ハア、と白い吐息を吐いて、花巻は空を見上げた。定時で帰っていたのなら暗くなる前に自宅に着くことができたのだろうが、いかんせん職が職。繁忙期でもないのに残業ざんまい休日出勤ざんまい。しょうがない、しょうがないと分かってはいるが、社会人とはこんなに過酷なのかと思い知った4月からはや半年。日中は暖かいが朝晩は少しずつ冷え込んできて、今日なんかは震えるくらいには寒い。宮城と比べて狭い東京の空は、ネオンや街灯で星なんかちっとも見えやしない。それでもここで生きていくためには、そんなことを気にしてはいられなかった。足早で駅へと向かいちょうどホームに着いた電車に乗り込む。一本乗り過ごしてもまたすぐに次の電車が来るのは都会のいいところだ、と大学で上京して初めて思ったことだった。
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