恭→ピエ ピエールが好きだ。
それはもう何度心の中で呟いたかわからない言葉で、いつか、俺はそれを口に出してしまうんじゃないかって怖かった。ピエールからの好意を感じないわけではないけど、それが同じ感情だとは言い切れなかったし、それ以前に、ピエールの幼さを考えたら、思いを伝えるという選択肢は消えていた。俺にできることは、ユニットメンバーとして、ピエールの幸せを願うことだけだと思っていた。
「恭二、この人のこと、好きなの?」
「ちがっ、……俺が好きなのは……!」
なんて、さっきまでは思っていたのに、ピエールから聞き捨てならない問いかけをされて、今では思わず言い返してしまいそうになっている。
俺は、今放送中のドラマの主演をやっていて、その相手役の女優との関係を噂されていることは知っていた。あくまで”噂”だ。その辺はみのりさんにも気をつけるように言われていて、週刊誌に撮られるようなことはない。もちろん、そんな事実もない。
それなのに、思い人にそんなことを言われるなんてなんの冗談かと思う。
「好きなのは?」
俺の気持ちなんて知らないピエールは、俺に聞き返す。俺は何も言えずに黙ったけど、きっとピエールにはその続きが伝わってしまった。眉を八の字にして、視線を彷徨わせるピエールに俺は申し訳なさと照れで顔が熱くなる。
「……ピエール、今日、俺たちの間には何もなかった。全部忘れろ、いいな?」
思いが伝わってしまった以上、もうできることは一つしかない。なかったことにする、それだけだ。ピエールは、咄嗟に何か言おうとした。でも、それは言葉にならず、しばらくの沈黙ののち、小さな声で「うん」とだけ響いた。