懊悩(short)「フリーレンのことが、好きなんだ」
はじめて本人にそう打ち明けた時、フリーレンは目を見開いて俺を見た。
否定も、肯定もしなかった。ただ、信じられない、といったふうに。
けれど俺は、至って自然なことのように思えた。
シュタルクがフェルンのことを好きなように、フェルンがシュタルクのことを好きなように、
フリーレンがヒンメルのことを好きなように、
「俺は、きみがすき」
しばらく沈黙が続いていて、けれど俺は穏やかな微笑みを浮かべられた。
ふいに、ふ、と笑うフリーレンを見る。
その眉は困ったように八の字になっていて、感情を抑えたような笑い方をしている。
「私は、何倍もおばあちゃんだよ」
「言うと思ってた」
間髪入れずに言った俺に、再び目を開いて見るフリーレン。
おばあちゃん。言葉にして浮かぶイメージと、目の前のフリーレンは結びつく感じがしない。
事実、フリーレンは見た目だけでも俺と同じか下手したら下くらいの若さを持っている。
その木の葉みたいに上向いて尖った、耳がなければ。
「分かってるよ。フリーレンと俺じゃ年の差がありすぎるってことくらい。けどさ、俺はその見た目と中身のフリーレンしか知らないし、それ以上にもそれ以下にも見れないんだよ。ダメ?歳が離れ過ぎたら。歳なんかで気持ちを諦めなきゃいけないの?」
「……私よりも、先に死ぬじゃん」
「うん、死ぬよ。そんなの俺に言われても困る。俺のこと別に好きじゃないなら死んでもいいでしょ、先に」
「やめてよ………」
「好きじゃないだなんて、先に死ぬなんて生涯言わないで、」
「………ほら、好きじゃん。バカ」
「…………好きじゃないなら、こんな旅なんて一緒にしないよ」
フリーレンはもう泣きそうになっている。けど笑っている。
ずっと好きだった。その不器用と、優しさが。
「フリーレン。俺を見つけてくれてありがとうね」
「………何。急に。見つけたのはヒンメルでしょ」
「いやそうなんだけど、フリーレンに言いたかったから」
「……何それ」
フリーレンはまたふっと笑う。思わずこぼれた笑みといったように。朗らかな笑顔だった。俺はその笑顔が大好きだったんだ。
「俺。フリーレンより絶対長く生きる」
「そんでフリーレンを、お嫁にする」
フリーレンは何も言わなくなって、やがて、木々が擦れ合う音とともに、
「………ふは。頑張って生きてね」
と笑った。
「本気にしてねーだろ。俺マジだから」
「うん。じゃあ絶対生きてね。私のこと、置いてかないで」
「おう。そんで悲しい顔俺が絶対させない」
「………期待してる。珍しく」
IMAGESONGS 米津玄師「LADY」