グッドモーニング・コール ここのところ暫く静まり返っていた朝の住宅街が騒がしい。大きな玄関の扉からのそりと出てきた男は、空気の暖かさにランニングジャケットのジッパーを下ろしながら周囲を見渡した。
よく晴れた穏やかな陽気である。
異常気象というものが毎年数度はある恒例となって久しい。その例に漏れず、数日前までは分厚いコートを着なければ耐えられないような寒波に見舞われていたのが嘘のように、春らしく少しの湿り気を孕んだぬるい空気が男の金の髪を揺らす。
周りの住宅にひけをとらない豪邸である男の家の前を、一組の親子が歩いていた。父親と母親は上等な礼服を身に纏い、間を歩く子供はピカピカのランドセルを背負っている。
入学式だ。
近く——というほど近くはないが、徒歩圏内に大きめの私立小学校がある。敷地内に隣接する駐車場はなく、狭い道路に面しているので大雨の時などは送り迎えの車で周囲が混雑しているのを見かける。今日は自家用車やタクシーでの来校が認められていないのだろう。
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