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    ニシン

    @xeno_herring

    九割九分、真桐です。
    様子がおかしいのは仕様です。

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    ニシン

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    ふせったーに載せてたものです。お嬢の子守をする桐生と、片想いしている真島の話。年下にからかわれる真桐を見たかったけどそこまで行きつきませんでした。

    #真桐
    Makiri

    アーメン※「お嬢」が出てくるし喋ります
    ※名前あります
    ※たぶん全員生きてます
    ※当たり前のように真桐ですが、二人の会話はほぼないです


    当時の年齢
    桐生20 大吾12 桔梗8


    ============


    桔梗という少女は堂島組幹部の一人娘で大吾と歳が近かった。二人が幼い頃は、桐生がよく面倒を見ていた。

    「かずま、抱っこして」
    「桐生くん、こんなやつの言うことなんて聞かなくていいからね」
    「なによ、かずまはあんたのものじゃないでしょ!」
    「キミのものでもないだろ!」

    足元でぎゃあぎゃあと騒ぐ二人に何度頭を抱えた事か。桐生と遊びたい大吾と桐生に構ってほしい桔梗の板挟みになり、いつもスーツのどこかしらを引っ張られていたように思う。
    その後、桔梗の親は堂島から独立したため桐生との関りもなくなった。大吾も今は年始の挨拶くらいでしか見ないと言っていた。

    そんな桔梗が今、桐生の目の前にいた。


    「一馬、随分老けたわね」
    「…………お嬢……?」

    艶やかな黒髪は緩く巻かれ、大きな猫目は勝気な性格を表している。身体のラインを拾うワンピースを卒なく着こなす姿はもう桐生の知っている幼い子供ではなかったが、それでも記憶の中の少女で間違いなかった。
    目を見開く桐生に、桔梗はツンと顎を上げた。

    「何よその顔。もしかしてお年賀送らなかったこと怒ってる?だってあなた、あのボロアパートが燃えてから組に住所教えてなかったでしょ?事務所にも何度か行ったけど会えなかったし、それから数年したら組抜けたとか言われて……」
    「お嬢、」
    「親殺しなんて呼ばれて、大吾は何も教えてくれなかった。一馬の話すると黙りこくるのよ。そのくせあなたを恨んでもいない。弥生さんも詳しく教えてくれなかった……うちの組はあなたの実績に対して意見が完全に二分されてたわ。そんな中であたしが一馬に会いたいなんて言えると思う?やっと成人して多少は自由に動けるようになったら刑務所よ、刑務所!どうやって追えっていうのよ!」

    ツカツカと近付いてきた桔梗が桐生の胸ぐらを掴んで声を荒げる。さすが極道の一人娘、胴の入った喝だった。

    「あの、お嬢、」
    「やっと戻って来たと思ったら嶋野さん所の狂犬に付き纏われて!なによ、真島と大吾ばっかり構って!あたしのことは忘れたの?どうでもいいってわけ!?」
    「や、お嬢、あの、落ち着いてくれ。お嬢にご挨拶が遅れたのは詫びますんで、服を離して貰えねぇか。今取込み中で……」

    桐生は自分の胸ぐらを掴んだままキャンキャン吠える娘を困ったように見下ろし、しかし無理矢理引き剝がす訳にもいかないせいで、行き場のない手を上げたり下げたりしていた。
    心底困ったなぁという顔をして周りを見渡す。

    「おいおい、痴話喧嘩か?ムカつく野郎だぜ」

    桐生の周りには釘バットやスタンガン、ポン刀を手に自分を囲む男達の姿。
    突然飛び込んできた若い女のせいで一瞬ポカンとしていたが、向こうからしたらいい獲物が増えただけだ。にやつきながら武器を持ち直している。

    「お嬢、ここは場所が悪いんで……」
    「今あたしに説明する事より大切なことってある!?」

    あるだろ。と冷静に思った。
    胸ぐらを掴む手は一切緩むことなく桐生を揺さぶり続けている。桔梗と最後に会った時は8歳だったか。随分と大きくなったな……と現実逃避をしながら、桐生はここから脱出する手段を考えた。







    窓の外はホテルの庭に面しており、風でサラサラ揺れる緑がまばゆい。池に泳ぐ金色の鯉がちりばめた宝石のように光っている。
    薄汚い路地裏にいた筈が、桔梗のペースに巻き込まれ気付けばこんな場所に来てしまった。周りを見渡せば一目で上流階級だと分かる層ばかりで、そよ風のような声で笑い合っている。
    大人数相手に立ち回り、怒声を上げながら相手を殴り飛ばす男が来るにはあまりに場違いな空間。
    桐生は血が付いたシャツの袖口を机の下で擦り、居心地の悪さに口をへの字に曲げた。

    「失礼いたします」

    どうしようかとぼんやり考えているうちにウェイターが静かにコーヒーを置いた。桔梗の前にも同じもの運ばれ、続けて華奢なアフタヌーンティーのスタンドが置かれる。

    「ここのスコーンは美味しいのよ。食べてみて」
    「…よく来るのか、ここは」
    「あたしのお気に入りのひとつよ」

    桔梗が桐生のコーヒーを引き寄せ、ミルクと砂糖を入れる。桜貝のような爪に木漏れ日の影がちろちろと落ちた。
    ミルクひと回しに砂糖三杯。
    桐生がよく堂島組の事務所で飲んでいたコーヒーの作り方だった。大吾と桔梗にも何度か作ってやったのだ。自分の手元を興味深げに見ていた二人の姿を思い出し、フっと笑う。

    「懐かしいな」

    桐生は今もこの甘さが好みだった。
    柔らかい色になったコーヒーを受け取り、口に含む。あたたかな甘さがじんわりと染み渡る。それを味わうようにゆっくりともう一口飲んだところで視線を感じ、伏せていた目を上げれば桔梗の視線とかち合った。

    「――なんでもないわよ」

    桔梗は誤魔化すように髪を払って、唇を尖らせた。



    桐生は特に気にしていない様子で、再びコーヒーに口をつけている。
    甘く垂れた目もスッと通った鼻も薄い唇も、桔梗の記憶にある桐生のままだった。確かに10年以上の歳月は彼に年をとらせたが、彼の魅力を奪うことは出来なかった。むしろ桐生を縛る世のしがらみが瞳と声に宿り、以前はなかった影が色気のように全身に巻き付いている。
    桐生とは干支が一回り違う。それでも幼い頃に抱いていたものは確かに恋心だったのだと思い出させるには十分すぎるほど、桐生には人を惹き付けるものがあった。

    自分のコーヒーにも同じ分量の甘味を入れ、回す。桔梗は普段ブラックを好むが、今日だけは桐生が「懐かしい」と言った味が欲しくなったのだ。甘ったるいコーヒーをちびちび飲みながら、ゆっくりと今までの経緯を話して聞かせる桐生の顔をぼんやりと眺める。
    桐生の口調は柔らかく、記憶の声より甘やかだ。桐生はいつだって桔梗を「お嬢」として扱ってきた。大事な、守るべき存在。桐生からすれば自分はいつまでも庇護すべき子供なのだろう。

    桔梗は桐生に何があったのかとっくに調べ上げていた。
    しかし桐生が語る話は桔梗の知る真実の十分の一も血生臭くなく、そこには氷のような裏切りも、足の竦むような慟哭も、彼が流した涙の一粒たりとも存在していなかった。
    失ったものに触れずに語るのはまだ心の整理が付いていないのか、それとも桔梗が相手だからか。……おそらく後者だろう。

    「……そう、分かったわ」
    「お嬢…?」

    静かにコーヒーカップを置けば、桐生が僅かに眉根を寄せて首を傾げる。人の感情に疎い男でも、桔梗の機嫌が傾いていることは察したようだ。
    桔梗は伏せていた顔を上げ、桐生の目を真っ直ぐ見た。

    「では嶋野さんの所の真島吾朗と所構わずイチャついているというのは、一体どういうことかしら?」
    「…………は?」

    猫のようにビビッと目を見開いた桐生が、ぽかんと口を開けた。







    桐生が見知らぬ美人と街を歩いている。
    そんな情報が入ってきたとき、真島は相手にしなかった。どうせキャバの姉ちゃんやろ、と鼻で笑ったのだが。
    日中にお茶をしたり映画に行ったり……まるで普通の恋人のように街を歩いて、夕方には必ず迎えの車まで桐生が送り届けている。ただの遊び相手ではない。いいとこのお嬢様と恋人になったのだ。誰もがそう思った。
    当然、真島もその一人。
    真島は桔梗が元堂島組幹部の娘だなんて知らなかったし、桐生が昔のよしみで街をエスコートしているだけだなんて知る由もなかった。だって桐生が子守をしていた頃は、蒼天堀で馬車馬の如く働いてたので。

    腹の底が不快に蠢く。
    この感情は、怒りだった。

    桐生に触れても逃げられなくなり、喧嘩の後に殴った頬を撫でても、切りつけた太ももをなぞっても、血の滲む唇に噛みついても、多少鬱陶しそうな顔をされるだけで許されるようになったのに。特に最後のはかなり時間がかかったというのに。
    ぽっと出の小娘にその地位を全て奪われたような気分だった。


    罠は急げ。嫉妬は熱いうちに打て。
    小娘と街を歩く桐生の後ろ姿をつけ、死角になる壁際に身を寄せる。よほど親しいのだろう。桐生の表情は柔らかいし、女の距離も近い。桐生の腕を引っ張ってゲーセンの景品を指差す女の顔をしっかりと脳裏に記憶する。
    桐生は女のワガママに苦笑しながら、流れるようにその腰に軽く手を回して足元に段差があることを小さく告げていた。女性の心の機微を読むことは下手くそな桐生だったが、それ以外の扱いは長けている。伊達にキャバクラ経営してきたわけではない。
    真島はそれを、身をもって知っていた。
    ゴロ美に扮した時だ。ヒールで190cmを超えていたにも関わらず、桐生はきちんと女性として扱ってきた。
    必ず桐生が車道側を歩いていたし、階段では手を取ってきた。重ねた手に光るつけ爪を「似合っている」と言い、吐息のように微笑まれた。
    真島はその度に、驚いて声が出なかった。
    だって桐生がそんな器用な振る舞いをすると思わなかったから。

    『桐生ちゃん、何か勘違いしとったらアレやけど……俺は喧嘩したくて女装しとるだけで、内なる自分が解き放たれたとかちゃうで?』

    恐る恐る告げれば、桐生はびっくりした顔をして、すぐに面白そうに目を細めた。

    『わかってるよ……でも今は、ゴロ美なんだろう?』

    低く甘い声を耳元で落とされ、不意打ちでカァッと首が赤くなるのが分かった。ばっと離れて顔を見れば、イタズラが成功した子供のような顔でこっちを見ている。してやられた。舌打ちをすれば、桐生は更におかしそうに笑った。



    「……チィッ」

    記憶の中の桐生に鋭い舌打ちをして、するりと影に身を引く。思い出の中の桐生の笑顔に動揺し、そのことに苛ついた。
    すぐに不穏な気配を察知したのだろう、視線の先の桐生が ぱっと振り返って辺りを見渡している。
    自分がやるとどうも私情が絡んでいけない。
    こういう尾行は部下にやらせるのが一番だ。
    真島は疲れた溜め息を吐くと、最初からそこにいなかったかのように、フッと路地裏に消えた。





    ~その後~

    ・勘違いした真島が二人の前に現れて桐生とガチ喧嘩→誤解だと気付きそういうことなら先に俺に言わんかい!と更に喧嘩
    ・それで?どっちが新郎になるわけ?という桔梗の一言で固まる大人二人と、巻き込まれ大吾
    ・「俺がウエディングドレスだと……?」
    ・「兄さん、親っさんが挨拶に来いって」
     「」

    とか。特に重い話もなく、全員が幸せであってほしいです。年下に押されてたじたじになっちゃうおじさんたち、ラブです。
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