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    yuribaradise

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    yuribaradise

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    ぽいぴくで文章投稿できるようになったと聞いて過去作で投稿テスト 初めて書いた創望小説です

    ##ダンキラ

    テスト前。多くの学生にとっては憂鬱な期間である。寮の部屋、図書館、放課後は皆それぞれの場所で勉強に励んでいるが、たまには一緒に外に出て気分を変えてみようと望は提案した。その誘いに乗った創真はこうして望と二人、街の喫茶店を訪れていた。
     壁際の、一番奥の席。たまたま空いていたそこは静かで落ち着ける場所だった。
    「ラッキー! この席空いてるなんてついてるヨ~!」
     今日の占いもイイ感じだったし、と笑みをこぼしながら言う望の声は弾んでいる。飲み物の注文を済ませ、早速本題に取り掛かる。しかし創真の取り出した教科書を見て望の顔が少し強張った。
    「えっ、ソレからやっちゃう系?」
    「ん? 一日目の科目だったしね」
    「化学マジ苦手~!」
     ちょっとオーバーリアクションで頭を抱え項垂れる望を微笑ましそうに眺めながら、『俺は好きだけどなぁ』と創真は穏やかな声で返す。
    「だって化学式とか全然わかんないし~……」
    「俺にまかせて? 手取り足取り教えてあげるよ♡」
    「やった! ソウちゃん先生お願いしますっ!」
     望は顔の前で両手を合わせ、拝むようなポーズをして少しおどけて見せてから、今度は幾分か真剣な顔になる。ペンを走らせる創真の手の動きを目で追いながら時折頷いて、その説明に熱心に耳を傾けていた。
    「……と、こんな感じかな。……ぼん、どうしたの?」
    「ん? あっゴメンゴメン! ソウちゃんの声が優しくて心地良くって……でもちゃんと内容も聞いてたヨ!」
     視線を落としたままで一瞬反応が遅れながらも、すぐに顔を上げて快活な調子でいつものように笑って見せる望。それを受けて創真もまたにこやかな表情になった。
    「すっごくわかりやすかったヨ! ソウちゃんホントに先生とか向いてるんじゃない?」
    「そうかい? ふふっ、嬉しいな」
    「教わってて思ったけど、ソウちゃんってやっぱり理系なんだネ~」
     頬杖をついて創真の方を見つめながら言う望。文系の自身とは正反対かもしれない部分を実感しながらも、その声はどこか楽しげだ。
    「でもソウちゃんはロマンチストだからこういうのは知ってるよネ!」
    「え?」
     そのままご機嫌な様子で続ける望の口から出た言葉は、少し意表を突くものだった。
    「月が綺麗ですね、とか! 有名なアレだヨ〜」
    「ああ、アイラブユーをそう訳したっていうアレだね?」
    「さっすが〜」
     一瞬きょとんとした顔をした創真もすぐにまた柔らかい面持ちになる。
     こうして笑い合う穏やかなひと時が、好きだ。二人はお互いにそう思っていた。こんな何気ない日常の幸せをいつまでも噛みしめていたいという気持ちもまた、同じだった。
     少しずつ日も暮れ、窓の外には夕闇の気配がゆっくりと近付く。二人の周りには変わらず温かな灯がともっているようで、そのまま気付かずに会話に花を咲かせていた。
    「詩的な表現も心惹かれるものがあるけど、俺はストレートに愛情表現したいな」
    「そっか、ソウちゃんらしいネ」
     一段落した化学の教科書を閉じ、目が合ってまた笑い合う。楽しいひと時を彩った喉を潤してから、また次の科目に取り掛かる。望の好きな現代文だ。心なしか彼のその顔は少し浮かれているように思えて、創真はひっそりと口元を緩ませた。それから各々勉強に取り組んで、少しの間、静穏な時間が流れたところで創真が不意に口を開いたのだった。
    「ねぇぼん、ここなんだけど、ちょっと見てくれるかい?」
     彼はテーブルに置いた教科書を指差しながら、頼りにしていると言わんばかりに望の方を見やる。いつもはなかなか見られない創真の困ったような顔は、望の興味を引くには効果てきめんだったようだ。
    「なになに? ソウちゃんが質問なんて珍しい〜!」
     普段は自分が教えてもらう機会が多かった為、望は嬉しそうに身を乗り出して向かい側の創真の手元を覗き込もうとする。その様がまるで愛らしい子犬や子猫のようで、もしふわふわの耳や尻尾が生えていたらきっとぴょこぴょこと揺れていたのだろうな、などと考えてしまった創真は、愛おしさでたまらずにやけてしまいそうになるのを今は悟られぬよう抑えていた。
     もう片方の手にノートを携えた創真はその手を上げ、顔の横に掲げたが、無邪気な子供のように輝かせられた瞳はそんなことには気付かなかった。それはほんの数秒のうちの出来事で。
     そっと、とても優しい唇の触れ合いが、剥き出しでもなく閉ざされてもいない二人の小さな世界の中だけで秘めやかに行われた。その後の、一瞬だが長くも感じられる沈黙が場を支配する。
    「す、ストレートすぎだヨ……!」
     やがてその静寂を終わらせた望は身を乗り出す時に浮かせていた腰を、力の抜けたようによろよろと自分の席に下ろす。明らかに動揺している、といった様子だ。創真とは普段からキスくらい何度もしていて、慣れていないわけはないはずなのに。少し丈が長いオレンジ色のカーディガンの袖から覗く手が、可愛らしい口元を覆い隠してしまっている。それによってその声はとてもか細く小さく聞こえた。頬は急速に赤く色付いていき、先ほどまで幼子のような可愛らしさを見せていた瞳は熱を孕み、潤んで揺らめいていた。無邪気な少年だった彼が見せるオトナの顔。その変わりようは何度目にしても胸が高鳴り情欲を煽られるもので、彼が他の人に見せることのないこんな姿がたまらなく愛おしくて、そしてそれを見ることのできる自分はとても幸せだと感じて、創真は思わず口角を上げた。愛しい恋人の可愛い姿を誰にも見せたくない、そんな風に考えてしまう時もある。
    「すっかり遅くなってしまったね。そろそろ出ようか」
     そんな燃えるような熱情をも胸に秘め、夜の訪れた窓の向こうをちらりと眺めて向き直り、口元に優しげな笑みを浮かべ落ち着きを保ったままの創真。その声の後に、グラスの中の氷がカラン、と静かな音を立てたのがやけに澄み渡って聞こえるようだった。
    「う、うん」
     対照的にまだ動揺を抱えたままでいるような望は創真の目も見ることができず、荷物を手早くまとめてから彼に続いて席を立ち、俯きがちにその背を追った。

     店を出た帰りの夜道に人影は見えず、落ち着いた静けさがある。こんな夜によく似合いそうな月は、生憎出ていないようだった。
    「もー、ソウちゃん! ストレートで大胆なのはいいケドあんな所でしなくても……!」
     歩みを進めながら、早速先ほどの一件について物申す望。その口調は怒っているだとか不満だというよりも、きっと恥じらいを含んだものなのだろうと創真には感じられた。
    「ごめんね、ぼんがあんまり可愛かったから」
     創真が自然にさらりと言ってのけるものだから、これ以上反論する気にもなれなかった望は口を閉じるのだった。もちろん心底嫌だったなんてことはないし好きな人と触れ合うのは寧ろ嬉しいもので、だけどやっぱり恥ずかしくて。初心な少年は熱の残る唇を片手で押さえながらまだ高鳴る鼓動に悩まされていた。
    「ねぇ、ぼん。綺麗な夜空だね」
     立ち止まって振り返りながら呟く、その姿が夜の星の光に照らされる様を目にして望は息を呑んでしまった。君の方が綺麗だ、なんていつもの調子で返すこともできそうだったのに、なんだか妙に緊張してしまって上手く言葉が出てこない。本当に綺麗だったから。
    「あ、やっぱりそれも言うんだ? ソウちゃんってば、欲張りだナ〜」
     気付かれないように静かに一つ深呼吸をしてから、普段通りの元気な声で望は笑う。
    「そういうぼんこそ、意識しちゃってる?」
    「いやいや僕だって直球でアイラブユー言いたいし!」
     少しからかうような声音で問われて内心ぎくりとしながらも、なるべく平静を装いつつ自分の純粋な想いを真っすぐにぶつけようとする、健気な姿がそこにはあった。
    「ははっ、嬉しいな。俺も愛してるよ♡」
     甘い言葉を囁くその声も眼差しも優しくて、情熱的で、望は未だに思わず心臓が強く脈打ってしまうのを感じる。その愛情がもちろん嬉しいけれどなんだか気恥ずかしくて、それを誤魔化すようにはしゃいで新たな話題を持ち掛ける。
    「ねぇねぇ、あれ見て! いっちばん明るいあの星、チョー綺麗!」
     天に向かって高く掲げられた指先。創真は言われた通りにその先を目で追った。
    「どれだい? …………!」
    「にゃっはは、さっきのお返しだヨ!」
     夜空に気を取られていた隙に、今度は望が創真の唇を奪っていった。口付ける瞬間、その寸前、ちょっと大人びた色気を纏う彼の表情を創真は見逃さなかった。可愛い恋人が自分にだけ見せてくれるトクベツな顔だから。
    「これはやられたなぁ」
     丸くした金色の目を徐々に細めて、笑みをこぼしながら紡がれるその声からは、幸福感が滲み出ているようだった。いつも余裕を湛えた顔をしている創真への不意打ちが成功したことで望は満足げに、再び子供のように屈託のない笑顔を見せるのだった。ああ、やっぱり無邪気なこの顔も、こんなにも愛おしい。創真は表情豊かな望の姿を目に映し、その一つ一つどれもが好きだと改めて思うのだった。
    「ぼんだって結構大胆じゃないかな?」
    「えぇっ? だって誰も見てないし」
    「俺の時だって、誰にも見られないようにしたよ」
    「いやいや! それとこれとは違うから! 見られてはないかもだけどそういう問題じゃないっていうか……とにかくアレは心臓に悪いヨ〜」
     目立ちにくい席に座れてはいたが、まばらだったとはいえ人のいる店内の光景を思い出し、望はまた顔から火が出そうになる。
    「そうだね……ごめん、これからは気を付けるよ。やっぱりぼんにはいつも笑っていてほしいからね。……でもちょっぴり困らせたくもなっちゃうんだよなぁ」
    「えー、なにソレ~!」
    「好きな子には意地悪したくなっちゃうって言うだろう?」
    「……!」
     口をパクパクさせながら何も言えなくなった望は、今言われたばかりのその言葉を頭の中で反芻しながら胸を高鳴らせてしまう。
    「大丈夫、ぼんが本当に嫌がることはしないよ」
     夜風に少し冷えた柔らかな頬をそっと撫でながら、創真は真面目な表情で語りかける。触れた部分が徐々に熱を帯びていくのが愛おしい。
    「ソウちゃん、色々ズルいヨ……」
     寒空の下、すっかり熱くなってしまった頬が真っ赤に染まっているであろう様は、この宵闇の中ではきっとはっきりとは見えない。助かった、と望は密かに胸を撫で下ろした。望はわかっている。創真が誰よりも自分を想ってくれていて、大切にしてくれていることを。言葉通り、彼はそもそも自分を悲しませたり苦しめたりするような事なんて絶対にしないし、だから彼のすることも全部許せてしまう。『僕は心底、ソウちゃんにベタ惚れなんだなぁ』と、心の中で呟きながら、望はまた体温が上がってしまうのを感じていた。
    「残念ながら月は見えないね」
     頬から手を離してまた空を見上げる創真の言葉に、望もつられて上を向く。
    「でも星が綺麗だヨ」
    「そうだね。こんな夜も好きだな」
    「あの明るくて綺麗な星、なんかソウちゃんみたいかも!」
    「ぼんには俺がそんな風に見えてるのかな? なんだか嬉しいな♡」
     その遠き光に想いを馳せながら、創真は胸がいっぱいになるような気持ちだった。美しく輝く煌めきは何も語らずともそこにあるだけで、寄り添ってくれているような、そんな安らぎを与えてくれているように思えた。彼にとっての自分もそんな存在であれるというのなら、こんなに嬉しいことはない。
    「あ、でも……」
     不意に切り出しながら口ごもる様子を不思議に思い、創真は望の顔を覗き込んだ。
    「ソウちゃんは僕にとって太陽みたい……」
     遠い空を見つめたまま、ぼそりと呟かれたその言葉。きっとそれは、彼の心からの想い。
    「ぼん」
     もう呼び慣れたあだ名で呼びかけると、ハッとしたようにその背筋がピンと正される。
    「……あ、えっと、なんか照れくさいネ! にゃはは……。んっ、ぅ⁉」
     照れ隠しに頭を掻く仕草をする手を優しく捕まえて引き寄せて、そっと唇を重ねた。この日三度目のキス。驚いて目を見開いたままでいる望の後頭部を包み込むように柔らかに撫でると、心地良さそうにとろんとした翡翠色が細められていく。触れるだけの口付けを暫し交わし合ったまま、静かな時が流れる。
    「俺にとってもぼんは太陽みたいな存在だよ」
     ゆっくりと唇を離したのち、創真は愛情のこもった声でそう告げた。
    「えっ?」
    「一緒にいるだけで心が温まって、明るく照らしてくれるような……そんな無くてはならない存在なんだ」
    「……ソウちゃんもそんなコト思ってくれてたなんて、なんか、改まって言われると……すっごい照れちゃうネ。……でもチョー嬉しい」
    「もっと自信を持って良いのに。きっと聖人も同じことを思っているはずだよ。俺たちはぼんのことが大好きだからね」
     大切なチームメイトがこんなにも自分を想ってくれている。それだけでとても温かな気持ちになる胸を押さえながら、はにかむように望は口元を緩ませた。夜の寒さなんて感じないくらいに心が弾んで、今にも踊り出したくなるような心地だった。軽やかな足取りで創真の前に踏み出してから振り向いて、望は今日一番の笑顔を見せる。
    「ねぇソウちゃん……大好き!」
    「ふふ、俺もだよ♡」
    「ふー、やっと直接アイラブユー伝えられた~!」
     ほっとしたように息吐く愛しい人をそっと抱き寄せ、自分より少し華奢なその身体を両腕で包み込みながら多幸感を噛みしめて、創真はゆっくりと目を閉じた。
    「そ、ソウちゃん? どしたの急に……にゃははっ、苦しいヨ~」
     突然のことに最初は少し戸惑いを見せたものの、望はすぐに調子を取り戻して天真爛漫な姿を見せた。一度身体を離してから見つめ合う。そこで目にした望の顔がとても幸せそうだったものだから嬉しくて、再び優しく、ぎゅっと抱きしめながら、創真は望の形の良い頭を撫でた。愛しさが溢れて止まらないというように、何度も何度も。
     背丈は同じくらいなのに、しっかりした体つきの創真に力強く抱きしめられると安心感がある。望はそう思っているけれど、密着した時に感じられるその胸板の厚みや、間近で香る甘く心地よい匂いにドキドキしてしまう。それでもこうして抱きしめ合うことは言葉にできないくらい幸せなものだから、望も力いっぱい抱き着いて創真の気持ちに応えた。夜風が微かに彼らの髪を揺らす中、体温を分け合う二人はその心をも冷ますことなく幸福な時を刻んでいた。
    「今の俺たちを見てるのはこの星空だけだね」
    「わーお、ソウちゃんロマンチック~!」
     幾度となく笑い合うこの声も、お互いの耳と、そして澄んだ輝きの中に吸い込まれていく。静寂に包まれ、今ここでこんなにも心通わせ合っていること、それは大人びたようでいてどこか可愛らしいささやかな二人の秘密となって胸の奥を温めた。暗闇なんかじゃない。君といれば、どんな夜だって。
     今宵は、良い月夜だ。
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