つかの間の休息今日はクリスマスイヴ
日頃、命のやりとりをしているトリたちの労をねぎらってCAGEではクリスマス会が開催されていた
大きなクリスマスツリーやオーナメントで飾られた部屋にはたくさんの料理
ビュッフェ形式で行われた食事会をトリたちは楽しんでいた
※※※※※
モズはメイン料理を食べ終え食後のデザートを取りに行ったツバメを待っていた
「お待たせ!」
トレーに料理を乗せ戻ってきたツバメ
モズの前に置かれたのは紅茶と数種類のクリスマスケーキ
何故かモズの分だけサンタを模した砂糖菓子が乗っていた
「タイミング良く残っていたからね!モズの為にサンタをもらってきたよ」
ニコニコと嬉しそうに笑う様子はまるで飼い主が投げたボールを取ってきた犬のよう
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
もう少しだけ少し取ってくるから待ってて
と、また料理があるテーブルに向かっていく様子にまるで雛鳥のために餌を取りに行く親鳥のようだと思いながらモズは目の前の砂糖菓子を見ていた
お菓子作りが好きな彼女のことなので、これが美味しくないことは知っているはずだ
ただ純粋に子どものような発想でモズが喜ぶと思って取ってきてくれたものを残すのも気が引ける
モズは自分好みの香りがする紅茶にサンタを落とし溶けるのを眺めながらペア相手が戻ってくるのを待つことにした
※※※※※
料理が全て無くなりクリスマス会がお開きとなったところで
迎撃部隊のトリ達は双子の提案で企画していたプレゼント交換会をする為にラウンジに集まっていた
特にルールを決めずに各々好きな物を一点持ち寄り交換するというもの
「可愛い!ネイルセット!これはフラミンゴさんからですか?」
「そうだよ!気に入ってくれたら嬉しいな!」
「ありがとうございます!スズメと一緒に練習しますね!」
「リップ……可愛い……あっ」
「私のプレゼントはスズメさんが受け取ってくださったのですね。……良くお似合いだと思いますよ」
「……うん。ありがとう……嬉しいよ」
「なんだよこれ……始末書の束?おいハチドリ!!!」
「ハハッ!アタシのプレゼント、クロのとこに行ったんだ!」
「これは……」
「私のプレゼントが女神のところに!良かったぁ……モズさんの所にでもいったら何を言われるか分からないから……」
暗い顔をしながら何やら考え込んでいるフクロウをよそにハクチョウが嬉しそうにプレゼントを眺めている
「もう手に入らないかもしれないグッズなのに貰ってしまっていいのでしょうか?」
「それは布教用なので……」
「布教?」
「あ、えっと……宣伝用に複数持ってるので……」
「そうなんですね!ではいただいておきますね!」
「是非!ところで今度ななダズのこの曲を弾いてみたくて……」
「この曲も名曲ですよね!少し難しいかもしれませんがフクロウさんなら大丈夫です!」
「が、頑張ります……」
(フクロウ楽しそう)
とハクチョウとフクロウのやりとりを見ているフラミンゴを微笑ましく見つめるツル
各々プレゼントを見て声を上げる中
シャッフルしたにも関わらずツバメとモズはお互いのプレゼントを引いたようだ
「これは……モズからかな?僕のプレゼントはモズが受け取ったんだね!」
「……嘘でしょ?なんで私たちだけペア同士で交換なの」
嬉しそうに袋の中身を取り出すツバメと対照的にツバメからのプレゼントを受け取ったモズは心底嫌そうな顔をする
モズからのプレゼントは本のようだ
隣で見ていたカラスがツバメに警告する
「モズからのプレゼントは警戒しろよ……どうせ変な……おいそれ読むなよツバメ!……って遅かったか」
何やら表紙に紙が貼ってある
それを見たカラスが咄嗟に声を上げる、が間に合わなかった
「誰がプレゼント用の本にネタバレ書いた付箋なんて貼るんだよ」
「おすすめしたくてつい」
全く悪びれる様子もないモズを呆れた様子で見るカラス
「でも受け取ったのがツバメくんだなんてつまらないなぁ」
「つまらないってお前……」
2人が話すのをよそにツバメは付箋に夢中だ
「なるほどね……こういう物語なんだね」
ツバメは表紙に貼られたモズの感想という名のネタバレを読んで何やら考え込んでいる
「いや、受け入れすぎだろ。ネタバレくらった本なんて読む気失せないのか?」
ツバメの様子に再び呆れた様子のカラスが問いかける
「確かに結末を知った物語を読むのは面白みにか欠けるけれど……モズがどう感じたのかを考えながら読めるのもまたひと味違って面白いと思うよ」
げっ、と少し引いた様子でツバメを見るモズ
「……ペア相手はあんたにしかつとまらないよ」
「……?ありがとう!!」
「褒められてないから……ツバメくんらしいけど」
「ところで僕からのプレゼントはどうかな?モズ」
そう促され袋の中を確認するモズ
「……なにこれ」
入っていたのは1枚の紙
そこには"お願い聞きます券"とツバメの字で書かれていた
「プレゼントの候補はいくつかあったんだけど……その人にとって一番いい物をあげたいと思ってしまってね。誰でも使える物にしたんだ」
いい案だろと言いたげな顔でモズに笑顔を向ける
「……君って何歳だっけ」
「ん?キミと同い年の17歳だよ!」
「はぁ……。ダサい名前なのがまた君らしいよ。」
ところで、と呆れ顔から一転どこか含みの笑みを浮かべるモズ
「もしこれが……例えばツルくんやカラスくんの手に渡ったらどうするつもりなの?悪用されたらとか思わなかった?」
「おい!モズ!ツルはともかくアタシがなんだってんだよ!それにそれを言うならアンタの方が悪用しそうだろ!」
「何やら私の名前が聞こえたようですが……気のせいでしょうか」
スズメと話していたツルが貼り付けた笑顔でモズ達の方を見る
「悪用ってそんな」
「あまり人を信用しすぎない方がいいよ。君自身に、じゃなくても君を使って私に嫌がらせとかあるかもしれないでしょ」
「それは……」
「……否定しないのか」
カラスが少し同情の目を向ける
「……さて、どんなお願いを聞いてもらおうかな。」
「モズの願い、聞かせて欲しいな!」
忠告したにもかかわらず、疑いが一切ない笑顔でモズの返答を待つツバメ
モズはその顔を曇らせてみたい
何がいいだろうか……と思考を巡らせる
非番の日まで構わないでほしい、私のやることに口を出さないでほしい……たくさんあるはずなのに
どれもいまいちピンと来ない
しばらく思案したあと
「そうだねぇ……せいぜい私の足を引っ張らないように強くなって欲しいかな。そしたら任務の時間も短縮されて君の相手をする時間も減るでしょ」
それにどうせなら強くなったツバメと本気で戦いたい
真実を知った時のツバメの憎悪に満ちた顔を想像しほくそ笑む
ツバメが少し驚いた顔をしたあと今日一番の笑顔をみせる
「……!!任せて欲しい!キミとずっと一緒にいられるように強くなってみせるよ!」
「モズ……お前」
「何?」
「案外まともなこと言うんだな」
「カラスくんってほんと失礼だよね。ハクチョウくんもなんでこんなトリとペアを組んだんだか」
殺伐とした非日常の中に訪れた
つかの間の休息のお話