三井が流川親衛隊に説教される話「三井センパイと付き合うことになった。これからもよろしくお願いしますって頭下げてこいって言われたんで…いつも応援ありがとう。これからもよろしくっス」
ぺこり。頭を下げた流川は流川親衛隊の頭に数秒の空白ができている隙に踵を返して去っていった。そして。
「「「いーやー!!!!!!!」」」
倒れる者、泣きだす者、頭を打ちつけ悪夢から覚めようとする者。阿鼻叫喚の時を経て、流川親衛隊は推しの幸せの為ならとその恋を応援する決意をしたのだった。
立ち直りが早いのは流川の三井LOVEが露骨だったから。ついにくっついちゃった(涙)という嘆きくらいは許してほしい。多分バスケ部員も三井本人以外は気付いていた。三井に異様に近づくし、他の部員が三井に絡むと一瞬ムスッとした顔をしてから邪魔をしにいく。何より流川の三井に向ける柔らかい表情は我らが推しながら本当に尊かった!
さて、二人が付き合ったのはいいものの、最近の流川はしょんぼりしていることが多い。それは三井が避けるからだ。今までベッタベタにくっついていたくせに、付き合ったら恥ずかしくなったらしい。すすっと寄ってきた流川を察知した途端、顔から首まで赤くしてダーと走って逃げていく。流川の伸ばした両手が抱きしめるものを失って虚しく戻っていく。
「流川くん可哀想…(涙)」
流川親衛隊は推しの悲しみを排除するため動き出すことを決意した。
◇
「三井くん!ちょっと話があるから来てちょうだい!」
昼休みすぐ三年の隊員たちが弁当をカバンから取り出した格好の三井を取り囲む。
「あ?あんだよ…あれお前ら流川親衛隊?」
「そうよ!ちょっと流川くんのことでお話があるの。私たちに着いてきてく・れ・る・よ・ね?」
「!?はっはい!」
般若だ!般若がいる!隊員のあまりの迫力に三井は「はい」というしかなかった。
連れてこられたのは普段誰も来ないであろう校舎裏。そこにずらっと待ち構えていた流川親衛隊に三井はビクビクしている。元不良だけどこの女たちには勝てる気がしない。別れろとでも言われるのか?と考えていると代表だろう隊長たちがずいっと三井に迫ってきた。
「三井くん…流川くんが悲しんでるじゃない!ちゃんとイチャイチャしなさいよ!!」
「はへ?」
予想の斜め上の叱責に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔の三井である。
「流川くんはね!背が高くて、脚が長くて、ご尊顔が尊くて、何より!バスケットに命を捧げてる程の方よ!授業中も寝てるくらい寝るのが好きなのにバスケのためなら朝練だって頑張る流川くんを私たちは応援してるの!その流川くんがバスケ以外で苦悩するなんて許せない!三井くん!苦悩の原因は貴方よ!今まであんなにイチャイチャしてたのにお付き合いしたら途端に逃げるなんて酷い!流川くん最近いつもしょんぼりしてるのわかってるでしょ!」
確かに三井は気づいていて、逃げるたびに悲しげに縋るような流川の顔を見ない振りをしていた。だが、
「あのよ?部活中にイチャイチャする方が問題じゃねーか?」
「た、確かに…」
「隊長負けないで!!」
「はっ!そうだわ。私たちは流川くんの為なら風紀だって乱してみせる!」
「だめだろが!!」
「今までイチャイチャしてたんだから今更じゃないの!」
「ちっ!気付きやがったか!………普通の後輩としてなら幾らだってひっつけるけどよ?だって、うぅ…だってよぅ、す、好きって思ったら…は、恥ずかしい…から…」
ずきゅーん♡
流川親衛隊の半数がハートを撃ち抜かれて倒れた。真っ赤になって俯き恥じらう大男がこんなに可愛いなんて反則だ!
「(くっ!!負けないわ!私は流川親衛隊隊長よ!)三井くん、じゃあそれを流川くんに伝えてあげて。恥ずかしいからイチャイチャは出来ないけどって。流川くんと付き合うならハイタッチとか普通に話すのくらいは克服してよ!」
「うぅ。善処…する」
「今日の部活から頑張ってよね!できないなら
…」
「できないなら?」
「三井くんにラブホ宿泊券を付けて傷心の流川くんにプレゼントします」
「!?ガンバリマス」
三井は真っ青になって頷いた。
◇
「センパイ♡」
「うお!?……お、おー流川…だ、抱きつかないの偉いな」
「うん。センパイが恥ずかしくないように我慢するっス」
「…俺も、普通にできるように…頑張る」
「うす♡」
その日から、ぎこちなくだが距離が縮まった。流川は流川親衛隊にサムズアップを送った。
◇
全日本ジュニアの練習試合。もちろん流川が選出されており今日のスタメンにも決まっている。その会場には流川親衛隊と三井の姿があった。
「三井くん、貴方私たちの流川くんの彼氏なんだから私たち以上に応援しなきゃだめよ!はいこれ♡」
渡されたのは「ルカワ命」の旗と鉢巻だった。
女の子ばかりの流川親衛隊に男が混ざって旗を振る…流川は応援したい…だが…これは無理だ…
絶望する三井の肩を優しく叩く大きな手。それはルカワ命の鉢巻を付けた徳男たちだった。
「みっちゃん。みっちゃんだけに恥ずかしい思いはさせないぜ!俺たちがいれば湘北からの応援団だって思われる!!…かも」
「お前ら!俺はなんていい奴らとダチなんだ!俺のためにありがとうな」
「みっちゃん!」
泣いて抱き合う暑苦しい男たちに流川親衛隊は容赦なく次の指令を下す。
「さあ振り付けよ!!」
「「ギャー!?」」
その会場は異様な熱気に包まれていた。熱源は流川親衛隊の中央だ。揃いのチア衣装の中学ランの男たち。ルカワ命の鉢巻を巻き周りのダンスに合わせて正拳突きのようなパフォーマンスで応援している。三井たちは腹を決めた。俺たちは男だ!やり切ってやろうじゃねーか!!
その熱い応援はしっかりと流川に届いた。会場に入った流川はすぐにこの即席流川親衛隊に気がついた。そして流川親衛隊が初めてみる蕩けるような微笑みを浮かべたのだった。
バタバタと倒れる親衛隊を慌てて三井たちが助け起こす一幕を挟み遂に練習試合が始まった。
全国ジュニアのハイレベルな攻防に、三井たちは恥ずかしさも忘れて本気の応援をしていた。
「「ルカワ!ルカワ!ルカワ!」」
その熱い応援に応えるように流川のオフェンスは冴え渡り、相手を薙倒す勢いで得点を積み上げていく。その日、流川は最高得点を叩き出しチームを勝利に導いた。
現地解散の流川を待っていた三井たちと親衛隊。
「流川、お前すげーかっこよかった!」
キラキラした眼で流川の活躍を讃える三井に流川は頬を染めて頷いている。
「流川くん!大活躍おめでとう!これ私たちからのプレゼント♡これからも流川くんと三井くんを応援するわ!」
「あざーす」
流川が受け取ったプレゼントとは…?
プレゼントを確認した途端、流川の心の尻尾がぶんぶんスイングする幻覚を全員が見た。
「ん?何貰ったんだ?」
三井が覗きみたプレゼントは『ラブホテル一日宿泊券』
「ギャー!!!」
悲鳴をあげて逃げようとした三井をファイヤーマンズキャリーで一瞬にして担ぎ上げた流川は親衛隊と徳男たちに会釈して、ひらひら花を飛ばしながら颯爽と消えていった。
「みっちゃーん(号泣)」
「流川くん嬉しそう♡これからも流川親衛隊頑張ろうね!」」
「「「ハイ!」」」
後に残されたのは泣き崩れる徳男たちと推しに喜んでもらえてホクホクした親衛隊だった。
◇
「あっ…るかわ…るかわぁ!」
「センパイ大好き♡」
その夜、流川は初めてのご褒美を腹いっぱい堪能した。