鬼舞辻は、大急ぎで名前を募集するが、結局初めて飼った猫ということで「壱」と名付けられた。
    「壱か、かっこいいね」
     童磨は壱を抱き上げるが、壱は童磨が触ると「ふーっ!」と息を荒げ、背中の毛を逆立てるのだ。最初に世話をして以降、壱はやけに童磨を威嚇していた。
    「俺、もしかして壱に嫌われてます?」
    「お前のいいかげんなところが嫌いなのだろう」
     童磨から奪い取り、鬼舞辻は壱を抱き締めてキスをした。

     それから半年ほどが過ぎ、珍しく壱が事務所にいなかった。
    「あれ? 壱は?」
    「今日は留守番だ」
     ワイシャツのカフスボタンを整えながらしれっと答えるが、今日の鬼舞辻は一段と気合いが入っている。
    「もしかして、デートですか?」
    「あぁ、でも夜は家に帰る」
    「珍しい! 自宅に女性を連れ込むなんて!!」
    「仕方無いだろう。壱がいるのだ」
     猫と泊まれるホテルまで調べたようだが、流石にそれは……と思い、外でさくっと済ませて帰ることも考えたが、それも味気ない。食事の後、自宅に行くという選択肢に至ったようだ。
    「自宅に上げるくらいだから、大分お気に入りなんですよね」
    「そうだな」
     最近、壱との生活がメインとなり、スキャンダルと無縁で大人しい生活を送っていたが、今日はキラキラしていて、なかなかの色男っぷりである。自分で運転して帰るので、お酒を一滴も飲まずに夕食を済ませ、新しい彼女を乗せて自宅へと向かった。
    「ただいま」
     家に入ると、壱が玄関で出迎える。しかし、隣の見知らぬ女性を見て、険しい表情で威嚇する。
    「壱」
     鬼舞辻に注意されるが、ぷいっと怒って、リビングに設置されたベッドに入っていった。二人でソファに座って、寄り添いながらワインを飲んでいる。その姿を見て、壱は鬼舞辻の膝に乗った。女性が壱を撫でようとすると噛み付こうとするので、びくっと手を引っ込めた。
     壱をケージに入れて、二人は一緒にバスルームへと向かう。しかし、壱はケージから抜け出して、一緒にバスルームへ入ってくる。
    「出ていけ」
     と注意されるが出て行こうとせず、ガリガリと洗面所の壁を掻こうとするので、それを止める為にバタバタしていて、少しも良いムードにならない。出した結論はこれだった。
    「今夜は帰ってくれ」
     鬼舞辻はタクシー代を彼女に渡して見送った。彼女がいなくなると、壱はつーんとして、自分のベッドに戻った。大きな溜息を吐き、鬼舞辻は一人でシャワーを浴びた。

     こんなことは一度や二度ではなかった。他人を連れてくると嫌がるのかと思い、外で会って帰ると、他人の香水の匂いがする鬼舞辻を全力で威嚇してきた。
    「壱って、物凄いヤキモチ焼きですよね」
    「うーん……」
     膝に乗せながら鬼舞辻は頭を抱えた。流石にスタッフには手をつけないので、事務所のスタッフに壱が威嚇することはないが、童磨だけは付き合いが長く、気安く話しかけてくる為、異様にヤキモチを焼いた。
    「お前は私の壱だ。つまらぬヤキモチを焼くな」
     何度もそう説得するが、壱の嫉妬心は強くなるばかりだった。
    「でも、壱を見てると、何か懐かしくないですか? どっかで会ったことない?」
     童磨が壱の顔を覗き込むと、壱はぷいっと顔を背けた。
    「まぁ、先生のスキャンダル予防に丁度良いですからね。壱、虫除け頑張ってね」
    「煩い」
     セフレすら作れない、と大きな溜息を吐きながら、鬼舞辻は壱を撫でた。
     しかし、女遊びが出来ないくらいで、鬼舞辻の壱への愛情は薄れず、寧ろ休日は壱と遊ぶことで時間が潰れるので、健全な生活を送っていた。

     今日も壱と遊び、猫じゃらしを握ったまま眠ってしまった。壱はブランケットを鬼舞辻に掛けようと咥えるが、重たくて少ししか動かせない。諦めて、とぼとぼと鬼舞辻の顔の横に座る。そして、そっと鬼舞辻の唇にキスをした。
    『無惨様……』
     心の中でその名を呼んでも、声にはならず、壱は猫としての鳴き声を上げるだけだった。やっと愛しい我が主に出会えたというのに、自分は猫として転生した。童磨や鳴女は人として生まれ、鬼舞辻無惨の傍で生きているのに、どうして自分だけ……と、悔しくて気が狂いそうだった。事務所内のスタッフも何人かかつて鬼であった者たちがいる。今生では鬼舞辻に叱責されながらも、生き生きと働く姿に臓腑を焼かれる想いだった。
     壱と名付けられたことが、この猫にとっての唯一の救いだった。猫に生まれても自分は無惨の壱だというプライドだけが、猫……黒死牟の唯一の拠り所だった。
    『無惨様は……今生では太陽を浴び……人々の上に立つ仕事をなさっておられる……』
     鬼舞辻が活躍していることを黒死牟も知っていた。前世よりも更に磨かれた容姿で、歓声を浴び、堂々と演説する姿は我が事のように誇らしかった。鬼舞辻無惨は本来、このような立場にある男だと常々思っていた。殿上人であり、自分たちのような武家の人間とは違う立場の者だと。国を治めるほどの立場にあることに胸を熱くした。
     しかし、どれだけ黒死牟が感動しても、空席になったままの第一秘書の座に自分は着けないのだ。猫では彼の役には立てない。
     ぽっかりと開いたままの彼の側近。誰もが「相応しい人間がいた」「彼のパートナーがいた」と何か感じてはいるが、鬼舞辻無惨が長年供を許した黒死牟は今生にはいないのだ。その空白を誰もが知りつつ、黒死牟の存在を思い出せずにいる。
     それだけではない。前世では無惨がどれだけ結婚を繰り返し、愛人を作ろうとも何も思わなかった。どんな女よりも自分が最も愛されているという自信があった。今生でも、誰よりも大事にされていることは確かだが、あの時のように優しく抱かれることは二度とないのだ。
     こんな酷い罰があるだろうか、誰よりも一番近い場所にいて、誰も見たことのない鬼舞辻の表情を知っている。しかし、あの頃のような熱い契りを交わすことは出来ないのだ。
    『無惨様……無惨様……!』
     何度もその名を呼ぶが、黒死牟の声は鬼舞辻には届かない。
     このまま二十年近く、愛玩動物として暮らす道しかない。その絶望にただ涙した。
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    syako_kmt

    TRAININGむざこく30本ノック④延長戦
    7日目
    シンプル、カジュアル、ラフなペアコーデで、公開用のオフショットを撮影するむざこく
    シンプル、カジュアル、ラフなペアコーデで、公開用のオフショットを撮影するむざこく 無惨と黒死牟が仕事上だけでなく私生活でもパートナーであると公表してから、どれくらいマスコミに囲まれ、あることないこと書かれるかと心配していたが、取り立てて大きな生活の変化はなかった。
     職場は二人の関係を元から知っていたし、世間も最初は騒ぎ立てたものの「鬼舞辻事務所のイケメン秘書」として有名だった黒死牟が相手なので、目新しさは全くなく、何ならそのブームは何度も来ては去っている為、改めて何かを紹介する必要もなく、すぐに次の話題が出てくると二人のことは忘れ去られてしまった。

     そうなると納得いかないのが無惨である。
    「わざわざ公表してやったのに!」
     自分に割く時間が無名に近いアイドルの熱愛報道よりも少ないことに本気で立腹しているのだ。あんな小娘がこれまたションベン臭い小僧と付き合っていることより自分たちが関係を公表した方が世間的に気になるに決まっていると思い込んでいるのだが、職場内だけでなく国内外でも「あの二人は交際している」と一種の常識になっていた上に、公表を称えるような風潮も最早古いとなると、ただの政治家の結婚、それだけなのだ。
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    TRAININGむざこく30本ノック③
    13日目
    零余子、上司共へのストレス発散にBL同人誌にしてしまう
    零余子、上司共へのストレス発散にBL同人誌にしてしまう 今日もやっと1日が終わった。
     朝から晩まで、あの鬼上司2人に扱き使われたのだ。
    「おい、零余子!」
    「はい!」
    「零余子!」
    「はいー!!!!」
     多分、この数年で確実に親より名前を呼ばれている。これまで割と要領良く生きてきたので、こんなに怒鳴り散らされることはなかった。
     初めは鬼舞辻事務所に就職が決まり大喜びした。
     今をときめくイケメン政治家、鬼舞辻無惨の下で働けるなんて……その上、彼は独身。もしかして、もしかする、未来のファーストレディになれるようなルートが待っているかもしれない!? と馬鹿な期待をして入職したのだが、それは夢どころか大きな間違いだった。
     毎日怒鳴り散らされ、何を言っても否定され、無惨だけでも心がバキバキに折れそうなのに、これまたイケメンの秘書、黒死牟が更にエグイ。まず行動原理が「無惨様のため」なので、無惨の怒りを買った時点で、どんな言い訳をしても通用しない。こちらに非が無くても、無惨に怒鳴られ、黒死牟にネチネチと嫌味を言われ、最悪のコンボが待っている。
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