数ヶ月前引越してきてから行きつけになった近所の喫茶店。マスターがこだわり抜いた豆を使ったオリジナルブレンドは程よく酸味があって好みの味だ。静かで、落ち着いたクラシック音楽と時に常連さんたちの話し声がする店内は居心地が良い。
珈琲をひとくち飲んでほっと一息つくと、カランコロンとレトロな音がした。扉が開いて入ってきたのは黒髪の長身の男性だった。彼は迷うことなく奥の窓際のテーブルへ進み席についた。玲王がこの店に来る時はだいたい彼がいる。マスターと同世代くらいの常連客がほとんどの中、自分と同じくらいの歳に見える彼の姿は自然と目についた。マスターと接している様子を見ると、その砕けたフランクな話し方と親しげな雰囲気から玲王が引っ越してくる前からよく来ているらしかった。
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