海があっても、なくても。 夏の夜の海辺には生温い潮風が吹いていた。
「海来んの、ひっさびさだな~。うわ、もう夜なのに砂ぬるい! はは!」
裸足になって護岸から降りるや否や、黒髪の青年がはしゃいで駆けて行く。
「転ぶなよ、シロ」
その背中に向け、声を掛けると「はーい」と素直な返事があった。
闘真も遅れて砂浜へと降り、シロの背を追いかける。
軽快な足跡と、体重の分それよりも深く砂を掻き分ける自分の足跡を何とはなしに見比べて、ふと視線を上げると、黒が銀に変わりゆく様子が目に入った。艶と光沢のある、柔らかそうな銀色の髪。
人に非ざる者──吸血鬼であるシロの、元の姿である。
「おい、シロ」
「ん。大丈夫大丈夫! 誰も見てないって。見てても髪染めてるって言い訳するからさ」
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