#2023パイソン教官生誕祭「俺の誕生日だと…?」
「そうよ。パイソン。」
教授は2人っきりの時だけ教官を付けない。
そしていつもとは違う柔らかな口調で言った。
「誕生日おめでとう。パイソン。」と。
いつもの時間に、いつもの様に。
定時報告をしに15分前に教授の仕事部屋に来たパイソンは、長い人生で一度も言われた事の無い単語を聞いた。
最初自分に向けられた言葉だとパイソンは思ってはいなかった。
教授の満面な笑顔がこちらに向けられて初めて理解したのだ。
自分に祝福の言葉がなげかけられたのを。
「誕生日……おめでとうだって……?」
苦味走った良い男が困惑と戸惑いで顔が険しくなる。
部屋は一気に不穏な空気になったが、教授は笑顔を崩してはいない。頭の上には三角の帽子がのっており、手には水玉のクラッカーを持っていた。鳴らすタイミングをいまかいまかと狙っている。
パイソンは首を振り
「……俺には理解できない、必要の無い事柄だ」
かまわず報告を続けようとした。
彼がいつもより更に眉間に皺を寄せたのを確認し、教授はまた微笑む。
「私は貴方に出会えた事を幸運だと思っているのよ」
「……幸運だって?」
「ええ、そうよ。誰よりもオアシスを護る事を考え、誰よりも日々真剣で……」
教授は手に持っていたクラッカーをデスクにのせた。
「そして、皆を護ってくれている」
これを見てと教授はデスクに置かれたカラフルな箱を手に持った。
今まで気づかなかったが、沢山の箱が積まれていた。可愛らしいリボンに巻かれた物、大小様々、色とりどりの箱達。
「これは、全部貴方への誕生日プレゼントよ」
「………?!な、なんだって?」
ふふふと教授は悪戯をした子供の様な顔で笑った。
「貴方に感謝をしたいと自発的に皆が誕生日プレゼントを用意したの。先程の任務でオアシスに今日帰ってこない可能性があったから、私が預かっている」
ひとつずつ1番近くにあった箱から説明をはじめた。
「この灰色の箱はイヴリンや警備隊員達から。水色の細長いのはシーモ。いつもお世話になっているからと。黄色の液体が入っているのは……あぁ秋だったわ。鰻重はやめたみたいね。ジンからは特製のワインよ。お祝いをしたいので今度BARに来て下さいと。銀色の箱はクロック。スヴァローグ重工を代表して。偵察時に大変お世話になったと報告を受けています。そしてこれは……アンジェラ。手編みのマフラーと言っていたわ。あの子を救ってくれてありがとうと。そしてこれはボニーね」
すらすらと自分の事の様に嬉しそうに。
言葉を失ったパイソンに、誰からの誕生日プレゼントかを伝える。
教授はすぐ近くに置かれていた濃厚な青色の包み紙の小箱を手にとった。きらきらと光る包みの中身は疲労回復などの成分が入ったボニー特製のお菓子だ。
「ボニーはこの前の偵察で奇襲を受けた時、貴方に助けられたと言っていたわ。だから感謝を込めてと」
教授はパイソンに小箱を渡した。
パイソンが初めてオアシスに来た日。1番最初に出迎えたのはボニーだった。
震えて今にも泣き出しそうな様子にパイソンは唖然としたのを覚えている。高名なオアシスの入り口に立っている者はこんなお嬢さんかと、場所を間違えたかと思ったほどだ。
だがその後何度かボニーと関わった。
訓練や任務でも。毎日18時間寝てる男より、出来る限りのこと、日々努力している少女だと知った。
「……礼を言われるほどの事はしていないが」
パイソンは掌にのった箱と教授を交互に見た。
「逆に彼女の医療技術、手技に部隊隊員が助けられている」
「そうボニーを評価してくれるのも貴方がよく見ていてくれてるからよ。」
教授は腕を組んだ。一瞬で沢山の者を束ねる指揮官の表情になる。
「……少女姿だから懐疑的な者もいるという中で。隊員の健康状態、それに関わる職種など全体を把握してくれてるから。」
それがどれだけ重要な事で。どれだけ助けられていることか。
休息は必要無いとオアシスに来た日から訓練を初め、今日至るまで仲間達の育成をし続け、
戦闘時は真っ先に向かい、文字通り盾となりオアシスを護る者に。
どれだけ感謝の言葉を伝えても足りないだろう。
「いつも貴方に助けられているのよ。ありがとうパイソン」
とここまで言ってやっとやっと、パイソンの瞳に戸惑いの色が薄れたのを見てとれて。教授はホッと一息付いた。
笑顔が戻り「今だ!」とクラッカーを手に取り鳴らす。
パーンという派手な音と共に、煌びやかな星やリボンが飛んだ。
誕生日の主役に心を込めて感謝の言葉を紡ぐ。
「貴方が産まれてきて、ここに来てくれてありがとう。
誕生日おめでとうパイソン!」
と。
一年で1番大切な日にどうか良い日になりますようにと。
貴方に出会えた事に全てに感謝を込めて。
終わり