自然軍幹部の新入りで、最年少、ブラピくん。ブラピというあだ名は敵軍の女神サマが付けた名前らしい。ちょっとヤだけど、ブラックピットくんって呼ぶのも長くてめんどくさいし、ナチュレ様もアロンもそう呼んでるから、アタシもそうしてる。
そんなブラピくんは、どうやらパルテナ軍の天使くんから熱烈なアタックを受けているらしい。本人は気付いてないけどアタシには何となく分かる。だって、ブラピくん白い羽くっ付けて帰ってくるんだもの。
「何よ、今日はどんなもの持って帰ってきたの?」
定期的にエンジェランドに通っている彼は、たまにお土産を持って帰ってくる。それはピットくんからじゃなくて、あの女神サマからとか、あっちの兵士さんからとか。お菓子のお土産とか、そんなんが多いかな?
でも、今日の彼は珍しく荷物が少なかった。
「……これ」
「ん?…何これ」
見てみると、四つに葉が分かれている小さな緑の葉っぱ。
「……クローバー?」
「ピットに、見つけたからあげるって言われたんだよ」
「ふぅん」
ぶっきらぼうに言いながらも、頬を緩めているのに気付いていないのかしら。
ブラピくんの手の中に収まってしまうくらいに小さいそれは、彼の想いに釣り合わなさそうな代物だけど。それでも、四つ葉のクローバーには小さな子でも知っているお話があるからね。
「四つ葉のクローバーは見つけるといいことがあるのよ。それをピットくんがあげたってことは、ブラピくんにいいことがありますようにってお願いしてるんじゃない?」
「…そんなしょうもないこと……」
って言いつつも、手の中にあるクローバーを見ながら嬉しそうにするの、やめてくれないかなぁ。
ブラピくんは少なくとも好意的に思っているんだろう。でも、それだけ。そこに恋心なんて持ち合わせていないのだろう。ピットくんの想いはいつ伝わるのだろうか。
「はぁ、可哀想な子」
「?誰がだ?」
「ううん、こっちの話」
怪訝そう顔をしながらも、自然軍の建物に入っていく彼。きっと今から自室に戻ってあの小さなクローバーを大事に保管する為に押し花にでもするんでしょう。
さーて、私もこの後ナチュレ様とのお茶会があるからそろそろ行かないと。
「四つ葉のクローバーとな」
「そ、今日ね、地上界に降りた時に貰ってしまったんですよ」
「ふむ、エレカも罪な女よのう」
「うふふ、それほどでも」
ブラピくん、感謝してよね。あなたの話だって分からないようにアタシの話だってことにしているんだから。こういう時のナチュレ様、応援してくれるはしてくれるけど、多分あなたの場合、息子の恋路に口うるさいお母さまみたくなっちゃうだろうから。最強幹部と呼ばれるほどに長く彼女の傍に仕えているアタシなら分かる。この方は自然軍の皆を我が子の様に愛してくださっているのだから。簡単にピットくんには渡してくれないでしょうよ?
「そうか…にしても、中々そやつはお主に執心な奴じゃのお」
「そうなんです?四つ葉のクローバーって、ちょっと子供っぽくないですか?」
「いやいや、かなり重いぞ」
ナチュレ様が言うには、こうだ。
四つ葉のクローバーの花言葉は、「私のものになって」らしい。
となると、ピットくんって。
「………やだぁ、ちょっと重すぎるかも」
「エレカは電光じゃからな。人間の手には掴めぬ存在よ」
高笑いをしながらも上品にティーカップを口に持っていくナチュレ様は今日もお美しい。
うん、ピットくんとブラピくん。まだまだ先が遠そうね。