顎の下を撫でられるのも好きだぞお、なんて 扉をしっかりと閉めて、靴を脱いで、上着も脱いで、手を消毒して。帰宅時の、そんなルーティンをこなしつつ、こはくは自分の行動に既視感を覚えていた。
小さなワンルームのキッチンからは焼けた肉と、香ばしいソースの良い香りが漂ってきている。まだ火を使っている斑が、振り向きはせずにおかえりと声をかけてくれたので、こはくも少し声を張ってただいまと返した。
既視感。そう、これは昼間はじめて訪問した猫カフェの、入店時の動作とよく似ている。存在は知っていたものの、ネットの情報ばかりで実際に行ったことのなかったこはくを、藍良が誘ってくれたのだ。
屋敷に迷い込んできた野良猫としか接したことのなかったこはくにとって、そこは不思議な空間であった。猫たちは皆、人に慣れていて、どこか気品を感じさせる佇まいであり、それでいて食べ物を持っている人間には自然に寄ってくる。人前に出すのだから当然と言えば当然なのだけれど、個体差はあれど警戒心のあまりない猫達を前に、こはくのほうがたじろいでしまった。
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