密接 ガチャリとセキュリティの高い玄関の扉を開ける。
少し警戒をしながら部屋の中へ滑り込むと、左馬刻は靴を脱いで暗い廊下に漏れる明かりの部屋へと進んだ。
「寂雷、ただいま」
「おかえりなさい、左馬刻くん。今日は遅かったね」
低く、穏やかな声が耳に届いた。
ここ数ヶ月、左馬刻が帰宅して最初に向かうのは浴室だっだ。
スモーク硝子の扉を開けて中を見やると、浴槽の水だまりに浸かった髪の長い男が、パシャリと水面を打つ音と共に顔を上げる。浴槽にゆったりと身を委ねたその男の上半身は裸であった。しかし下半身はおよそ自分と同じ人間の姿形では無かった。
鱗だ。
普通のサイズじゃくつろげないと特注で作らせた浴槽を埋めつくすように、無数の魚の鱗が彼の下半身を艶めかしく色を変えては揺れている。
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