酔芙蓉「新しい従業員、ですか?」
予想外の言葉に、思わずそのまま聞き返してしまう。オスカーはアンティークのグラスを磨く手は止めないまま、自身と並んでカウンターに立つ男ーーヴィクターの言葉を待った。
「ええ、週明けから働いてもらう予定です。オスカーはレオナルド・ライトをご存知ですか?」
「はい、多少は……」
どうにも本筋の見えない話に返答も曖昧なものになる。レオナルド・ライトといえば、この一帯を代表するカンパニーのひとつ、ライトニング社の社長だ。一般的に組織の代表まで世間に広く知られていることはそう多くないだろうが、レオナルド・ライトは役職に驕らず自らの足で事業を広げる気質と、その見目の良さから常に世間の注目を集めていて、オスカーでも存在を知っていた。しかし、新しい従業員を採ることとそれがどう関係するのか。
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