ラストダンスは貴方と。最早ルーティンとなりつつある、恋人への家へと向かうセノはドアの前で立ち止まった。平穏と静寂を好む恋人の家の中から僅かに音が聞こえる。音と言っても料理や掃除といった生活音ではない。
聞き覚えのあるような、初めて耳にするような音色。
彼の同居人が演奏しているのだろうかとセノが扉を開けてみれば、アルハイゼンが椅子に腰掛けて二弦楽器を弾いていた。
「お前が楽器を弾くなんて知らなかった」
「……君か」
セノに気づいたアルハイゼンはその手を止めた。セノはそのまま彼の隣に座る。
「芸術には疎いと思っていた」
「確かに俺は芸術を愛するタイプではないが、楽器をただの調度品として飾るような愚行はしないさ」
アルハイゼンは後方の棚の上に立てかけているもう一つの楽器に目をやりながら反論した。
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