紫陽花の純情No.3「コーガ様!!」
数週間前からコーガ様の体調が激変した
コーガ様の体調を戻す為には、特殊な花が必要との事で、主の為ならば時間がかかろうともそれを見つけに行く覚悟は出来ていたのだが…
幸運なことに団員の中にその花が自生している場所が故郷の近くにあると分かり事なきを得た
その事もあり、コーガ様の体調は少しずつ良い方向に進んでいた…筈だった…
その日も何時もと同じく、起きたコーガ様が体を起こしたのを見計らい、水を手渡そうとした時の事だった
「…っ…」
「コーガ様?」
突然嘔吐くように仮面を抑えるコーガ様に、慌てて手を伸ばす
普段のように装束を着けていない、無防備な耳や首筋・手が青白く震えており、ただ事ではない感じに震える肩に手を添えようとしたのだが…
パンッ!
何があったのか解らなかった
乾いた音が響き伸ばした手に衝撃と痛み、それがコーガ様に叩き払われたと気が付いた時には、コーガ様は顔を背けていた
ほんの一瞬とはいえ…コーガ様が見せた本気の拒否反応に、理由が解らず呆然とする
そんな此方の気配を察したのか、苦しいながらもコーガ様が謝り出したのに…慌てて意識を戻す
主に謝られるなど何とも不覚…
元はといえば、不用意に手を差し出した自分が悪かったのだと反省し謝罪を返せば、コーガ様は辛いのか此方に顔を向ける事無く、部屋を出ていくように指示された
突然の体調急変
医師にも相談し見てもらうが、どうにも原因が解らない
薬は利いている筈だが…と困惑をみせるだけだった
それから何度か同じ事が続いた
自分を避けるように、コーガ様が距離を置きだし、その行動が胸を抉る
『放っておけばいい…』
放っておける訳がない…
この胸を占めている貴方が苦しんでいるのを、何もせずに見ているだけ等出来るわけがない
しかし、自分に触れるなとコーガ様が辛そうに仰り、どうすることも出来ない自分に腹が立つ…
前のように側に駆け寄りたい
肩から背を撫ぜて、冷えた身体を温めたい
手を取りその手を包み込みたい
その身体を温めたい…
だが、コーガ様は自分を遠ざけるように『近寄るな』と仰り避けられる
体調も関与すること故、話も出来ずに退出させられ…
訳も解らないうちに、コーガ様は壁を作り引き籠もってしまわれた
避けられてる…と解ってからも、自分はコーガ様の信を失っする事をしたのだろうかと考えるが、覚えが無くただ混乱する
しかし、この状態では埒が開かない…
最近では食事も殆ど残されるようなご様子で、このままでは力が戻る以前に命に関わるという医師の話に、背筋が凍る
話がしたい…
どうしてお避けになられるのか
自分に何か落ち度が粗相があったのか…
聞きたいことは山程あれど、全て自分のエゴばかりで、主に伺い向ける話じゃないと、従者として内心葛藤する
だが…聞かねば先に進めない
部屋に入ることを禁じられている為、扉の外から声を掛ける…
「コーガ様…」
不意に微かな風の流れが肌を掠めた
部屋から風?
隠し扉が開けられたのか?
「コーガ様!失礼致します!」
扉を押し開け辺りを見渡すが誰もいない
代わりに、役目の終わった形代が一枚ひらりと床に落ちているのに、眉を寄せるが、次第に巡る形代の理由に血の気が引いていく
何時此処に形代がある?
否…何時から形代に代わっていた?
何処から形代であったか!
風に靡く形代が揺れる
隠し扉の締まりが僅かに甘い…
何時ものコーガ様ならばこんな事はないが、体力の落ちている今ならばあり得る
だが、そんな状態で何処へ?
辛そうな呼吸・青白い肌…
力無く横たわる肢体…
顔を背けられても
叩き払われても
その御身に駆け寄りたかった
駆け寄りその辛さを労りたかった
何がコーガ様をあんなに頑なにしてしまった?
聞かねばならない…
貴方を失いたくない!
「…コーガ様」
床に落ちた形代を胸にしまい、俺は外へと飛び出した