定番の黄金ダシ。「俺のために、毎日味噌汁を作って欲しい」
唐突にそんなことを言われて、思わずフリーズしたのは仕方のないことだと思う。
俺とデイビットは、ナチュラルに同棲している。キスは朝に一回と夜に二回。たまに手を出し、出されてと、べたべたずるずると引き伸ばした様なセックスフレンド。
ルームシェアとは違う。ここの家賃を払っているのは俺だ。とはいえ別にヒモでも無い、相手に金がない訳では無い。二人で住むには僅かに狭いアパートで、壁の薄さを少しだけ気にしながら暮らしていた。
「…はぁ?今からは…」
味噌汁、ミソスープ。日本食。ミソという調味料を使用したスープのことか。今から作れってことか?と驚いたし、ましてや今、器に注いでいるのはコーンスープだが。
いや違う、そういう事では無い。食事に不満がある訳では無いらしい。だって目が真剣だ。文句があるなら、デイビットはもっと呆れたような目をする。
冷静になったと同時に、ふと思い出した。人を星や月と美しいものを喩えるように、日本には、告白を喩えた言葉があると。
「お前そういうのどこで…いや…あぁ、アイツか」
黒髪に青色の目。真っ直ぐで、何事も諦めない芯の通った奴のことを思い出す。僅かにデイビットに似ているアイツは、確か日本人だったか。
「検討が着いたようで何よりだよ、テスカトリポカ」
それなら、答えを聞かせてくれるか?
コト、とテーブルに置かれたのは、掌にすっぽり収まるサイズの小箱。その中には多分、俺の左手の薬指にピッタリなサイズをした、指輪が入っている。
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「ハッ…!?どこかでダシにされている気がする!?」
「先輩?どうされました…?」
藤丸立香の第六感は大いに当たる。それはたとえ、その噂の場にいなくても関係は無い。だがしかし、
『次の日には、薬指に指輪を着けて大層嬉しそうな顔をしたデイビッド=ゼム=ヴォイドが、「ありがとう、お前のおかげだ」と言ってくる。』
…なんて事までは、流石に分かる筈もない。