『かえらないで、』 先輩の、きらいな仕草がある。
それ、はいつも、スポーツバッグのポケットに入っている。
先輩がそれをごそごそとポケットから出す仕草がきらいだ。
「じゃ、また明日な」
「…ス」
まだ一緒にいたい、もう少しでいいから。
けど言えなくて、前髪をいじって返事をする。
先輩はそんなオレの頭を手を伸ばしてポンポンと軽く叩くと、赤色の定期入れを取り出して駅に入ってしまう。
すぐに来た電車に乗った先輩を、自転車を片手で支えて、ただ見送ることしかできない。
また明日会えるのに。
こんな気持ちになるのは人生で初めてだった。
ひとりでもバスケさえ出来ればいいと思っていた。
でも今は、先輩とバスケがしたい、もっと一緒にいたい、この感情はなんだろう。
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