無題ふたりで夕飯の餃子を包んでいた時だった。
皮とタネとでき上がった餃子が並んだそのテーブルに、いかにもなんでもない世間話のような顔をして、俺は恋人に向かって別れ話のはし切れをぽんと乗せた。
リン、前から思ってたんだけど、リンにとっての"好き"って俺のと違うんじゃないか?
(そう気づいた時、俺は何故か少しホッとしたのだった)
リンはそれがなんのはし切れなのか瞬時に判別できなかったらしい。何気ない会話のトーンで答えた。
「そうかもしれない。私には恋愛のことがわかってるとは言えない。」
そして無意識なのかなんなのか、俺をなだめるように少し柔らかい声でこちらをまっすぐ見て続けた。
「そうだとしても、私はニックのことが好きだ。私なりに君を大事にしたい。」
「それは…
("他のみんなと同じように"ってことだろ)」
「それは、俺が欲しいのとは違うんだって。
違うってわかってるのに、続ける意味なんかあるのかな」
餃子を包む手が止まった。やっと俺の意図を理解したようだ。どんな反応をするのか、何を言うのか、予想がついていた。
翼のように真っ白な男なのだ。
なのに、予想に反してリンの顔に浮かんだのは、言葉とはちぐはぐな、拠り所を無くした瞬間の不安そうな、今にも泣きそうな子どものそれだった。
「私は、君とするキスが好きだし、君に触れるのが好きだ。それは、恋じゃないのか。
それじゃだめなのか。」
恋では、だめなのだ。
恋にいつか終わりが来ることをおまえは知らない。だから慈悲の愛で俺に慰みの手を差し伸べてくれているなら、どんなにいいかと思った。辿り着かなければいつまでも終わらずに済む。追いかけ続けられる。なのにそんな顔するなんてずるいだろ。
リンが予想を裏切る男だということを、俺は忘れていた。それとも、その言葉を心から欲しているから、だからこそ願わないように目を逸らしていたのか。
どちらにしろ、俺がこの男から離れることなどできないんだ。そんな勇気も度胸もないんだ。