蒼き埋葬「彼の国と戦争になる」。扉を開けるなり彼は僕にそう告げた。
どうやら軍法会議が終わるや否やこの雨の中傘も差さずやってきたようで、ノブに乗ったままの手からは決して少なくない量の水が重力のとおりに滴り落ちている。晴れ男の彼からは想像し難い光景だ。
いつもの屈託のない笑顔と鬱陶しい大きさの花束を家に置き忘れたらしいツカサ聖騎士長殿は、目を見開いては呆然と立ち尽くす僕を少し伏せた瞳でただ真っ直ぐに見据えていた。
まず、何故それをわざわざ僕に? 貴方の告白をもう数年も袖にし続けて、最早腐れ縁と変わりなくなってしまった僕の元に。喉までそう出かかった言葉を既の所で呑み込んだ。ああ、そういえばこの人には肉親も縁者も居なければ病弱の妹君とも数年前に死に別れたのだった。寄る辺がこんな引き篭もりの魔導士にしか無いだなんて、普段の苛烈な戦いぶりしか知らぬ者からしたらさぞ驚きだろう。
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