兄の心、弟知らず「イーグルとジェシカは仲がいいよな。見ているだけで楽しい」
ホークアイがふと漏らした言葉に、ジェシカが食いつく。
「あら、ホークアイだって私たちの『きょうだい』よ。そうだ、『おにいちゃん』って兄さんに言ってみて。きっと大喜びよ。そろそろ戻ってくる頃だろうし。って、言ってるそばから」
ジェシカの言う通り、イーグルが部屋に戻ってきた。
ジェシカに背中を押され、イーグルの前まで押しやられる。
「ねえ、兄さん。ホークアイが言いたいことがあるんだって」
ホークアイが何も言わず突っ立っているので、イーグルも何があるのかとひたすら待つ。
あっちに視線、こっちに視線を巡らし、むぐぐと、言い淀んだ末、絞り出した一言。
「お……おにいちゃん」
イーグルの顔が一瞬にして輝き出す。
「や、や、やっと……! ホークアイがおにいちゃんって言ってくれた!」
がばっと抱きつこうとしてくるので、ホークアイは避けた。
「避けるな! おにいちゃん記念日だぞ」
暑苦しいイーグルに困り果てて、後ろにいるジェシカを見る。
彼女は輝かしい笑顔で親指を立てている。
いやいやいや、眺めていないで助けてくれと口パクで叫んでも、ジェシカは見守るだけだ。彼女はそもそもイーグルの手助けをしたい側なので、暖かなまなざしだけを向けてくる。
「いいじゃないか、減るもんじゃないし。オレはとってもうれしいぞ」
またもやくっついてきそうなので、避ける。
「やっぱり、柄じゃない!」
ホークアイは叫ぶ。
二人とはきょうだいのように育ってきたとはいえ、今更「兄さん」などと呼べるか。ましてや「おにいちゃん」なんてものは問題外だ。頭領の実の子たちと拾われ子とでは根底に流れるものが違う。
「オレはいつでも『おにいちゃん』って呼んでもらってもいいぞ」
イーグルは真面目な顔で言う。さらには大きく手を広げて待ち構えている。
「遠目に見守ってくれるだけでいいよ……」
ホークアイは後退りしてこの場から逃げようとするも、ジェシカが素早く出入り口を塞ぐ。
「ホークアイ、逃さないわ。私たち、きょうだいよ。ね、兄さん」
勝ちを確信しているジェシカは力強くイーグルに同意を求める。
「そうだぞ。ジェシカ、ホークアイ!」
「二度は言わない!」
イーグルとジェシカに包囲されてはホークアイに勝ち目はない。じりじりと狭まる包囲網。
もう一度「おにいちゃん」と言うまで部屋から出してもらえなかった。
「あのとき、見守ってくれとは言ったけどさ……」
ホークアイの手には小さなオーブ。火炎の谷の奥深くに隠された宝物たち。
ジェシカのこと、ナバールのことそれぞれ心配して、最後にホークアイのこと。ここにある宝物以上に輝いていた日々をオーブに込められた思いが語る。本当にきょうだいとして受け入れてくれていたことを感じる。
「にいさんって……。バカヤロ」
小さく呟いて、やっぱり性に合わないとオーブを放り投げる。
オーブは緩やかな曲線を描き、手元に戻る。
「背中は任せた」
ホークアイは先を進む仲間の元へと駆け寄る。