おや、絶対零度トリックの様子が…?/グルアオ「こんにちは!今日もお願いします」
「新チャンピオン、こんにちは。今日もふぶきコースですね」
「はい!今日こそは初クリアを目指しますよー」
今日は雪山すべりに挑戦するため、ナッペ山に来ていた。
目的は、ふぶきコースを初めてクリアしてこおりのいしをゲットするため。
でもこの競技には以前派手に転んでから苦手意識があって、なかなか思うように目標タイムを達成できないでいた。
もう諦めてどこかにいしが落ちてないか探した方がいいんだろうけど、できないことを放置することがなんだか喉の奥に引っかかるような気持ち悪さがあるから、私は時間があればここに来てチャレンジを続けていた。
それにある日私の滑りを見ていたグルーシャさんに ここまで苦戦する人は初めて見たって言われたから、いつかはぜったいれいどコースで新記録を打ち出してギャフンと言わせようと狙っている。
馬鹿にはしていないだろうけれど、なんだかちょっと悔しいし!
気合を入れながらミライドンの背に乗って、スタート位置につく。
カウントが鳴り響く中、がんばろうねと頭をひと撫でしながら声をかける。
そしてスタート音が聞こえた瞬間、飛び出すようにミライドンが一歩前に出た。
前回はあと少しだったから、なんとか今日はできるような気がする!
ミライドンが頑張ってくれたおかげで、結果はなんとか目標タイムをクリアして怪我もなく無事ゴールすることができた。
見事景品を係の人から受け取り、お祝いでピクニックを開くために適した場所へ出発しようかとした時だった。
「やっとクリアできたんだ。おめでとう。
見てたけど、なかなかいい滑りだったよ。転ぶ前の感覚が戻ってきたんじゃない?」
雪をブーツで踏みしめ ポケットに手を突っ込みながらグルーシャさんがやってきた。
珍しくお褒めの言葉をもらって、ありがとうございます!と元気にお礼を言う。
「前より怖い気持ちがなくなってきました。でもまた油断して転ばないように気をつけますね。
次はぜったいれいどコースに挑戦するので!」
「もちろん怪我しないように気をつけて。
…今日はもう帰るの?」
「はい!ミライドンが頑張ってくれたので、お礼とお祝いも兼ねたピクニックをしようかなって…ふぃっくしゅん!」
話の途中で大きくくしゃみをしてしまうと、グルーシャさんが怪訝そうな顔でこっちを見ていた。
うぅ、ちゃんと飛ばさないように手で押さえたんだけれど…。
汚かったかな…と心配していれば、彼はため息をつきながら身につけているマフラーを外して私の方へ近づいてきた。
「全く。そんな薄着だと風邪引くよ。
温かい飲み物を出すから、おいで。
体を暖めてから下山しても遅くはないだろ」
「え、でもご迷惑かけるわけにもいかないですし…」
ジムリーダーとしての仕事が忙しいだろうから遠慮しようとすれば、アイスブルーの瞳に睨まれた。
いつもは顔の半分を隠すマフラーがなく、綺麗な顔が丸出しの状態だからか なかなかの迫力があってたじろいでしまう。
「じゃあ…お邪魔します」
恐る恐るそう答えれば、最初っからそう言いなよとお小言を食らった。
時々思うけど、グルーシャさんてなんだかお母さんみたいな人だな。
そんなことを考えているうちに、私の首にはマフラーを巻かれて さらに彼が着ているもこもこの上着を肩にかけられた。
ふんわりと香ったのは、柔軟剤の匂いかな。
それともグルーシャさんの匂い?
「ほら、サムいから早く中に入るよ」
若干の薄着になったグルーシャさんは寒さに震えながら、私の手を取ってジムの方へと歩いて行こうとする間、私はこの匂いはどっちなんだろうと考えていた。
そして裏口から入って控室と書かれたプレートが吊るされた部屋の中に入ると、彼は飲み物の準備をし始める。
「暖まるまで、それ着たまま座ってて」
言われた通り指さされた先にあるソファーに座ると周りを見渡した。
ものはあまり置いてなくてすっきりとした部屋。
でも殺風景というわけでもなく、どことなくグルーシャさんらしさが出ていた。
初めて入ったけれど、ジムリーダーだと待機部屋が用意されているんだなー。
そんな呑気なことを考えている間に、マグカップを二つ持ったグルーシャさんが隣に座る。
その時にカップから漂うココアとは別のいい匂いが鼻に届く。
これって、マフラーと上着と同じ匂い。
「あ、これってグルーシャさんの匂いだったんですね。
やっとわかりました!
すごくいい匂いですし、なんだか落ち着きます」
柔軟剤か彼の匂いかはっきりわかってすっきりしたー。
じゃあ美味しそうなココアを頂こうかなと、グルーシャさんの持つカップの一つに手を伸ばそうとすれば、なんとも言えない違和感に気づく。
あれっと顔を見上げれば、見たこともないほど真っ赤な顔でグルーシャさんが固まっていた。
「えっ、どうしたんですか!?」
慌ててグローブを外した手を彼の額に当ててみても熱はなさそうで、ますますなんでそんなに赤いのか謎が深まる。
大丈夫かどうか聞こうと下から覗き込めば、手袋を外した手で口元を覆いながら、ボソリと呟いた。
「…なんで、そんなこと言うわけ」
なんでと言われても…本当のことを言っただけですけど?
そのまま伝えれば、マトマの実のようにさらに赤くなった。
…理由はよくわからないけれど、グルーシャさんのこんな顔を見れるのはレアだなっと思った私は、これ以上見るなとあとから怒られるまで そのままじっと見つめていた。
終わり