拾陸 国木田に呼び出された太宰は、常と変わらずに会議室へ向かった。
それを見送る面々もまた叱られでもするのかと、やや呆れを含みつつ見送る。
「それにしてもわざわざ会議室を抑えるなんて。なにか人前では言えないようなお話なのかな?」
隣を歩く国木田に茶化すように告げると、神経質に眼鏡の弦を抑えて国木田は答えた。
「そうだな」
真面目な口調で返されて、太宰は一瞬で作っていたゆるい空気をしまう。それを横目で確認した国木田は、会議室の扉の前で一度足を止めた。
「中で、乱歩さんがお待ちだ」
「そうきたか」
引きつった笑みでそう返すと、改めて笑みを作って太宰は部屋に入った。
「花袋さんかあ。そりゃバレるはずだ」
「バレることがわかってて何を言ってるんだ」
「太宰。これは探偵社が手を出して良い案件じゃない。今すぐに手を引け」
「残念ながらそれを決めるのは私ではないんです」
「だったらなおさらだ。大事な情人は失いたくないだろう」
「乱歩さん。勘違いしないでください」
「大事な情人ではありません。情人にしているから、大事に扱っているだけです」
「お前は頭が良いのに本当に馬鹿だな」
「動くにしても社に迷惑はかからないようにします」
「お前が動く時点で探偵社には大きなダメージだ」
「それは」
「済みません」
「なに嬉しそうな顔をしてるんだ。馬鹿が」
「ここまで来てるなら花袋さんの助力を得てもいいですよね」
「俺の親友を巻き込むな」
「ハッカーとしての仕事なら断らないですよね。花袋さん」
「先払いじゃ」
「おまけとして銀ちゃんの昔の話とか聞きます?可愛かったですよ」
「特別割引価格で引き受けるぞ」
「花袋!」