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    既刊 ジェイ監「愛逢月」

    プロローグ的なお話です。

    #ジェイ監
    jayJr.
    #ゆあまい

    星が集まるまでの二人口から泡がこぽり。
    大小様々な泡が口から零れ海面へとのぼっていく。
    酸素を肺へと送る体が機能しなくなり、ゆっくりと沈んで這い上がれなくなるその身重は手を伸ばし、この溺れた体を救えるのはあの人だけ。
    美しく幻想的にこの海を泳ぐ、たった一人の。

    「はぁ?ジェイドのことが好きってマジで言ってんの?!」
    「シーッ!フロイド先輩、声大きいですって!」
    「いや、小エビちゃんもだから・・・。まー、ジェイドはオレと同じで顔はいいしスタイルいいからなぁ・・・。でも性格に難あるよ?」
    「そこも同じでは・・・?ってイタタタ・・・」
    口が滑ってしまった小エビことユウは頬をむにぃっと引っ張られ加減しているとはいえ、頬のお肉がぷつんと千切れてしまいそう。そのまま引っ張られていた指がするんと離されるとどこかのアニメのキャラのような頬が下膨れになってしまった。
    「最近オレらのほう良く見てるから何の用かと思って連行したら、まさかのジェイドに惚れてます―ってのはビビったわ」
    「・・・私だってこんな話暴露したくなかったですよ。でもこんな場所連れてこられたら言うしかないですって!」
    薄暗い空き教室に連れ込まれた時はさすがのユウも簀巻きにされて海へ放り投げられる覚悟をした。嘘や誤魔化しが通用しないフロイドに適当なことをいって逃げられる確率は稚魚でも分かることであり、ユウは観念するようにぽつぽつとジェイドのことが好きだから見ていたというNRCニュースの一面を飾るビッグな情報だった。
    フロイドの腰よりも低い机に座りながらフロイドはふぅん・・・と赤いような青いような表情をしているユウをちらりと一瞥。
    アズールならユウのこの気持ちを利用して何かしら使えないかと模索しただろうし、この場がもしジェイドだったならと考えるととても愉快ではあるがユウにとっては地獄。
    「オレが言うのもなんだけど・・・ジェイドに惚れる要素なんてあった?ちょっと前にオレらだいぶ小エビちゃん達を追いかけまわしてたと思うけど。寮も担保にしたし、イソギンチャクも作ったし」
    「・・・・一目惚れです」
    「ン?ナンテ?」
    フロイドは耳の穴に自分の指を突っ込んでぐりぐりとしてから耳を象にする。
    「一目惚れ・・・です」
    「マジか」
    ブフッと笑いだしてしまいそうなのをフロイドは喉で止める。好いた惚れたは勝手ではあるが、あのジェイドを一目惚れしてしまい魔力のない弱い小エビが苦労することは必然的であり、それがフロイドは手に取るように分かった。
    「・・・ジェイド、攻略難しいと思う。オレもだけど、あいつも面白いか面白くないかで判断するところあるからさー。小エビちゃん、結構可愛いけどそれだけじゃん?」
    「いや、可愛いって思って貰えてることに驚きですが!・・・やっぱ一筋縄ではいきませんよね。でも私、ジェイド先輩とどうこうなりたいって気持ちはほぼゼロです」
    「はぁ?陸の雌ってお付き合いしたいんじゃねぇの?」
    「・・・・私、この世界の人じゃないですからね。いついなくなるか分からないじゃないですか。なんとなく覚えているのは星が凄く綺麗だったことぐらいですけど、でもいつか帰る日が来るかもしれないのに誰かとお付き合いだなんて出来ませんよ」
    俯いて行き場のない気持ちをぐっと堪える。きっと自分なんて見向きもされないだろうし、冴えない人物だといつだったか言われたのをユウは覚えている。
    「でもね、先輩!」
    「んー?ジェイドに黙ってて欲しいって話なら約束出来ねぇよ?あはっ」
    困るだろうか。止めてくださいと手を合わせて懇願されるだろうか。
    フロイドはその先のユウの行動を想像すると口元が悪い方へと上がる。
    「そうじゃありません!全然ジェイド先輩に言ってもらっても構いません」
    上がりかけの口元はゆるゆると下がっていく。想像の斜めをいくユウの発言にフロイドはまた面白そうなことになりそうだと、こんな面白いエビは見たことがないと目を爛々とさせた。
    「私、気持ちはジェイド先輩に伝えようと思うんです!言わない後悔より言って後悔の方が私には合ってるので。フロイド先輩にバレた時点でそれをするのが早まっただけです」
    「へー、小エビちゃんやるじゃん。魔力がないかわりに根性あるね。まぁ、言うのはただなんだし言ってみな」
    「元々は好き好きいうタイプじゃないんですけどね、この世界に来て根性が座りました」
    よし!と拳を握る小さな異世界の少女にフロイドは第三者として見守ることにした。
    それがいずれ面白いだけでは済まなくなることを知らずに・・・。


    「ジェイド先輩好きです!」
    廊下ですれ違うジェイドにユウは手を後ろに組み花が満開に咲いたような笑顔をそれを伝える。
    「えぇ、今日もありがとうございます」
    少し困ったような、だけども悪い気がしないそれにジェイドは眉を下げて礼を言う。ジェイドが反応してくれたことに満足したユウは先を行くエース達に呼ばれ手を振りながら廊下を走って行った。ユウがジェイドに初めて好きだと伝えてから一週間ほどが経っていた。勿論ジェイドはユウをそういう対象で見ていたわけではないので、申し訳がない『ふり』をしながら謝罪をすればあっけらかんとした態度だったのはジェイドも意外だった。
    こういうシチュエーションは初めてではないジェイドはあまりにも他の雌と違い過ぎて困惑の色を暫く隠せずにいたぐらいだ。泣いて、すがって付き合って、好きで仕方がないのとまとわりつく言葉にうざったさを感じていたそれとは違う。
    「小エビちゃん、マジでジェイドに付き合ってとか言ってないの?」
    「えぇ・・・、まぁ付き合って欲しいとしつこくされるよりはさっぱりしているので嫌な気持ちにはなりませんね。それに僕は彼女に対して何の感情も抱いてませんから」
    「そう?分かんねぇよー?いつか小エビちゃんを好きになるかもしれねぇじゃん」
    「ふふっ、ご冗談を。そのうち彼女も僕への気持ちも冷めて何も言わなくなってきますよ」
    廊下の遠くでユウとマブ達とじゃれついている姿をじっと見る。
    男子に混ざり、さっぱりした性格にジェイドを好きだと伝えられる根性。
    「一目惚れです!」
    彼女は人に好かれやすく、寮長立場の人物とも仲がいい。そんな社交的なユウの周りには外見が麗しい者が多くジェイドのことが好きだと伝えられた時に一応ジェイドはどこが好きなのか聞いた。そしてこの言葉にジェイドは結局見た目なのかと面白味を感じなかった。
    一目惚れは無意識で一気に心を奪われ自分でもコントロールが出来なくなるほど湧き上がる。そんな単純的な気持ちはいずれ興醒めしてすぐにその感情は消えてしまうだろうとジェイドはこれも陸でのいい経験だとフッと笑った。
    「ユウさんが過去に好きになった方と僕が似ているのかもしれませんね。彼女がこの世界に来たことによって忘れているだけで・・・ね」
    その人の代わり。自分で言っておいて、ジェイドは皮の手袋の中の手が冷えていくのが理解出来なかった。


    「ジェイド先輩!今日も大好きです!」
    「ふふっ、ユウさん今日も元気ですね。ところで、その手に持っている紙袋は?随分といい袋のようですが・・・」
    「あ、これですか?ヴィル先輩がCMしてる高級ヘアオイルがオンボロ寮に届いたんですよ。ヴィル先輩がこれでケアをしなさいって」
    嬉しそうに紙袋から出したのはヴィルが監修したヘアオイルだった。コスメランキングにすぐさまトップ入りした高級オイル。爽やかで温かみのある香りで貴重なアップルシードを使用した効果の高い代物。
    「・・・嬉しそうですね。僕に言って下されば同等の効果があるオイルをお渡し出来ましたのに」
    「好きな人に頼ることなんて出来ませんよ」
    「え・・・?」
    「ジェイド先輩が好きだから綺麗になりたいのに、それをジェイド先輩に手助けしてもらうなんて変ですもん。彼氏じゃないんですからいつも通りでいてください」
    ジェイドが持っていたオイルをその手から抜き取るとオイルをぎゅっと腕の中に閉じ込める。確かに恋人でも番でもない相手から対価なしで要求されるのは筋違い。後からの対価を考えるならまだしもユウは何も持っていない。だからユウが言っていることは正しい。
    「ヴィル先輩にはいつもお世話になっていてこういう美容の話をよく相談してるんです」
    美容系の話ならジェイドよりもヴィルに聞く方が賢明。だけども頼りにされていないというのは些か不満だ。フロイドの粘液の在庫がないなら自分の粘液を絞り出して作ればいい。ユウがアップルの香りが好きならそれを配合したっていい。それぐらい対価を貰わなくてもしてやれるのにとジェイドは顔が無表情と化する。
    「ご、ごめんなさい。あまり面白い話ではありませんでしたね」
    ユウを目の前にしてあまりこの顔を晒したことがなかったジェイドはハッとする。
    「いえ、僕から聞いたので。不快にさせて申し訳ありません」
    手を添えて恭しく頭を下げた。
    慌ててユウは首を横に振り、その際に髪が揺れる。少し痛んだ髪がこれからこのオイルで綺麗になっていくのかとジェイドはどこに向ければいいのか分からない、どろりとした感情をその場に残した。


    「決闘だ!手袋を拾いたまえ!」
    こんな声が中庭の井戸の近くから聞こえてくる。
    「おやおや、今日はあちこちでいざこざがありますね」
    そういうジェイドも少し赤い色が付いた手袋を魔法で綺麗にしてスッと手に嵌める。本日の違反者への罰を三人執行してきたところだ。知能が低い彼らは仕返しをしそうであったが、その矛先を自分やフロイドに向けることないだろうとそれ以上の言及はせず。
    今行われている中庭の決闘は誰だろうか。ほんの少しだけ興味があったジェイドは柱から少し覗いてみることにした。
    「そ、そんな決闘なんて出来ません!」
    「(ユウさん・・・?!)」
    ぺたんと尻もちをついた状態で目の前に投げられた白い手袋を見てユウは出来ないと首を横に振る。驚いて転んだのか膝が擦りむいていた。
    「ハァ?舐めんじゃねー!オクタヴィネルのジェイドのことが好きなくせにヴィルさんにまで媚び売って生意気なんだよ!もしかしてジェイドが無理だったからヴィルさんに乗り換えようって魂胆ならオレたちが許可しない!見た目も地味で肌も艶がないようなやつにヴィルさんは相応しくないからな」
    「ち、違うんです・・・あの、ごめんなさい!決闘は棄権しまーす!」
    「おい!逃げるな!」
    ずるっと一瞬足を滑らしながらユウは落とした教科書をそのままに安全圏であるマブたちのいる教室へと走って行く。
    「あいつチビのくせに走り早いな・・・、よし追いかけ・・」
    「失礼します。少し宜しいですか?」
    「ジェ、ジェイド・リーチ!?」
    「はい。ユウさんに想われているジェイド・リーチです。少し、僕とお話をしませんか?こちらは落とされた手袋です。どうぞお受け取り下さい」
    代わりに決闘受けますよ?そういう無言の圧できゅっと瞳孔が引き締まったジェイドにポムフィオーレの男はごくりと唾を飲み込んだ。


    「どうしよう・・・教科書がない。あの時落としたと思ったんだけど・・・」
    放課後、さすがに彼もいなくなっているだろうと中庭の様子を見に来てみれば彼どころが落とした教科書までもがなくなっていた。今回の宿題はあの教科書がなければ解くことが出来ないのだ。これからハーツラビュルまで行って教科書を借りに行こう。そう思って足を一歩踏み出すと、
    「ユウさん」
    大好きな声が聞こえて、ユウはにっこり笑って振り返る。
    「あ、ジェイド先輩!こんにちは、今日もかっこいいですね」
    無理して笑っているの気づかれているかもしれない。それでも好きな人には笑顔を見せていたいのだ。
    「・・・・、こちらユウさんの教科書ですね。落ちていたので拾っておきました」
    「良かった!ジェイド先輩が拾ってくださっていたんですね!私、転んでしまって拾い忘れたまま教室に行ってしまって・・・へへ、そそっかしいですよね」
    「お怪我はされませんでしたか?少し・・・血の匂いがします」
    「あー・・・、掠り傷です!大好きなジェイド先輩に心配してもらえて幸せだなぁ」
    健気というか能天気というかヘラヘラと笑っているユウにジェイドはまたもやどろりとした靄がかかる。
    好きだというだけで先の関係を求めず、因縁を付けられても助けを乞うこともせず、ただ好きな人という形だけで終わらされる。
    形をもたないその不安定さは責任が伴わない楽なもの。
    利用だって出来そうなのにそれをしようと思わないのはジェイドの中にある善の部分がそうさせるのか、その利用の価値にさえならないのか。
    「ユウさんは、僕と・・・先へ進んだ関係にはなりたくないのですか?」
    「へ!?あ、えっと・・・そんな贅沢なこと言えませんよ。だってジェイド先輩は私の事なんとも思ってませんよね?」
    「えぇ、そうですね」
    「ですよね!だからいいんです!私の事を好きって言ってくれる方じゃないと私も付き合おうってならないので。ふふっ、ジェイド先輩みたいな素敵な人に好きって言ってもらえるように頑張ろうっと!では、私宿題があるので失礼しますね」
    片思いのまま付き合ってあっさり別れられる方が辛い。
    それなら最初から好きだと言ってくれる人がいい。だけど好きな人には好きだと伝えたいこの我儘さぐらいこの世界で許してほしいと思う。
    せめて、好きになってもらえなくても可愛い、綺麗ぐらいには思ってほしいからユウは磨きをかける。
    「ジェイド先輩、なんであんな事聞いてきたんだろ?ジェイド先輩に愛される女の人が羨ましいなぁ・・・、そもそも私の事を好きになってくれる人なんているのかな?」
    虚しい自問自答に項垂れながらとぼとぼと寮へと帰った。


    「ジェイド、最近ぼーっとしてね?」
    「おや、そうですか?」
    「うん。だってこの紅茶、いつもと味が違う気がする」
    ラウンジ営業終わりにフロイドはジェイドに紅茶を淹れてもらっていた。いつのもティーカップにいつもの茶葉。となると原因は紅茶を淹れたジェイドに問題がある。
    「ジェイドが淹れた紅茶はもっと美味いし。心ここにあらずって感じ?何かあった?」
    「・・・ユウさんについてどう思います?」
    おかわりを求めてカップを上げていたフロイドのカップに紅茶を注ぎながら視線を紅茶に移してフロイドに問いかける。
    最後の一滴を注ぎ終わるとフロイドは注ぎ終わるのを待っていたかのように口を開いた。
    「小エビちゃんはジェイドのことマジで好きだと思う。でも付き合いたいって思わないのは少し変わってると思うなぁ」
    「今まで出会ってきた女性とは少し違うように思いますね」
    「ってことは、付き合いたい雄とジェイドは違うってこと?」
    うーん?っとフロイドは腕を組む。
    「あ、あれか!小エビちゃんが自分の事が好きな雄と付き合いたいってことかなぁ。ほら、ジェイドは好きも嫌いも言わねぇから小エビちゃんは好きだけど付き合いたいって思わないんじゃない?」
    「僕にはあまり理解出来ない感情ですね。番にしたければすぐにでも行動移します」
    上品にとは言い難い飲み方でフロイドが飲み干したカップを下げながらジェイドはオンボロ寮が建っているであろう方向をじっと見て透視でもしているようだった。
    「ジェイド、気になるならちゃんと囲ってないと取られちゃうよ?」
    「ユウさんのことは何とも思っていませんよ。そうですね、少しは面白味があるようでしたら興味が沸くかもしれませんが今のところは変わると思いません」
    カップを洗ってきます。と、ジェイドはカップをトレーに乗せて奥の厨房へと入って行った。
    「絶対気になってると思うんだけどなぁ・・・、あいつあんな不器用な性格だっけ?」
    カウンターに肘を立て眉を八の字に下げて、今はいない片割れの心の心配をしていた。


    「おーい、ユウ!隣のクラスのやつがお前呼んでたぞ」
    とある日、合同授業の終わりにエースにそう言われると、グリムに教科書を預けたまま教室の入り口へと向かう。その合同授業は勿論、ジェイドもいた。
    「(・・・どなたでしょうか。ユウさんに用・・・とは)」
    無意識にジェイドは聞き耳を立てるように静かに復習の意味を込めて教科書を開く。しかし、教室の端に座っていたせいでユウのいる入り口近くの声は聞こえない。情報として視覚から入ってきていたのはユウのほんほり赤らんだ顔だ。赤らむような何かを言われたのだろうか。小さな手の中にあるこの学園に似つかわしくない花柄の封筒。
    「(告白・・・でもされたのでしょうか。もしくはそれに類似したことを)」
    復習のための教科書は意味をなしていない。今開いている頁はとっくの前に習い終わっているところなのだから。読みもしていないのに教科書の頁だけが捲られていく。
    パラパラと捲られていた教科書は最終頁まで捲られ、それと同時にユウが自分の席に戻ってきた。
    「で?あの隣のクラスのやつは何だって?」
    ニヤニヤとした顔でエースはユウの肩を突く。それはもう分かっているのに聞いているパターンでユウは少し恥ずかしそうに貰った花柄の封筒をちらりと見せると、エースはガチじゃんと笑っていた。
    「あんな無骨そうな男なのに花柄の封筒を選んだとか結構マジじゃん。ユウはどうするんだ?お前、ジェイド先輩のこと好きっていう割に付き合いたいとか言わねぇじゃん?」
    「そうだね。私は片思いのままでいいんだー・・・、どうせ私なんか好きになってくれるはずないし」
    「じゃぁ、好きって言ってくれたコイツと付き合うのかよ」
    「うーん・・・気持ちは嬉しいんだけどねぇ。どうしよっか」
    ジェイドはパタンと教科書を閉じ、椅子を引いて立ち上がるとユウたちの方へ向かった。
    「ユウさん、少し宜しいでしょうか?」
    「あ!ジェイド先輩!一緒の授業で嬉しいです」
    「ふふ、それは良かったですね。先ほどのユウさんと話されていたあの生徒のことですが」
    「・・・はい?」
    ジェイドはユウにあの生徒とは親密にならないように、なれば遊ばれるだけだと諭した。イデア風に言えば陽キャな彼はきっと誰かとゲームをして罰ゲームの一環としてユウに告白をするというシチュエーションを作っただけだと言う。
    あんな真剣そうな顔をしてこの手紙を読んでほしいと言っていたあの人がそんな事を?とユウは半信半疑だがジェイドが言うなら本当の事なのだろうと思う。ユウが今信頼しているのはジェイドなのだから。
    「人の感情を乱すようなゲームに加担することはありません。ユウさん、その手紙は僕が預かりますよ。彼の寮の責任者と話をしておきます」
    「そ、そうですか・・・。少し残念です・・・、告白とはされたことなかったから」
    「ユウさんは僕が好きなのでしょう?」
    「え!?あ、はい!」
    「だったら、そのような手紙は必要ないでしょう。・・・はい、確かに手紙は預かりました。僕は用事が出来たので次の移動の用意をしますね。それでは、また・・・」
    小さな封筒はジェイドの大きな手の中に包まれると、一瞬握りつぶすような仕草をしたあと制服のポケットに仕舞った。
    「ジェイド先輩、何か怒ってます?」
    「いいえ?可愛い後輩の手助けが出来て安堵しております。ちなみにこちらの対価は必要ありませんのでご心配なく」



    「・・・やはり、思っていた通りですね」
    ジェイドはユウと別れてからすぐに手紙の内容を確認した。それはユウに対して真剣さに溢れる言葉が綴られていて、ジェイドのことも記載されていた。あいつはお前を幸せに出来ない。というもの。ジェイドはすっと光彩をなくすと、ぐしゃりと握りしめ火の魔法で消し炭にした。
    「おっと、つい火力が上がってしまいましたね。ユウさんの気持ちは僕に向いているんですから無駄なことを考える輩がいるものです」
    パラパラと床に落ちていく燃えた紙の消し炭を踏みしめてジェイドは何事もなかったように歩き出す。

    『ジェイド先輩!好きです!』

    ユウの好きの言葉は自分の物。他の男に向けられるのは尾びれがジリジリとする。
    「もうすぐラウンジの一般参加の日でしたね。メニューを考えましょう」
    ユウならどんなスイーツが好きだろうか。パフェなんてどうだろうか。手を顎に置いて美味しそうに食べるユウの姿を思い浮かべる。
    無残に焼かれた手紙は風で散り散りになり消えた。
    こぽこぽと溺れていくのは二本足のユウかそれとも人魚であるジェイドか。
    二人がすれ違っている間にもその星は運命の瞬間へと近づいていた。

    …to be continued next「愛逢月」



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