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    nnnnnarukami

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    hq 花国
    10年後の彼ら

    それは一生、伝えることはないけれど。の続きみたいなもの

    「あ、花巻さんそれとって」
    「え、これ?」
    「いや違う、リモコンとってって言ってるんだけど」
     テレビのリモコンを取って欲しくて指差したのに、花巻さんはなぜかティッシュを差し出してきた。かれこれ10年くらいの付き合いになるんだから、そろそろ察して欲しい。
     テレビのリモコンを取ってもらい、たいして面白くもないバラエティ番組を消す。
    「え、俺観てたのに」
    「面白くないからいいでしょ」
    「ん〜、まあそうなんだけどさ」
     そう言いながら花巻さんはソファにもたれかかった。数週間前に俺が一目惚れして買った、ちょっといいソファはぎしり、と音を立てて沈む。俺は花巻さんの肩に頭を乗せる。花巻さんはそんな俺の頭を優しく撫でてくれた。
    「昔さあ、俺たちが付き合うきっかけあったじゃん」
    「…ああ、ありましたね」
    「それ、思い出したりとかしないの?」
     心配そうに、それでいてそのことに気づかれないように表情を作ってこちらを窺ってくる花巻さんは、かなりかわいい。ふふ、と笑いをこぼすと髪の毛をぐしゃりと掴まれた。うお、さらさら、なんて言われなくても分かってる。アンタがそう言うから、いいシャンプー使ってるんだし。
    「それ聞くの何回目ですか。もう大丈夫だって言ってるじゃん」
    「いやまあ、そうなんだけどさ〜。彼氏としては国見のトラウマになってないか心配なわけですよ」
     まだ俺たちが高校生で、部活を一緒にやってた頃。1年にしてレギュラー入りを果たした俺は、嫌がらせを受けていた。物を壊したり、隠したりといったものから、最終的には性的なものまで。花巻さんはそれをだいぶ気にしているようで、俺なんかはもうすっかり忘れているというのに、たまにこうやって聞いてくる。そりゃ当時はどうしても思い出してしまうし、かなりのトラウマになってたと思う。けど、その度に花巻さんが抱きしめてくれたから、そのうち本当にどうでも良くなってしまった。
    「花巻さんもめちゃくちゃ気にしてるけど、金田一もめちゃくちゃ気にしてて、いまだに飲みに行くとそのこと謝られるんですけど」
     嫌がらせを受けていたとき、誰かに言えば金田一にもすると脅されていた。あいつは当時泣きながらそのことを謝ってきて、別に気にしてないからいいっていったのに、それ以来何度も何度も謝ってくる。
    「いい友達じゃん?」
    「俺的にはそんな負い目なんて感じでほしくないんですけど。別にそんなつもりで黙ってたわけじゃないし」
    「ま、それがあいつのいーところだよな」
     花巻さんと付き合って10年がたった。2人とも大学は東京に行ったけど、花巻さんはそのまま東京で、その2年後俺は宮城で就職した。金田一ともしばらくは会っていない。
     国見は立ち上がるとキッチンへと向かい、冷蔵庫の中から冷えたお茶を取り出す。
    「花巻さんも飲みます?麦茶」
    「おー、飲む!」
     コップ2つに透明な茶色のそれを注ぎ、テーブルへと置いた。冷たい麦茶が、少し暑くなり始めた今の季節に丁度いい。花巻さんはゴクゴク喉を鳴らして、一気に飲んでしまった。俺は少しずつ口に含む。
     この10年いろいろなことがあった。喧嘩もしたし一度別れもした。全部、結局俺には花巻さんしかいないのだ、と再確認させるに過ぎないものだった。きっと花巻さんもそうだったのだと思う。
     花巻さんは月にも太陽にも似た、不思議な人だった。俺はそれをきっと、一生伝えることはないけれど。
    「そういえばさ、就職決まった」
    「ほんとですか!おめでとうございます」
     花巻さんの言葉にパッと顔が明るくなる。花巻さんは少し前から転職活動をしていた。勤めていた会社がかなりのブラック企業で、逆によく今まで続いていたな、と思う。今一緒にいる部屋はワンルームの賃貸。宮城で働く俺にとっての城。本当はもう少し広い部屋を借りようかと思ってたけど、今みたいに花巻さんが東京から帰省した時に遊びにきて、そのあと帰った時の寂しさを考えたら、部屋は狭い方が良い。
    「次の会社どんなとこなんですか?」
    「……宮城」
    「え?」
    「次の会社、宮城にある」
    ……え?
     今花巻さんは東京に住んでいて、転職するにしてもまた東京でだとばかり思っていた。てことは、遠距離じゃ、なくなる…?
    「ほ、ほんとですか?」
    「おー、ほんとほんと。実は俺宮城で職場探してたのよね。今日も面接で、内定もらった帰りなんだ、実は」
     10年付き合ってきて。いまだに何考えてんのか分かんないこともあったし、いつも飄々としていたし。でも、10年も一緒にいれば何となくは察することができるようになっていた。けれども俺たちはまだまだだったみたいだ。とってほしい物は伝わらないし、次の就職先の予想もつかなかった。
     俺が呆然としていると、花巻さんは居住まいを正した。そして鞄から小さな箱を取り出すと、それを俺に差し出す。
    「国見のこと、ずっと大切にする。だから、俺とずっと一緒に居てくれない?」
     ぱかりと蓋を開けるとそこにあるのは想像通りの銀色の指輪。いつの間にサイズ測ったんだよ。ていうか、まじで、何考えてんのこの人。
    「前、言ってたじゃないですか。捨てたいなら、全部俺にちょうだいって」
     俺、そん時からずっと、全部花巻さんのものだと思ってますよ。
     自分の瞳から涙が溢れているのが分かる。でも、嬉しすぎた。こんなに幸せで良いのか、なんて考えてしまうくらいには。
     花巻はヘニャリと笑うと、指輪を、国見の左手に嵌めた。そして満足げに頷く。
    「好きだよ、くにみ」
    「俺、大きいベッドでゴロゴロしたいです」
    「はは、じゃあ今度一緒に見に行こうか」
    「はい」
     俺もずっと、大切にしますね。


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