紫陽花の純情(No.2)力が不安定になる時決まって何か得体の知れない怪に狙われる…
俺はソレを思い出し、急ぎ隠れ家に場所を移した
本当は事情を話せばよいのだろうが、知ればスッパは絶対に付いてこようとする
それは俺が一番望まない事だった
得体の知れない怪異
それはずっと自分を狙っている
まだ若い時に会ったソレは…
マダワラシジャ…モウスコシ…モウスコシ…
と闇から目を細め、俺を見ては楽しそうに去っていった
自分がアジトに居れば、周りを巻き込む可能性がある
何時もならば怪なぞ人知れず処理しているが、今はそうはいかない
「…アイツに迷惑かけたくねぇしな…」
共寝に誘おうとしたあの夜から、薬を飲む気にもならず…
気力がパタリと無くなってしまった
無気力というはこういう事か…とひどく納得すると同時に、何故か…スッパの顔を見るのも辛くなってしまった
「コーガ様…如何致しました!」
血の気がスッと下がるような気持ち悪さに仮面の上から口元を抑えた
「…っ…!」
心配し手を伸ばすスッパのその手を瞬間的に叩き払う
自分の行動に驚きながらも顔を背けて、込み上げてくる気持ち悪さに下を向き、背後で動揺しているスッパに声を絞り出す
「…悪ぃ…今は…触れるな…」
「……申し訳ありませぬ…」
何か言いたげなスッパを部屋から下がらせ、独りになって漸く、普通に呼吸が出来た気がした
それから暫く同じ事が続く
仕事を全て肩替わりして尚、自分の世話を甲斐甲斐しく焼くスッパの姿
声が…
手が…
眼差しが…
今まで何も感じなかった、スッパから与えられる何もかもが…
胸を締め付け苦しかった
そうして俺は全ての人間に部屋に近付かないように告げた
勘の良いスッパの事だ…
もぅ俺が居ない事を気付いただろう
だが、簡単には見付からない
此処には多重の結界が張ってある
ソレが破れるのは俺が死ぬ時だ…
「最悪…あいつがいれば、団は大丈夫…」
自身を抱き締めポツリと呟いて空を見上げる
冷たい風がザッと吹き上げ…
今にも泣き出しそうな雨雲が、俺を隠すように広がっていた