みし、と音がした。
鈍く光沢を持ったその部位は、今や自分の身体の一部であるように感じられる。不思議なものだ。以前は違和感しかなかったのだが。
めきっ。
「っ」
無意識に息を詰めると、それに勘づいたらしい狂人が、やたらと嬉しそうに口角を歪めた。
「ああ、怖いか?大丈夫だ、私がついている」
「……どの口が」
そう吐き捨てた自分の声の弱さを自覚して、舌を噛みちぎりたくなった。
左側から何かが軋む音がする。
「ふむ。やはり工具の方が負けてしまうな」
そいつは然程残念でもなさそうに呟くと、部屋の外に顔を出し、そこにいた魚人に声をかけた。
「──、──」
何度聞いても不快な言語だ。自分に自由な手がふたつあれば、今すぐ耳を塞いでいただろう。
しばらくすると、奴は何やら筒状のものを手に戻ってくる。
「は、」
ガスバーナーだ。
(※著者注:この世界では太古の昔よりガスバーナーが存在するものとする)
「な、ん」
「じっとしていたまえ。危険だからな」
言うが早いか、そいつは青い炎を義手に吹き付けてきた。
「──っ!」
全身が総毛立つ。時間とともに、腕の切断面から不快な熱が侵食してくる。色を変えていく義手を直視できなかった。
「どうしたライズ、そんな顔をして。自分の腕が焼かれる様など滅多に見られないぞ」
「ッ黙れ……!」
「そう言うな。見ろ」
有無を言わさぬ言葉と共に、強く顎を掴まれる。無理矢理向かされた視線の先で、義手に工具が宛てがわれた。
「これだけ熱せば問題あるまい。どれ」
軽い声。どれ、などと軽い声で。
そんな調子で、まるで羊皮紙でも丸めるかのような気軽さで、彼は腕を動かす。
ぐにゃり。
「あ、」
それはいとも簡単に形を変えた。
「おお。綺麗に曲がるものだ」
狂人は薄っぺらい感嘆の声を上げながら、その行為を二度、三度と繰り返す。
やがてその義手がただの金属の塊になったころ、彼は満足したような様子で、ばつんとそれを切り取った。
「いい時間だった。これは部屋に飾るとしよう」
「……」
悪趣味にも程がある。
そう言おうかと思ったが、更に悪趣味なことをされそうなのでやめておいた。