本当の恋人「なーなー、やっぱ東雲って白石さんと付き合ってたりすんの??」
出た。また『杏と付き合ってるのか』という質問。もう何度目かも分からないこれにはうんざりだ。
「だーから付き合ってねぇって何回言わすんだよ。しつけぇ。」
「だってお前、恋バナとか全然話さねーじゃん!!」
「そーそー、その割には昼飯どっか別のとこで食ってたり、放課後とか休日は予定あるからって断ったり…」
「だからって…何でよりにもよって杏なんだよ。」
「「それ、それだよ!!」」
「はぁ?」
それってなんだよ、それって。
つーか俺が付き合ってんのは冬弥なんですけど。見て分かんねぇもんなのか…?
まあ俺から言うつもりは今のところねーけど。
「何で白石さんだけ下の名前で呼び捨てなんだよ、おかしいだろ!」
「っるせーな…何回も言ってっけど、あいつとは同じ目標を持つライバル兼チームメイトなんだよ…腐れ縁ってやつだな」
「え、あんな美人さんとチームなのかよお前!?ずるくね!?」
「どこが美人なんだよ、どこが」
「はい出たイケメンの特権〜」
「もーやだ、目が肥えてらっしゃるわ」
「本当にね〜」
目が肥えてるって何だよ。
あとお前らはいつからオネエになったんだ。
「はぁ…」
ウザすぎる。
ホントに何回言っても信じてくれねぇ。
しかも杏が美人?冬弥のが綺麗だろ。
…まあ、杏も他のやつより顔は良いだろうけど。
そうこう騒いでいると、コンコンと控えめに教室の扉が叩かれる。
「すまない、東雲彰人は居るか?」
冬弥?と思った時には周りのやつらと女子たちがザワついていた。
「わっ…あれ、B組の青柳君!?」
「うそ、やだホントにイケメン…」
「くぅ〜!!悔しいけどめちゃくちゃ顔が良いなおい!」
ふん、やっと気がついたのかよ。
それよりも早く待っている相棒であり恋人の元へ行こう。
「おー、どうした冬弥」
「あの…すまない彰人、今日の放課後空いているか…?」
「放課後?あー空いてるけど…何かあったのか?」
「いや、その…これを司先輩から頂いたのだが…」
そう言いつつ、手に持っている2枚のチケットを見せる。
…『このチケットを使うと期間限定パンケーキが半額!!』だって…?
「確か、この間の練習の後、話していたパンケーキ…だよな?」
「ああ、それをつい先程思い出して彰人にあげようと思ったんだ。」
まさか冬弥が覚えていたとは予想外だった。
あのセンパイに貰ったっていうのはちょっと癪だが、今は感謝している。
冬弥と一緒に放課後を過ごせるチャンスを恵んでもらったようなもんだしな。
「なるほどな。んで2枚あるから一緒にどうか…ってことか」
「そういうことだ。それで、一緒に行かないか?」
「ん、行こーぜ。じゃあ放課後、教室迎えに行くわ。」
「ああ、分かった。ありがとう彰人。」
分かりやすく花を飛ばしながら喜んでいる冬弥は、相変わらず可愛い。
あとお礼を言いたいのはこちらの方だ。
好物のパンケーキを食べられるだけじゃなく、冬弥も一緒にいるとかなんて最高な放課後なんだ。
「こっちこそサンキュ」
そう言って別れを告げる。
今日の放課後が待ち遠しい。一緒に行くと言っていたが実質これは放課後デートじゃないか、と考えるとより楽しみになる。
そういえば先程まで騒いでいたやつらがやけに静かだなと思い、見てみると唖然としている。
「おい、どうしたんだ?」
「いや、おま…放課後の予定って…」
「ああ、だいたい冬弥との予定だな」
お、やっと気が付いたのか。
相変わらず気がつくのが遅い奴らだ。
それにたったそれだけの事実でショックを受けているこいつらに笑いが出る。
…そうだ、せっかくだからもう一泡吹かせてやろう。
俺は急いで恋人を呼び戻す。
「おい冬弥!もうちょっといいか?」
「ん?ああ、構わないが…」
「で、お前ら、聞きたいことあんだろ?」
俺は冬弥の肩に腕を回してあいつらに問いかける。
さーてどんな反応をするのやら。
「えーっと…お前ら…東雲と青柳ってもしかして、付き合ってんの…?」
「いや、違一」
違うと否定することを知っていた俺はあえて、その言葉を遮るようにこう言い放つ。
「そーだよ。俺と冬弥、付き合ってんの」
「なっ…!?彰人!!」
正直にそう告げると、俺の恋人は顔を真っ赤に染め上げた。本当に嘘がつけない男だ。
ついでに周りのヤツらも顔を赤くした。
「な、何で言うんだ彰人…!」
「別に、俺がいっつも『杏と付き合ってんのか』って聞かれるのがだるくなったから、いっその事正直に話そうと思って」
「だ、だからと言ってこんな皆の前でっ…!」
けど、否定をしなかった冬弥も冬弥だろ。
あそこで「違う」と言っていたら、こんな事にはならなかったのだが…
素直な冬弥がこんな嘘をつけるとも思えない。
「つーわけだから、お前らもう詮索してくんじゃねーぞ」
「あ、あぁ…」
「分かった…」
これでウザイ質問をされることもなくなるな…なんて悠長に思っていた矢先、絶対零度の声が、目線が、隣から降り注ぐ。
「彰人」
「と…冬弥、悪かったって」
「………」
少し上の方から無言の圧がかけられる。
これには『なんて事を言ってくれたんだ。しばらくは口も聞かないからな。』という念が込められている。
一度へそを曲げてしまった冬弥の機嫌を戻すのは至難の業だ。
案の定、残りの休憩時間中一言も喋ることなく冬弥は教室に戻っていった。
放課後、チャイムが鳴ると同時にダッシュでB組に駆け込む彰人の姿があったとかなかったとか。