拾玖 山の中腹にある軍の療養施設。
一階建てのその建物は、療養所に相応しい広さを持っており、同時に軍の保有地であることを示すかのように、高い塀とその先にある有刺鉄線にて確りと囲まれている。そんな外壁の至る所には監視カメラも設置されており、療養所というには物々しい警備体制だ。
最も、山の中腹に建てられているのだから道が整備されているとはいえ、人が迷い込んでくることもなければその不自然さに気付かれることもないだろう。
暗緑色のライダースジャケットは、夜の闇、況してや木々に囲まれていれば視認は難しい。労せず近くまで来た中原は鬱蒼と茂る木々の合間から一通り眺めた後、ゆったりとした足取りで舗装された道を進み始めた。
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