荼毘ずっと、私にはなかった。
「酷い面やな、それもう治らんやろ。どうすんの?」
要らないと思ってきたから、
「真希、オマエの力など皆、手抜かりなく持っているのだ」
それが落ちそうになっても、掬おうと手を伸ばすことすらしなかった。
「なんで一緒に、落ちぶれてくれなかったの?」
真依。
本当に大切なものまで、消えてしまったというのに。
「真依。どうして、」
なんで、この想いまでは、持っていってくれなかったの?
「真希さん」
「…………何だよ、憂太」
「久しぶりだね。…………大変だったって、聞いた」
「………………」
いつの日か、素手で受け止めたあの弾丸を、真依の少ない呪力で生成したあの弾丸を眺めていたら、聞き覚えのある声がした。
さっき会った時に、雰囲気が違い過ぎて、まるで誰か分からなくなっていた。
…って、それは私もそうだけれど。
「火傷。大丈夫?痛くはない?」
「………あぁ。大変だったのは私じゃねぇよ」
小さな弾丸をポケットに入れる。またそれを拒んで、どこかに落ちてしまうかもしれなくても。
「………大切なものがなくなってしまう気持ちは、僕にも本当によく分かるから」
「は?オイ止せよ。ガキん頃死んだところ実際に見ちまうのと呪術師が死を見んのじゃ全然違ぇよ。お前のがよっぽどトラウマもんだろ。一緒にすんな」
里香。その名前を、コイツの口から聞くのは、嫌いだった。
「……守れなくて、ごめんね」
ぼそっと呟かれたそれに、私は言えなかった。
真依のことを守ろうとしたのか、それとも私のことか、なんて、最低すぎる言葉。
なんにでも持ってると、思っていた。
でも、
「真希さんが、里香ちゃんみたいにならなくて、本当によかった」
愛する人が死んで、
「ごめんね。………本当に最低で、渋谷に来れなくて、ゴメン………ッ、」
強さ故の、孤独と責務を人一倍に感じて、
「あの時………っ、夏油の身体を、跡が残らない程……、傷をつければ、っよかった……」
誰よりも後悔を感じるクセして、
「……ごめんね。本当に、真希さん」
誰にもそれを背負わせない乙骨憂太は、なんにも持っていなかった。
持っていなかった、のに。
「………直哉」
足元に広がる、血の海。
直哉は斃れ、私は全部壊した、つもりだった。
ただ、一つだけ。
「ッ、」
なにも持っていなくて、それでよかったと思えた私の胸には、ひとつだけ。
鉛のような想いが残ってしまったのだ。
「っ、、、ま、い、ゆう゛、たぁ、」
そして黙って、荼毘に付そう。
この想いは埋葬してしまう。私はどこまでも最低な人だから。
だから黙って今は、真依が私を軽蔑してくれていることを信じる。
言えない。
憂太のことは最後まで、言えなかった。
IMAGESONGS 椎名林檎『ギブス』