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    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

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    紫蘭(シラン)

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    グルアオです。
    gr氏がaoちゃんのために頑張る話です。
    ※モブの方々が登場します。
    ※参照URLは、Twitterに記載しています。

    ハッピークリスタルチャレンジ/グルアオ「グルーシャさんは、これ見たことありますか?」

    ポケモンバトル終了後 ジムの控室にアオイが来て早々、スマホロトムを目の前にかざされる。
    見せてくれたのは動画で、雪山で幻想的に輝く何かが映っている。

    「いや…見たことないかな。これ何?」
    「ダイヤモンドダストだそうです。
    この前クラスの子がナッペ山でこおりポケモンの調査していたそうなんですけど、これの現象を見たみたいでデータを送ってもらいました。
    グルーシャさんは結構長く住まれているので、見たことあるのかなって思って…」

    名前は聞いたことはあるけど、あれ結構見るのが珍しい現象じゃなかったっけ?

    「へー、その子はラッキーだね。
    結構運がないと見れないって聞くけど」

    キラキラと光る氷の結晶は本当に綺麗で、何度でも見たくなるものだった。
    アオイにスマホロトムを返そうとすれば、やっぱり難しいのかと少し残念そうな顔で笑っていた。
    これってもしかしなくても見てみたかったのかな?

    聞こうとしてみたけれど、話を逸らすように別の話題に切り替わり それからタイミングを逃したまま時間が来ると彼女は寮へ帰って行った。

    仕方ないなとも言いたげな彼女のリアクションが頭の中から消えなくて、静かになった室内でぼくは自分のスマホロトムであの現象について調べる。

    ダイヤモンドダスト。
    空気中の水蒸気が結晶化する 寒冷地の厳冬期にのみに観測される現象。

    発生条件は、気温が氷点下十度以下で快晴の明け方でないと見れないらしい。
    朝一でしか観測できないのであれば、寒がりな上寝起きがすこぶる悪いぼくが見たことないのは当たり前だった。

    極寒の環境でしか観測できないと考えるだけで身震いをしたけれど、あの現象は本当に美しくて…アオイも見たいのであればなんとかして見せてあげたいと思った。
    詳細は家に帰ってから確認するとして、残っているバトル以外の作業だとかの仕事を終わらせることにした。




    寝る前に、今日の夕方頃に見ていたウェブページを開いて もう一度観測条件を確認してみたけれど、かなり厳しい条件に頭を抱えたくなった。

    「気温が氷点下十度以下、天気は日の光が入ってくるくらい快晴で無風であること。
    さらに陽が昇る明け方に…適度な湿度もあって さらに一キロメーター先もはっきり見渡せるレベルの視程も必要だって?
    …ぜったいれいどが当たる確率よりずっと低いんじゃないの」

    ナッペ山専用天気アプリを起動して、直近一週間の天気予報を確認してみる。
    今は一番寒い時期だから、朝方の気温は難なくクリアできるだろう。
    あとは快晴で風もなくてある程度の湿気が出ている日…ある程度って具体的に何パーセントあればいいんだ?

    「四日後…か」

    朝日が昇る一時間のみ、全ての条件が揃いそうな日があったから実際に観測できるのかどうか試してみることにした。
    前日はなんとしてでも二十時にはベッドの中に入れるように、仕事の調整をするとして…まあ宝探しの時期じゃないからなんとかなるだろう。

    あの子をがっかりさせないためにも、本当に見ることができるのかどうか先に一人で確認するため、四日後に予定を立ててこの日はそのまま寝ることにした。


    そして四日後の朝。
    なんとかベッドから起き上がり、いつも以上に厚着をしたのに芯から体が冷える思いをしながら、家の付近や太陽がよく見れる場所をモスノウを連れて歩き回ったけれど、結局ダイヤモンドダストを見ることはできなかった。

    なんでだ?条件は揃っていたはずなのに…。

    立ち止まって考えている間にくしゅんとくしゃみが出てきたから、風邪を引かないために退散することにする。
    その後くしゃみと鼻水が止まらなくて、ジムに行ったけれどそのままフリッジタウンの診療所へ行くよう 受付ジムスタッフから言い渡される。
    大丈夫だと断っても、問答無用で連れて行かれた。

    「昨日から特に冷えていたので、軽く風邪を引いてしまったんでしょうね。
    お薬出しますから一週間はきちんと飲んでください」

    処方された薬を持ってジムに戻れば、これ以上悪化させないために家帰った方がいいと言われたけれど、熱も出ていないからと強めに断った。

    「大丈夫だから。仕事に穴は開けさせないよ」
    「いや、だんだん声が酷くなっているぞ…。鼻と喉と来た後いつも熱出しているんだから、今日はもう休め。
    リーグには連絡するし、まだ挑戦者も来ていないからなんとかなる」

    な、っと長い付き合いの彼から言われてもぼくは首を縦に振らず そのまま控室に行ったけれど…そこから頭がぼーっとして動けなくなり、結局自宅を知るスタッフによって強制的に帰された。

    スタッフが熱冷まし用品やレトルトのおかゆだとかを買いに行っている間、寝室で一人考える。
    ぼく、本当に何やっているんだろう…。

    散々周りに雪山を舐めるなと言ってきたけれど、雪山の寒さを舐めていたのはぼくの方なのかもしれない。
    体調管理ができなくてこんなに周りに迷惑をかけるなんて…と自己嫌悪に陥ったけれど、それでもアオイになんとかあの現象を見てもらいたいという気持ちが消えない。

    ただしちゃんと対策を取らないとぼくみたいに風邪を引いてしまうし、それに条件が揃っていても運次第では見れないことも今朝でわかったから…どうしよう。

    どんどん熱が上がっているからか、いつもより回らない頭では考えがまとまらず、気がついたら眠っていた。


    *******************


    あれから二日が経過して、熱も下がったからジムの方へ出勤した。
    その間ぼくから連絡が来ないことを心配したアオイがいくつかメッセージを送っていたようだけれど、ジムの仕事が忙しかったと誤魔化した。
    あの現象を見るために風邪引いたとかサムいし、何より自分の発言のせいだと責めて欲しくなかったから。


    「おお、熱は下がったんだな」
    「…いきなり休んでごめん。今日からちゃんと二日分働くから」
    「体調不良で休むのは年一回ペースであることだろ。
    ジムの仕事はまあ、ポケモンバトル以外ならなんとかなるし、実際この二日間挑戦者は来なかったからな。
    …それより声は相変わらずおかしいから、ぶり返さないように気をつけろよ。
    あと他のスタッフも心配していたから、あとで顔だけでも出してくれ」
    「そのつもり」

    裏口付近で雪かきをしていた受付スタッフに謝罪を行うと、建物内の事務スペースへ移動し 他のスタッフに対して同じことをする。

    そして全員から今日はポケモンバトルと挑戦者に関する書類作成以外の業務をすることを禁じられてしまい、そのまま大人しくジムリーダー控室に入った。
    今日はいつものコーヒーではなく ホットはちみつレモンティーを飲みながら挑戦者が来るのを待ちつつ、もう一度ダイヤモンドダストについて調べる。

    ナッペ山でも比較的観測しやすいスポットはないかを調べている内に、とあるストリーマーの動画を見つけた。
    珍しい自然現象をポケモンのわざで再現してみるというもの。

    あんまりストリーマー自体にいいイメージはなかったけれど、試しに見てみると科学の観点から現象が起こる理由の説明から始まり、そこからどのわざを使用すれば再現可能かを実験で繰り返す様子を動画に収めるという 比較的真面目なもの。

    「…これならなんとかできそうだな」

    あの自然現象のメカニズムを理解し、手持ちに丁度みずわざを使えるポケモンがいるから、ぼくでも再現可能かどうかを確認してみよう。
    それで多少条件が揃わなくても上手くいけば、疑似的に近いものをアオイに見せることができる。


    その後訪れた挑戦者の勝負を受けては勝ち、報告書の作成や手持ちポケモン達の調整やシュミレーターを使いながらの戦略の見直しだとかを行っていれば、ジムが閉まる時間帯になったから、そのまま退勤した。
    この日真っ直ぐ帰らず フリッジタウンに寄って大量のカイロを買い、帰宅した。
    とりあえず、この風邪をぶり返さないようきちんと治してから再現ができるかどうか挑戦してみよう。
    本当にこれ以上仕事関連で、周りに迷惑をかけるのは避けたい。


    食事や入浴を済ませて今日は早めに寝ようと寝室に入ったタイミングで、アオイから電話がかかってきた。

    「もしもし?どうしたの?」
    『あ、いえ…なんでもないんですけれど、ちょっと声が聞きたくなって。
    ごめんなさい、今忙しいですよね?』
    「え?あー…いや、大丈夫。もう落ち着いたから」
    『そうなんですね!なら良かったんですけれど、声大丈夫ですか?
    ちょと変ですけれど』
    「少し前までかなりサムかったから。でもそのうちなんとかなるよ」

    誤魔化し続けている間に風邪を引かなよう注意を受けたけれど、もう引いた後だということは隠した。
    二日ぶりに聞いた声を耳で感じながら、毛布の中に潜り込みしばらく話し込んでいると、最後に今度泊まりにきたいと言い出したから スケジュール確認後に日程を合わせたいと伝えて会話を終了した。

    …あの実験動画の通りに再現するとすれば、湿度以外の条件をクリアすればいいんだから 候補日は当初より多くなるはずだ。
    何度か確認を行ってから、アオイに来てほしい日付を伝えよう。




    あれから何度か実験を繰り返し、再現可能だと判断したからアオイにこの日は予定があるかどうかメッセージを送れば、すんなりとOKのスタンプが返ってきた。
    それならとジムリーダーとしての仕事を終えてから、疑似ダイヤモンドダストを再現する日に備えて、必要なものを買いにもう一度町に出かけた。


    そしてアオイが泊まりにくる日の当日 いつもより早めに帰宅して、彼女と一緒に食事や入浴を手早く済ませると 二十時にはベッドの中に入ろうとした。

    「…もう寝るんですか?」

    驚いた顔でこっちを見るアオイに対して明日は早いからと短く伝える。

    「え、今日しないんですか?」
    「しない、けど」

    彼女が泊まりにくる日は必ずしていることを今日はしないと宣言すれば、彼女は心底驚いた顔になっていて、ちょっとむっとした。
    そんなぼくを、脳と下半身が直接繋がっている人間みたいな扱いをしないでほしいんだけど。

    「えっと…明日の授業が午後からかどうか聞いてたので、朝までコースかと。
    だから今日はとっておきを着てきたんですけれど、…本当にしないんですか?」

    上目使いでそんなことを言われて、頭がフリーズする。
    とっておき。とっておき。とっておき…。

    いや、これからすると多分朝の三時に起きるなんて無理だ。
    だから、なんとかぐるぐるとしつこく巡る言葉を無視して もう一度はっきりしないと伝えようとした。

    「…する」

    口からは思っていたこととは真逆の言葉が出ていったけれど、好きな子からのお誘いを断れる男なんていない。
    だから、ぼくは別に…誘惑に極端に弱いとか、そんなことはないはずだ。


    *******************


    設定していた時刻になってからしつこく鳴り響くアラーム音を聞き、重い瞼を開けてぼくは起きた。
    隣でアオイがむずかっていたけれど、二度寝をさせないために体を揺らす。

    「どうしたんですか…」
    「とにかく服着て出かける準備して。あとカイロも渡すから体中に貼ったら教えてよ」

    わけもわからず支度を始めるアオイを尻目にぼくも準備を済ませると、二人で歯を磨きに洗面所へ向かう。
    その後絶対に彼女の体を冷やさないよう ぼくが昔使っていた防寒ウエアや帽子、マフラーだとかを全て身につけさせれば、もこもこの状態になった。

    「あの、グルーシャさん…」
    「話はあと。ほら、行くよ」

    困惑するアオイを連れて外に出る。
    気温は氷点下二十度を下回っていて、風もない放射冷却の環境下のため すこぶるサムい。
    けれど、体が温まりやすい箇所にカイロを貼り 他は防寒具で徹底的に守っているから、初回に比べればマシだ。

    アオイの手を引いて、観測スポットまで歩いて移動する。

    到着すればもう一度気温と風の有無を確認して、太陽が東から登ってくるのを待つ。
    時計を確認して、日の出予定時刻を少し過ぎたあたりから明るい光が出始めた。
    よし。雲一つない快晴だし、今のところ視程も良好、バッチリだ。

    最後の条件を揃えるため、ぼくはツンベアーをモンスターボールから出した。


    「この前したように、アクアジェットを細かく上方へ打つんだ」

    水がかからないようにアオイをぼくの後ろまで下げてから指示をする。
    ツンベアーは目線を合わせるようにして頷くと、前を向き 空に向けてみずわざを繰り出した。

    バトル時の威力とは違う 霧吹きのように細かく撒き散らされた水分は瞬時に凍り、太陽の光が当たりキラキラと虹色に輝きながら 氷の結晶がゆっくりと地上に落ちていく。

    「わあ…!」

    後ろから様子を静かに見守っていたアオイから、感嘆の声が聞こえた。
    うん、上出来だ。

    「グルーシャさん、これって!」
    「疑似的にダイヤモンドダストの現象を再現したんだ。
    …本当はちゃんと本物を見せたかったんだけど」
    「そんな!すっごく綺麗ですよ!友達が見せてくれた動画とそっくりです!」

    興奮で顔を赤らめながらハイテンションで話すアオイを見て、この一ヶ月弱 馬鹿みたいに風邪引きながらも頑張った甲斐があったと感じる。

    白い息を吐きながら、少しの間二人で幻想的な風景を眺めていた。

    正直とてつもなくサムいし眠たいしで色々辛いけれど、隣のはじける笑顔を見れたのなら そんなもの全て吹き飛んでしまう。
    もっと喜ばせたいと思って、ぼくはもう一度ツンベアーにわざを放つよう指示をした。


    終わり
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