五番線、冬の霧「五番線、冬の霧」
五番線、準急列車、それが私たちのいつもの帰り道だった。彼の最寄り駅は急行列車も止まるから、急行を待ったほうがはやく帰れるのに、私がいるとき、彼はいつも準急に乗った。
「ミスラさん特急でしょう? また明日会いましょうね」
「準急でも別に帰れますしそんな変わんないですよ。俺も乗ります」
はじめて彼と帰路に着いたときのことだった。俺がいたほうがいいでしょうみたいな雰囲気もなく、ただただ、本気で「そんな変わんない」と思っているんだろうな、という感じで彼は言った。
彼が私と居るときには準急列車に乗る、ということが、うれしいのはもちろんだけれど少し可笑しくもあった。もう少し私といたいってことなのかな、と考えては、そんなことはあまり考えていなさそうな、ただいつも通りの気怠そうな顔が目に入ったから。
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